8話 リアルな虫はちょっと……
「はい、朱花。あーんっ」
ある日の昼下がり、私はベッドに寝転びながら手のひらサイズの可愛らしい妖精に好物の苺をフォークに小さく切って口に運んだ。
3頭身程の体長と真っ赤なショートカットの髪、そして髪と同色の羽が特徴の妖精は、前世で私がゲーム内で入手したものだ。
他にも青髪の藍花、金髪の陽花、緑髪の翠花の4匹が私の庭にはいる。
わんわん同様まんまの名前だけど、これはしょうがない。
私はこのゲームで友人とフレンド登録をしていた。
カッコつけた名前とかにすると、滅茶苦茶恥ずかしいのだ。
故に、適当につけましたアピールをする必要があった。
因に、この妖精はかなりのレアで入手するには、ある程度ゲームを進めると庭に設置出来るようになる鉱山から採取できる超レア鉱石が必要になる。
その鉱石をアクセサリーに加工して身につける事で妖精と絆を結べるのだが、妖精はお手伝いだけでなくその種類によって庭に様々な効果を与える事が出来るのだ。
朱花は炎を司る妖精で、持っていると季節に関係なく一年中自由に作物を育てて収穫出来る。
藍花は水を司る妖精で、持っていると作物の成長や家畜から畜産物を採取出来るスパンが更に早くなる。
陽花は金を司る妖精で、持っていると鉱石の品質や採取できる量が上がる。
翠花は緑わ司る妖精で、持っていると庭で育てている作物の品質が上がる。
と、いうように持っていると何かと役立つハイパーな妖精さんなのだ。
対価もそれぞれの好物を毎日渡すだけなので、それほど手間もかからないので家計にも優しい。
「ん? 何? どうしたの?」
苺を食べ終わり満足したの朱花は、私の指を摘まむと部屋の外へと引っ張ろうとした。
「外? ……に、行きたいの?」
こくこくと私の質問に頷く真っ赤な妖精。
何だか可愛くて癒される。
「何か見つけたのかな?」
私は何も知らずに、機嫌よく朱花の後ろをついて外へと出た。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「⎯⎯え? 何ソレ?」
私の目の前には、今予想外の光景が広がっている。
朱花に着いていった先に、残りの妖精達もいた。
何か20㎝程の青黒い物体を取り囲んで。
「ぅ、うわっ!!? え、ソレ虫じゃない? え、キモい、キモいんですけどっ!!??」
青黒い物体の正体は、虫だった。
しかも馬鹿デカイ蜘蛛。
「ちょ、ちょっとまじで無理っ! こっちに近付けないでっ!!」
しかし、妖精達は私の反応が理解出来ないのか蜘蛛の足をむんずっと掴むと、私の方へと持ってきた。
いや、そんな不思議そうに首を傾げられてもっ!
確かにゲーム内では害虫駆除をする事もあるけれど、それはゲームだからっ!
デフォルメされてますからっ!!
ゲームやアニメ、アクセサリーのモチーフとしては虫は可愛いのもあるとは思う。
けれど、魂は30オーバーだとしても、私は身も心も女子なのだ。
確かに前の私は食うのに困って雑草以外も……うぅっ……思い出さないでおこう。
兎に角、貧困生活で色々捨てたものもあったが、今はリアルな虫は絶対NGなのだ。
「あれ? クレイ様? こんなところで何してるんですか?」
緊迫する状況の中、カルナののほほんとした声が背後から聞こえた。
「良いところに来た、カルナっ! 早くその蜘蛛を村の外に捨てて来てっ!!」
私はたまたま通りがかったカルナを盾にして、蜘蛛の方へと押し出した。
「え、蜘蛛? あっ、すげぇっ流石クレイ様っ! これ、シルクスパイダーってやつじゃないですかっ? こいつの糸ってすんごい高級品なんでしょ? 次はこれを村で生産していくんですかっ!?」
けれど、私の訴えも虚しく、カルナは捨てるどころかキラキラとした目で蜘蛛を見つめた。
そんなカルナの様子に、妖精達も胸をはって誇らしげである。
いや、生産するなんて言ってないからっ!
てか、何シルクスパイダーって!?
絹って事っ!?
まんまな名前だなっ!!
巨大蜘蛛にこの対応。
異世界の価値観に私はついていけそうにない。
「やりましたね、クレイ様。これでもっと稼げますよっ♪」
カルナは特に悪気なく無邪気な笑みを浮かべた。
え、それ私が金に汚いって遠回しに言ってるの?
……もう、そこまで言うならいいよ、私は心を鋼にして金を取るよっ!
ただし、直接の面倒はお前が見るんだからなっ!!
私は絶対に触らないぞっ!
て、おい近寄るなっ!
まじで無理っ!!
《ピコーン! シルクスパイダーを入手したよ!》
軽快な音ともに私の端末には、デフォルメされた可愛い蜘蛛のアイコンが浮かび上がっていた。
次は馬肉の話。