子供対子供
ポツリポツリと雨は次第に強くなり、ぬかるんだ道は一行の足取りをますます遅くした。息吹は皆が背を向け、自分への警戒が薄くなってるのを確認しながら小声で、話し続けた。
「悪いけど全然覚えてない。……君は幽霊なの?」
女の子は眉間にシワを寄せて、不愉快そう返答した。
「私がお化けやって?お姉ちゃん失礼にもほどがあるわ。私は肉体を持たずとも高尚な魂を持つ人間なんやで。それに名前はクロミ。ちゃあんと呼んでくれへんと、もう無視するからな!」
息吹は、自分より小さな子供に接したことが無く、しどろもどろするしかなかった。急に現れて、馴れ馴れしくして来たかと思ったら、怒り出したり、はっきり言って未知の生物に遭遇した様なものだ。エマは同い年で有ったが大人びていたし、ジョルジュに関しては会話は殆ど皆無であった。小さな子供は自分が担当であった息吹にとってクロミは、中々扱いづらかった。
(こうしょうってなんだろ。それに肉体持たずって、やっぱりお化けなんじゃ……)
「ちょっと!頭ん中で悪口言うなんてずるいで!」
息吹はギョッとした。口に出していないのに、クロミが自分の考えてる事をまるで理解してるかのような口ぶりだ。
「君、え、あっ、……えとクロミは、私の考えてる事がわかるの?」
「それが高尚な理由や!」
クロミは自慢げに低い鼻をフフンと鳴らすと、息吹の青い目を覗き込んだ。息吹はなんだか何もかも見透かされてるようで怖くなり、神谷に助けを求めようとした。
「無駄やで!私らは現世におる様で、今魂で会話してんねんから、他の者にはなんにも分からん状態なんや。……無鉄砲かと思いきや、臆病な所もあんねんなあ」
息吹は今すぐ馬からクロミに降りて欲しかった。会ったことがあるとか、コウショウだとか、幽霊みたいなのにそう言ったら怒るし、もう変なのに関わりたくないと心から願った。
「……そんな嫌わんといてや。久しぶり話できて嬉しいだけやねん。ちゃあんと話すから」
先程から高慢な態度を取って来たクロミでだったが、息吹が自分を苦手に思い始めてるのを感じ取り、しょんぼりして見せた。
息吹はまだ気味悪さは拭えなかったが、傷つける事は本意では無かったので、恐る恐る話しかけた。
「……嫌ってなんかないよ」
「ほなよかった!ほんなら姉ちゃん口下手そうやし、私の話からしよか!」
息吹が喋るやい否や、クロミは覆いかぶさる様に口火を切り、キラキラ輝く黒い瞳で自分の生い立ちを話し始めた。
だが、それは信じられないない様な話であり、クロミが敵か味方分からないと言う警告でもあった。
これから始まる昔話……それは過去の亡者達へと続く物語でもあったのだから。