愛おしき家族達
ゆらりゆらりと回廊を歩きながら 、相良は障子から顔を出した。黒子の男達は膝をつき頭を垂れて、相良が待ちにまっていた朗報を伝えた。
「尊治様が兵をあげられました。……帝に謁見を申し立てられた模様……恐らく交渉に入られると思いますが」
半円の口はニュルと伸び、赤い唇からは嬉々として、言葉が出てきた。
「思うた通りじゃの……」
相良は相変わらずユラユラ揺れながら、男達の周りを歩き1人思案を始めた。
(あやつは神谷の背後に備える兵達を一番危惧しておる……神谷が叔母上の所にそいつらを連れて行くのは分かっておった。あの子供がもし暴走すれば神谷1人ではなにもできんからな。あやつらを連れて行かないわけがない。)
相良は白いお面の様な顔で部下達を1人1人、じっとりと眺めた。どの男も、倭国で追いやられたいわくのある者達ばかりだ。
(……我が思うた以上に尊治は早く動いた。あの子供、もしや口を割ったか。だが結果的に私の思い通りに事は運んだのだ)
「手筈通りに事を進めよ」
「御意」
黒子の男達は短く返事をし闇の中に姿を消した。
(いつもならあの長身女が、こちらにも目を光らせているのだが、やはり手薄だな……父上の下まで尊治は、あの殺し屋どもを連れて来た……くくく)
雨上がりの夜空で、大きな満月が明るく空を照らしている。相良は空を仰ぎ、愛おしそうに月を見上げた。
「父上せめてもの情けでございまする……」
(愛しき息子に葬られれば、苦しみからも解放されましょう)
「ははははっっはっ……はははははっははは」
相良は笑いを堪えきれず遂に声を上げて笑い出した。暗い城内でこだまする相良の声は、不気味に響き渡り、月で照らされた夜空には相応しくなかった。
「さようなら。……私の愛しき家族達よ」