言い訳
「ハア……倭国が……ハア……倭国が今平和であれるのは……ハア……この数珠のおかげだ……誰にも文句は……言わせん」
倭国に悠然と立つ神の御使いから、今の帝の姿は程遠かった。ただ怯え年老いた男は、数珠にしがみつき、己がした罪から逃げ、正当性を訴える事でしか生きて居られなかった。
「……それが本音か。あんたにも人間らしい所はあったんだな」
尊治は怯える男に対し、意外な言葉を放った。帝は充血した眼を見開き、自分の息子の姿をまじまじと見た。あいも変わらず美しい姿があり、そこのみ時の流れが止まっているようで、近くに居るのにまるで遠い世界に居るように感じた。
「我は……我は……天から与えられた才能があったのだ……倭国を1つにするのは我の使命であったのだ」
男は懇願するように尊治に言い訳した。自分が行った事は正しかったのだと、尊治の口から聞きたかった。
「そうだな……あんたの法力の才能は天から与えられたもんだった……俺の一族と対峙する事はサダメだったのかもしれない」
男のシミだらけの頬にスウっと涙が一雫流れた。震える拳を握りしめ、大声を上げて息子を抱きしめたかった。
尊治の長いまつ毛の下に光る瞳は憂いに満ち、自分を哀れんで居るのが伝わった。初めて、息子が自分への感情を覗かせた事は、帝の心を震わせた。
「我と共に歩んでくれ尊治……そなたを心から愛しておる……父を……支えてくれ」
震える唇からは、微かな声出てきた。尊治の瞳から憂いの表情は消えなかった。だが、帝の願いを尊治は聞き届ける事は出来なかった。
「あんたを哀れに思う……だが、俺はこの道を進むと決めたのだ。最後の情けだ……数珠を取れ」
黒子の男達は、美しい青年の後ろ姿を凝視して居た。今から、親子同士の殺し合いが始まる。自分達が望んだことであるのに、彼らは青年を哀れに思った。
ーーーーー男は理解しなければならなかった、自分が呪われた帝と言う立場である事を。