4話 異世界生活もチートで楽勝ですよ?
熱々に煮込まれたスープからは、湯気が立ち上ぼり部屋の中を香ばしい匂いで満たしていた。
「うんまっ、まともな料理とか本当何ヵ月……いや、何年ぶりだろう……駄目だ、過去を振り返ると悲しすぎて泣けてくる」
私はあの後、料理用の工房を家の敷地に設置して、収穫物をその機能で調理した。
ついでに今まで住んでいたボロ屋を、ゲームで持っていた家に替えた。
すきま風や雨漏りが、半端ないから!
女の子だし、そんな所にいつまでも居たくないよねっ☆
因みに工房と言っても、前世ろくに料理などした事のない私にも優しい全自動式だ。
必要な食材を指でちょちょいと、入れるだけでいい。
「これならいけるいける! 問題は庭が狭い事だけだし」
私は当初ゲームの中の仮想空間で栽培されていると思っていたが、実際は違ったようだ。
先程外を窓から覗いたが、そこにはゲーム画面と同様の景色が広がっていた。
即ち、雑草畑がなくなって、色とりどりの野菜が並ぶ野菜畑に変わっていたのだ。
ゲーム内の庭と現実は連動している。
その時は、へーそうなんだ位にしか思わなかったが、そこには弊害があった。
M・P・Gはタイトルからも分かるように、自らの庭で自由に生産を行うゲームなのだ。
よって、私は私の所有している土地、今住んでいる土地の中でしかギフトを行使出来ない。
田舎のせいかそれなりの広さはあるが、以前私がゲーム内で持っていた土地とは比べるまでもなく狭い。
なので、工房等の建物や作物を育てる土地も現在不足している。
「お金もないし、ひたすらプレイするしかないか……」
私はフカフカのベッドに寝転がり独り言をぶつぶつ言いながらも、指を動かし続ける。
種蒔きから水やり収穫を秒単位分単位で繰り返し、必要な食糧以外はゲーム内のお金に変えていく。
そのお金で必要なアイテムや、異世界でも高値になりそうなものを買うのだ。
アイテムボックスにある限り、食べ物やそれらが劣化する事はない。
私は必要な物を用意したら、この村を出ていくつもりだ。
そして、大きい町の隅に広い土地を買って、自分だけの庭を作ってひっそりと暮らす。
私はその目標の為に毎日の殆どをゲームに費やし、寝ている間も契約している妖精に手伝いをしてもらい効率よく生産した。
あっ、指がつりそう……画面も最初は大きくて良いかと思ってたけど、片手に収まらないから手も疲れてきたな……スマホサイズにならないかな?
「まさか、異世界で腱鞘炎になるとは……」
それでもやるしかない。
目立ちたくないなら能力は多用しない方がいいのかもしれないが、快適な生活は捨てたくない。
町に出た方が、娯楽も沢山あるだろう。
現代っ子に只ひたすら作業するとか、つらすぎる。
休みの日には、本を読んだり舞台を観賞したりと豊かな生活をしたい。
だから、豊かな生活を目指しつつ、出来るだけ面倒事は避ける。
これに尽きる。
「生き抜いてのんびり楽々生活をおくるぞー!」
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1日で何度も命の循環が行われる庭は、かつてと違い緑の生命力に溢れている。
その隅には小さな墓標が建てられていた。
それはかつての少女が愛した人の墓標であり、かつての少女の墓標。
生まれ変わった少女は、ただ前を見て進む。