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コウテカの庭  作者: 島 アヤメ
116/139

焦土

広大な土地は、黒く焼け焦げ、生き物が焼ける匂いは一同を絶句させた。神谷に至ってはその場でもどしてしまい、他の者に背中をさすられる始末だ。瀬尾は生存者を探しその場を駆け回った。息吹は、七之助に見せられた幻影を思い出していた。


(また、こんな事が起こるなんて……)


神谷の様に吐きはしなかったものの、気分は悪くこれから起こる事に震えが止まらなかった。他の者達も苦渋の表情で、生存者を確認した。


「なんでや……」


瀬尾は眉間にシワを寄せた。奇妙な事に、死体はなく、女子供ばかりがすすり泣き、顔を真っ黒にしてただただ身体を震わせるばかりであった。


瀬尾は一人の中年の女にそっと近寄り、抱き寄せた。そして労わりながら、優しく話しかけた。


「……話したあ無いんなら無理せんでもええ。はよう馬に乗って、ゆっくり休め」


瀬尾の言葉を耳にした途端、女は年甲斐もなくワンワンと泣き出し、瀬尾の肩に爪が食い込むほど掴みかかりながら、嗚咽混じりで喋り始めた。


「ひいいひっ………カシラあ……死神がきたんやあ。……ひっ、ひっ……その男はとてつもなく綺麗やった。ほんで……ひっ、ひっ……シシドの首を……なんの迷いも無くはねおったんや!!ひっっひっ……真っ黒いかっこした不気味な奴らがなんもかんも焼いて………っひいひい、男達を全員連れてった!!もう……ひいっひいっ……うちらは終わりや!!なんもかんも焼けてしもうたんやからあああああうわああああ」


女は最後の方は髪を搔きむしりだし、天に向かって何故こんな無情な事をしたのかと訴えんばかりであった。瀬尾は、後方に仕えていた者に目配せし、馬に乗せる様指示した。他の女子供達も、支えられながら、フラフラと馬に乗り皆この焼けただれた大地から目を背けた。


息吹はぼんやり立って、何も出来ず今どうしてこの場に自分がいるのか分からず困惑していた。幼い息吹にはまだ、相手を労わる余裕はなく、この無情な光景が自分のせいで起こっていないようただ祈るばかりであった。


ふと横を見ると、眼を真っ赤にした神谷が青ざめて、自分と同じ様にぼんやり皆が馬に乗せられるの眺めている。たった少しの時間で神谷は幾分歳をとった様に息吹には感じた。


「……お兄……さん……」


息吹は掠れた声で、神谷に話しかけたがまるで聞こえないようで、虚ろな瞳は只、宙を眺めていた。


息吹はなんだか悲しくなり、腕を失った頃の先生を思い出していた。唯一頼りにしていた大人が、今また、崩れかけていくのを息吹はヒシヒシ感じた。


「おい」


瀬尾が子供を前に乗せ、馬上から2人に声をかけた。神谷はゆっくり、瀬尾に顔向けた。息吹から見える頭部はモジャモジャで多少白髪が混じっている。


「今の所死亡を確認したのはシシドだけや。……確かに最悪の状況や。でもまだ俺はあんたを見捨てん。取り敢えず今は、怪我しとるもんの手当てがしたい」


瀬尾は最後の方は、神谷の方を見なかった。息吹にはそれが少し素っ気なく見えた。



モジャモジャ頭はゆらりと揺れてうなだれたあと、苦々しく返答した。


「近くに今は使われていない城がある。……俺の近しい者しか知らない城だ。少しの間なら身を隠せるはずだ」


息吹は2人の間に流れる今まで無かった空気を感じ、悲しかった。だが自分は部外者だと言う逃げの気持ちから気づかないふりをしようとした。



「日没までには着いときたい。ちんたらせんとはよ馬に乗れ」


瀬尾は背を向け2人から離れていった。あれほど激昂していた瀬尾であったが、現状は想像より遥かに良かった。悲しみにくれる仲間達には申し訳なかったが、正直皆殺しを覚悟していた瀬尾は今の状況にホッとしていた。


「……息吹……悪いが後ろに乗せてくれるかい?馬は足りなさそうだからな……」


しおれた神谷は弱々しく息吹に頼み瀬尾の後を歩いていった。




シトシト焦げ臭い雨が降り始め、息吹の頬を濡らした。


風はなく、淀んだ空気が辺りにたちこめている。


ぬかるんだ土をヨロヨロと息吹は歩き出した。









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