2話 雑草扱いとか……
「うわ、異世界って……まじかー」
私は誰もいなくなってしまった部屋で、1人呟く。
いや、まじで。
普通信じられる?
異世界って……しかも、ここって魔法=ギフトなだけで割りとよくあるファンタジーな世界と変わらないし。
「しかもギフト名、M・P・Gって……アレの事だよね、てかアレしか思い浮かばないんだけど」
私は前世、地球で生きていた頃は日本で大学生をやっていた。
因みに女子大。
まぁ、それは置いておくとして、私は移動時間や暇な時間によく携帯でゲームをして遊んでいた。
そのゲームの名前が“My・Product・Garden”
略してM・P・Gだ。
このゲームはその名の通り、様々な物を生産するゲームだ。
作物の種を作って、植えて、育てて、収穫する。
牛や豚、羊などの家畜を育てて、食べ物や服などに加工する。
簡単に言うと、このゲームの趣旨はそんなもんだ。
「“M・P・G”起動……って、本当に出たよ」
試しに半信半疑で言ってみただけなのに、私の手元に前世で売られていた液晶タブレットのようなものが現れた。
「しかも、スマホサイズじゃなくて液晶大画面のタブレットとか……まぁ、大画面でゲームした方が見やすくていいけど」
30㎝×20㎝位でアイスブールーのボディは、片手では持てないのが難点だが画像は滅茶苦茶綺麗で使いやすそうだった。
「けど、能力が判明したからって、これじゃあ食べてけないよね……」
前の私の記憶は私にも受け継がれている。
そして前の私が拒んだように、私になった今でも実の父親を頼る選択肢は存在しない。
だってあの脳筋、クズだもの。
虐待されるか、どっかのキモいおっさんに売られて嫁がせたりしそうだし。
「あんな家いたら虐待どころか殺されそうだしねー、あぁこういう転生ものってチートがあるのが、テンプレなのになー……ゲームじゃ、ご飯食べれないしなぁ……」
私はぶつぶつ独り言を言いながら、端末をいじる。
こんな状況なのだ。
独り言が多少多くても、仕方ないだろう。
ご愛嬌だ。
画面には、M・P・Gのログイン画面が表示されていた。
私はいつものようにログインボタンを、指で押した。
「おっ、おーっ! データ残ってる!!」
現実逃避なのか何なのか、私はやり込んでいたゲームのデータが残ってた事にテンションを上げた。
やり込んでいたデータが水の泡となっていたら、ショックのあまりタブレットを床に叩き付けていたと思う。
本当によかった。
壊れたら……ギフトだから壊れないかもしれないけど、まぁ勿体無いし。
「いでよ、我が庭! ……って、あれ?」
データが残っている以上、前回のログアウト時から変わらないかと思っていたら、いつもと画面の絵が違った。
私の庭、持っていた土地には、沢山の畑や果樹園、工房が建ち並んでいたがそれがなくなっている。
明るくファンシーで緑一杯だった背景も、なんだか寂れて雑草だらけの中にボロ屋が一軒と変わっていた。
「ん、んー? アイテムは残ってるのに、何でだ?」
やっぱり、データが飛んでたのかとびびったが、アイテムや工房などの施設も庭に配置してないだけで、ボックスにはしまってある。
なのに、私の所有している庭ではなくなっていた。
ついでに溜め込んでいたお金も無くなっていた(泣)
バグかとも考えたが、この寂れた景色にはどこか見覚えがある。
そう、どこか……見慣れすぎて、気にもとめないような……
「このボロ屋……家じゃね? てか、この枯れかけてる雑草って前の私が何とか育ててた食糧じゃね? ……うわ、ないわー」
ゲームでは邪魔だし、他の作物の品質が落ちるから処分してた代物だ。
勿論、抜いても金にならないし、食べ物枠でもない。
「よく食べてたな、前の私。てか、あれだけ頑張って育ててた食糧が雑草扱いとか泣けるわ。前の私の記憶だと、伯爵家の娘でまぁまぁお金持ちの筈なのに……」
前の私は、わりと歴史ある伯爵家で比較的金にも困ってない家だった。
きっと半分だけ血の繋がった妹は、毎日贅沢三昧している事だろう。
そう考えるとまじで腹立つ。
それに比べて、私は痩せ細り髪はパサパサ。
手も水仕事や畑仕事で、あかぎれが酷い。
……まぁ、畑じゃなくて雑草畑だったのだけれど。
「それに雑草畑だとしても、食べるしかないんだけどね。死にたくないし、他に食べ物もないし……」
ぐうぅーとお腹の音が1人しかいない部屋で聞こえる。
先程から何度もなり続けている。
雑草を食べるか、限界まで我慢を続けるか……
「このゲームみたいに、ばんばん食糧を生産出来たらなぁ……」
空腹を忘れるべく、私はゲームに没頭したのだった。