9話 馬肉げっと☆
“新しい家畜だよ、愛情一杯にお世話してね☆
シルクスパイダー(1)
名前:《名前を決めてね!》
3日に一度、一玉絹糸を採取出来る。
食事:超雑食 1日 2㎏×3回の食糧が必要”
端末に浮かぶ文章を読むと思わず、ため息が出た。
いや、愛情はもてないから。
心の中で突っ込む。
悪いがあの蜘蛛に愛情を持つ日は、永遠にこない。
無理なものは無理なのだ。
あの後、私はカルナにシルクスパイダーを運ばせると、村の端の端に小屋を作ってそこで飼育させる事にした。
しかも、雑食で1日6㎏って……この蜘蛛、人間を襲う事もあるのではなかろうか……?
こわっ! 蜘蛛こわっ!!
……カルナ、食べられないようにしろよ。
何だか、異世界の闇を見た気がした。
「……まぁ、雑食なら村の生ゴミとか残飯で事足りるだろうし、蜘蛛の事は暫く忘れよう……」
私は名前の欄に雲と打ち込むと、タブを閉じて野菜や果物の収穫を始めた。
虫はカルナに任せておけばいいんだ。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
そしてその3日後、私は妖精達と村近くにある草原へとハイキングに出掛けた。
今日は久々のオフなのだ。
「♪~♪~~、あーやっぱ、閉じ籠ってないでたまには外の空気吸わなきゃだねー♪ ん、この位離れればいーかな?」
私は鼻唄をしながら、誰も見ていないのを良いことに時折スキップしてみたり妖精とくるくる回ったりと外を満喫していた。
村人が働いてる中、村の中を散歩するのは気が引けるので村から出て少し歩く事にしたのだ。
勿論、これは息抜きだけでなく、別の目的もある。
「さて、村の様子はっと……うーん、ぱっと見変わりない?」
私は端末を操作して、村の様子や家畜、作物を観察した。
今回の遠出の目的の1つは実験だ。
私が村から離れると、その力は失われるのかどうなのか。
作物は枯れるのかどうなのか。
「後確認するのは、直接操作出来るのか……出来る。普通に操作出来るな、これ」
私は画面上に指を滑らせて、種まきや水やり、収穫や収納が出来るか確認した。
結果はいつも通り、これで私が村を離れても遠隔で操作出来る事が分かった。
距離が近いからってだけの可能性もあるけれど……遠隔操作出来るなら、そのうち村を出て国中を観光してみるのもありかもね。
別の場所に土地を買って、もっと庭の規模を大きくてもいいだろう。
何にせよ、行動の幅が広がるのは良いことだ。
折角の異世界、田舎の村で閉じ籠ってるのは詰まらない。
「私、週に1回は外に出たいんだよね♪」
前世では家大好きッ子で家にいる時間が長かったが、それでもたまには外へと足を運びたくなる時もあった。
あの村には圧倒的に娯楽が足りない。
基本引きこもり気味な私にも、たまには刺激が必要なのだ。
そうして暫く歩いているうちに、半径五十メートル程の湖にたどり着いた。
湖の水はとても澄んでいて、私が村にギフトで井戸を設置するまで村人達はここに毎朝汲みに来ていたらしい。
畑用に雨水などは溜めていたみたいだが、流石に飲み水として使うと体を悪くするからだ。
「と、いっても前世の感覚を持つ私からすると、湖の水もヤバいと思うんだよ」
なんせ、生水だから。
ろ過してからじゃないと、お腹壊しそう。
まぁ、前の私は飲んでいたんだけれども。
湖のすぐ傍にまで来ると、水を司る妖精だからか藍花が水面をパシャパシャと楽しそうに跳び跳ねる。
魚がいないか水底を覗いてみるが、魚らしき影は全く見当たらない。
この湖には、もしかしたら魚はいないのかもしれないし。
まぁ、居たら村人に狩り尽くされてるよね。
魚……刺身食べたいなぁ。
確か、池はゲーム内で設置出来た筈……買ってみようかな。
オマケで魚が付いてくるかもしれないし。
「さて、もう1つの目的も果たさないと、っと……」
私はまた端末を取り出し、そこから麦の種を取り出した。
麦が一番収穫スピードが早いのだ。
その種を一粒とると、地面をに穴をあけてそこに埋める。
「うーん、こっちは育たない上に端末にも表示されない……特に明確な所有者がいなくても、私の庭扱いにはならないか……庭の条件は大多数に所有権を認められる、とかかな?」
誰も住んでない森を私物化する、とかは無理そうだ。
私は端末をしまって、ごろんと横に寝そべった。
「ぅ、ふぁーぁ……ねむ……」
今日は天気もよく、お昼寝日和だ。
ぼうっと考え事をしていたら、段々と瞼が重くなってくる。
「ちょっと、寝るかな。わんわん、一応警護を頼むよ……」
端末を出してわんわんを目の前に出すと、私は重くなった瞼を閉じた。
危険がないので子供でも水汲みに来るようなところだが、一応女の子だからね。
無防備はいけないのだよ。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆
わんわんっと、警護を任せていたわんわんの鳴き声にはっと目を覚ます。
陽はまだ高く上っており、それほど時間は経っていないように思える。
私はすぐに立ち上がると、声のした方向から距離を取って構えた。
危険はないんじゃなかったのっ!?
カルナめ、騙した……な?
「え、馬?」
後でカルナの仕事を倍増してやろうと心に決めたところで、敵の正体に気付く。
馬だ、白い馬。
いや、異世界仕様なのか頭に角が生えているので、厳密には普通の馬とはちょっと違うが。
『何っ!? 我を家畜扱いするとは、無礼な小娘めっ! よく見ろ、我のこの純白の美しい毛並み、そして高貴なる角をっ!! まるで、違うであろうがっ!』
私の呟きに、馬もどきがわんわんにのし掛かられながらキレた。
「いや、そんないきなりキレられても……」
違いとか興味ないし。
でも、何かこういうの見覚えあるかも……確か──
「ユニコーン、だっけ? 翼ないし」
翼があるのが、確かペガサスだった筈だ、多分。
『そう、我は誇り高きユニコーンっ!! 乙女よ、そうと分かれば早くこの犬畜生をどけよっ!』
馬は私に怒りをぶつけて、わんわんをどけるよう命じた。
あはは、そんな無様な格好で偉そうにされてもね。
誇り高きって……ぷぷっ!
おかしかったので、馬に近寄ると何となく足蹴にしてみた。
「うんうん、そっか。ユニコーンね。それより私実は馬肉って好きなんだよね。馬刺しっ美味しいよねっ♪」
そう言えば丁度刺身が食べたかったので(魚だけど)、持って帰るのもありだろう。
村人達に捌いて貰おう。
醤油やわさびもあるので、臭みも消せるたろう。
じゅるり、と涎が口内にわきあがった。
『な、ななっ、我は誇り高きユニコーンぞっ!?』
馬は私の言葉が本気だと分かったのか、怯え始めた。
だが、私は食糧にかける情はない。
馬には、馬肉と化して貰う。
『ま、待て我は役に立つぞ! 乙女よ、我は馬などより遥かに早いし毛並みも美しいっ、む、ぅ、それ以上血走った目をするでない!』
「うんうん、美味しく私の血と肉になるしねっ♪」
さてさて、どうやってもって帰ろうか?
わんわん達に運ばせるか。
アイテムボックスには生きたままは入らないしなー。
『だ、だから、我を食べる事から離れるのだっ! な、何なのだっ! 我はユニコーンぞっ!? その我を馬扱いし、ましてや食べるなど、、そんな者聞いたこともないわっ!!』
「なら、私がその第1号だね。何事も初めはそういうものだよ、そのうちデフォになるって」
直で仕留めるのは流石にグロいから、やっぱりわんわんに運んで貰うのがいいかな?
『わ、我を食べても美味しくないぞっ! な、何でもする、何でもするから命だけはっ!!』
《ピコーン! ユニコーンを入手したよ!》
馬の決死の命乞いの後、端末から軽快な音が聞こえる。
お、これはまさかの馬肉収穫し放題かっ!?
私の庭には中々夢がある模様。