相棒
「私の力を知ったトト様は皆んなの前で、私の力を見せびらかした」
息吹の眼下にはクロミを取り囲み、人々が熱狂している。
「でもな、トト様は私よりも力にばかり次第に夢中になっていったんや」
髭ヅラの背の低い男が、クロミの肩に両手をかけ説き伏せている。
「お前は神に選ばれたのだ。この力で人々を導こう」
クロミは嬉しそうに息吹には見えた。
「でもなこの力を欲しがる人は、トト様が以外にもやっぱり出てくんねん」
争う人々、積み上がっっていく屍達。息吹はもう見たくなかった。このような光景をこの国に訪れてから何度見ただろう。
「なあ、お姉ちゃん。変わり果てた皆んなの姿を数珠に見せられたやろ?」
息吹はハッと振り返りクロミを見つめた。まだ少女のままだ。
「あの怪物の一部なの?……でも、クロミはもっと昔の話でしょ?おかしいよそんなの」
息吹は動揺しながら反論した。クロミは最初の贄と言ったはずだ。
「数珠はな、どこにも居場所の無かった私をあの怪物に呼び寄せたんや。眠っていた私の魂は起こされて、この倭国の現状を知った。お姉ちゃんが私を現世に戻したんや」
「でも、数珠の魂はあの兄弟そのものじゃないの?」
息吹はあの時痛めつけられた事思い出しながら、口の中がなんだか苦くなる様な気がした。
「あいつらはそう思ってるやろな。……でもな、もうあいつら消えかかってんねん。数珠の憎しみの中に。私はな、あいつらの事可哀想とは思わへん。自分で選んだ道やからな。でも、無理矢理怪物にされた他の魂は救いたいんや。それが、私の最期の役目やと思うから」
息吹はあの可哀想な怪物の姿を思い出した。七之助の家族もまだあの中で苦しんでいる筈だ。
「お姉ちゃんはな、逃げ出したりその事後悔したり、ヤケクソになったり、ホンマあほやなあって思う。あんまり見込み無さそうやなって最初は思ってた。でもな、このままじゃ倭国で戦争が始まってまう。それだけはもう勘弁して欲しいんや」
クロミの頬からすうっと涙が流れた。目は真っ黒く、口も引き裂かれている。
「もう時間が無い。私がホンマの化け物になって倭国を滅ぼすか、この国が一つになるか、時は迫ってる。お姉ちゃんお願いや。力を貸して」
息吹はこの国来てから何度も自分の選択を他人に迫られた。その度、心は無理をして承諾し、結果逃げ出したりと散々であった。だが今心に湧き上がるこの気持ちは何だろう。ふつふつと熱くて、強いものが自分の中に湧き上がるのを感じる。
「見込み無さそうって言ってるくせにさ。……人に物を頼むときは、もっと可愛げがあったほうがいいよクロミ」
息吹は最後ニヤリとした。クロミは元の少女の姿戻り、腰に手を当てはあっと溜息を吐いた。
「私らいい相棒になれそうやなお姉ちゃん。これから宜しくな!」
差し出された小さな手を、真っ白な傷だらけの手が握り返した。
ここに最も頼りない子供の同盟が組まれる事となったのであった。