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M・P・G ~私の庭に死角はない!~  作者: 皐月乃 彩月
六章 終わり良ければ全て良し、なんです。
27/29

27話 王子様は白馬には乗らない。

 

迫り来る掌がスローモーションに見える。

まるで走馬灯だ。

流れる時間は遅いのに、身体は全然自由に動かない。

対抗する前に、この手は私に触れる。

急に自分の身体が氷ったように冷たく感じた。


”魅了のギフト“


アドルフ殿下によってたった今明かされたギフト。

その力がどれ程のものなのか、私には分からない。

よくあるゲームの能力みたいに、人に好かれやすくなる程度のものなのか。

いや、それは希望的観測だろう。

アドルフ殿下はそうは言わなかった。

アドルフ殿下の口振りでは、洗脳に近い能力だと推測出来る。

私にとって絶望的過ぎる。


私は……これで終わり?

捨てられ薄幸少女から、今度はこの変態の愛玩人形になるわけか。

何て詰まらない人生なんだろう。


瞼に影が落ちた瞬間に感じたのは怒りだった。


こんな未来の為に私は()の私になったわけではない!

私はもう選んだ。

その相手はアンタじゃないっ!!


そう思ったのと同時であった。

私に触れようとしていた手が弾かれて、腰に手が回って後ろへと引寄せられた。

ぽすり、と自重を支えきれずに傾いた身体が誰かの胸に寄りかかる。




「……王子、様?」


私を抱き寄せた腕の持ち主は王子様であった。

ここまで来るのに走ってきたのか、額にうっすらと汗が浮かんでいる。


「すまない、クレイ。遅くなった!」


王子様はそう言って、私を抱く腕の力を強めた。

王子様のどくどく脈打つ心音を聞いて、冷えきっていた身体が暖かくなる。

王子様が此処に来たのなら、もう大丈夫だ。


「気安く触らないでくれます? 私は貴方のだーい好きなあのゴリラと違って尻軽じゃないのでっ!!」


王子様の腕の中から私は、アドルフ殿下を真っ直ぐ睨み付けて言い放った。

形勢が変わった途端偉そうだなとか、そんな声は全く聞こえない。

これだけは言っておきたかったのだ。


「レダート……お前は何時も何時も俺の邪魔ばかり…っ」


ギリ、と音が聞こえる位に歯を噛み締めて、アドルフ殿下は暴言を吐いた私ではなく王子様をい殺さんばかりに睨んだ。


「俺の力は理解しているな? 理解出来る頭がまだあるならさっさと失せるがいい」


王子様のその言葉とともに、周囲一帯に圧力がかかる。

王子様の力だ。

これでアドルフ殿下のギフトは使用出来ない。


「……チッ」


忌々しそうに舌打ちすると、王子様に払われた手を引いた。


「……あぁ、それと陛下がお前を呼んでいた」


すぐに戻った方がいいんじゃないか?、と王子様が告げると、アドルフ殿下は最後に王子様を睨み付けて踵を返した。

私と王子様は黙ってその姿を見送った。


が、私としてはやられっぱなしではあるので、思わずアドルフ殿下の後ろ姿に向かって親指をしたに向けてしまった。

まぁ、此方を見ていないしセーフだろう。


「無事か? 怪我は……なさそうだな。間に合ってよかった、クレイ」


私の無事を確認すると王子様は安堵の息を吐いた。

続いて、私の行動に対して苦笑いを。


「えぇ、無事です! 今日の王子様は私にとって白馬に乗った王子様でした!!」


これで本当に白馬に乗っていないのが残念だ。

今からでも、白馬の代わりに馬肉……は、駄目だな。

あんなセクハラ常習犯な駄馬に乗っていては、締まるものも締まらない。


「ところで、どうして私の居る場所が分かったんですか? 凄いタイミングでしたよね」


「一応、私は本当に王子なのだがな。クレイの危機を察する事が出来たのはシリルのお陰だ。あいつがクレイの危機を予知したから、ギリギリで間に合う事が出来た」


後でクレイからも礼を言っておいてくれきっと喜ぶ、と答えた王子様に、そう言えばショタのギフトはそんな能力だったと、私は眼を瞬かせた。


何時もは余計な事ばかり言うショタだが、たまには役に立つという事か。

今回の手柄で過去の数々の悪行を水に流してやらない事もない。


「酷い言い様だな。本人に言ったら否定するだろうが、シリルはクレイの事を随分と気に入っているぞ。普段あいつが他人に突っかかる事なんてないし、本当に嫌っている相手には表面上笑顔で接して後から徹底的に報復するからな」


私の心の声が洩れていたらしい。

王子様がそうこっそりと教えてくれたが、それは無いだろうと私は胡乱げな目で見返した。


寧ろ嫌われている気がする。

やたらと絡んでくるし、元妹に絡まれた時は私を見捨てて高みの見物をかますし。


「まぁ、あいつもああ見えて色々抱えているからな……」


そう言って私の頭をぽんぽんと撫でる王子様に、何となくムッとした。

私よりもずっと長い付き合いである2人の間には、確かに通じ合うものがあるみたいだ。

それが少し気に入らなかった。

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