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M・P・G ~私の庭に死角はない!~  作者: 皐月乃 彩月
二章 大農園主になったようです。
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5話 世の中そんなに甘くない

 

唐突だが、このM・P・Gは只ひたすら生産するゲームではない。

飽きさせない為か、外敵なるものが存在する。

通常は猪やら狼やらの獣で、襲来されると畑が食い荒らされる。

もし、最高品質の作物が喰われた日には……ゲームとはいえ、殺意を覚えたものだ。

だが、プレイヤーもやられてばかりではない。

対抗策は勿論ある。

その対策の1つに犬型ロボットというのが、ゲーム内で購入出来る。

私は庭の自衛にこのロボットを採用していて、わんわん4号~8号と名付けて庭を守らせている。(名前は適当につけたので、特に深い意味はない)

1号~3号が抜けてるのは、外敵に破れて壊されたからだ。

猪や狼は敵ではないが、時々理不尽な強さのやつが庭を襲ってくるのだ。

あの時、私は畑だけでなく工房までも破壊された……あれだけは絶対に許さない。


ところで、何故急に私がこんな話をするのかと言えば⎯⎯⎯


「貴方運がいいね。私が設定を生け捕りにしてなかったら、貴方はわんわん達に八つ裂きにされてたよ」


猪や狼は食肉にしたり餌付けしてペットにも出来るから、私はわんわん達の設定を排除ではなく生け捕りにしていた。


「く、っそ離せっ! こんな意味の分かんないもの使いやがって!!」


私の前には今、わんわん達に捕獲された小汚ない少年が横たわっている。

その顔は前の私の記憶に覚えがある、近所に住む糞ガキだ。

前の私はコイツに何度も苛められていた。

そして今朝、この糞ガキはワンワン達に引き摺られて私の前に差し出されたのだ。


「離せって……いや、普通に他人様の家に入り込んで食べ物を盗もうとした泥棒を捕まえただけなんですけど? 当然でしょ、離せとか何頭のおかしい事言ってんの?」


そもそも私の庭に勝手に侵入し財産を奪おうとした盗人が、何故私に偉そうな口を聞いてるのか意味が分からん。

……今からでも設定を排除に変えようかな?

正当防衛で通るよ?……多分。


「お前っ! 今村がどうなってるのか分かってんのかよっ!!? 皆食う飯もなくて、働けない子供やじいちゃんばあちゃんは、間引くって言ってるのに……お前は何でそんな綺麗な服を着て、食べ物もあんなに、あんなにあるのにっ!!」


糞ガキが怒りや憎悪を持って、私に吠える。

確かに村は今困窮しているみたいだ。

元々痩せた土地、大した収穫量はない。

そのわりには土地にかかる税金は高く、豊作の時も凶作の時も変わらない固定制。

当然、村はいつでもギリギリの生活だ。

そして記憶にある少年の顔より、痩けて今にも倒れそうな程顔色も悪い。

私が記憶を思い出してから数ヵ月。

家の敷地外には一歩も出なかったので知らなかったが、どうやら私のいる村は危機的状況にあるらしい。


「ふーん、で? 何?」


確かに客観的に見れば、村の住民は可哀想だ。

けれど、それがどうしたと言うのか。

こいつらは、自分が過去にした事を覚えていないわけ?


「でって、お前っ!! おれの、俺の妹だって小さいから次に商人が村に来たときに、奴隷として売られてしまうんだぞっ!!? お前が食べ物をこんなに持ってるなら、村の皆生きられるっ!! 皆苦しまずに済むんだっ!!」


「へぇ、妹が売られちゃうんだ。可哀想だね。でもそれって私には関係無いよね?」


まるで私が村の人間を殺そうとしてるかの言い方に、眉をしかめる。

妹や弱い立場の人間を切り捨てる決断をしたのは、糞ガキの親や村の大人達で私には一切関係無い。

親切は尊いものだけど、無くて当たり前のもの。

他人の親切をあてにして、無かったらキレるとかないわ。


「関係無いって、お前なら助けられるだろうっ!!?」


私の主張に、糞ガキは更に怒りをヒートアップさせた。

眼も血走っていて何だかキモい。


「つまり、私に何のメリットもないのに食べ物をよこせと言っているの? ⎯⎯私達の時は助けてくれなかったお前らを?」


先程までの明るく話していた声が、急に低くなってしまったのが自分でも分かる。

だが、糞ガキの自分達ばかりに都合のいい要求に虫酸が走って、もう我慢出来なかった。

確かに目標は遠退くが村を援助する事は出来るし、私も鬼ではないから前世そういった状況にあったのなら手を差し伸べただろう。

だが、私には前世の記憶だけでなく前の私の記憶も残っているのだ。

前の私が苦しい時にはその手を払い除けたのに、自分達の時はそれを要求するなんて道理が通らないと思う。

私と前の私は違う。

だから、積極的に死に追いやろうとは思わないけど、別に救おうとも思わない。

それだけの話だ。


「っ!? 別に、あれは……皆貧しいんだ。余所者を助ける余裕なんて、村にはないから仕方な、ぶっ!?」


少し気まずそうに言い訳を並べていた糞ガキをワンワン達に命じて、外に放り出す。

私はそんな言い訳を聞いてる程、暇ではない。

生産に忙しいのだ。


これは再現。

前の私が村の家々に薬や食糧を無心した時、頭を下げる前の私を村の奴等は時には暴力で追い返した。

だから、この糞ガキにも同じことを仕返した。


「はい、ばいばーい。2度と来ないでね?……次は容赦しないから」


お前達が滅びるなら、それはお前達自身の優しさや慈しみが足りなかったから。

もし、お前達の誰か一人でも前の私に手を差し伸べていたのなら、私もお前達に手を差し伸べたと思うよ。

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