18話 元妹は電波系ヒロインだった…
「しかも、めっちゃ修羅場じゃん……」
数年たっているが、やはり曲がり形にも血縁として暮らしていたせいか、一目で妹だと気付いた。
そして、親が親だけに元々いつかはやらかすだろうと思ってはいたが、見つけて早々にトラブっているとは思わなかった。
「……見れば分かると思うが、クレイの元妹であるチェルシー・キアージュは、現在進行形でこの学園で婚約者を持つ見目や権力を持つ男達を侍らせてああやって軋轢を生んでいる……その中には、俺の腹違いの兄であるアドルフも含まれている」
「な、何か申し訳ございません」
騒ぎの中心をまじまじと見る私に、現状を補足する王子様。
そして、兄と呼んだ人物に向ける目は侮蔑を含んでいた。
ま、まじか……養女入りして本当によかった。
そして私には何の責任もないと思うけど、何かスミマセン学園の皆様方。
「それにしても……」
「クレイ?」
イケメン逆ハーレムに、何か悪役っぽい身分の令嬢、そして婚約破棄って……まるで、前世でネット小説でよく見た乙女ゲーム転生ものみたい。
はっ!?
もしかして、私が知らないだけでこの世界は乙女ゲームの世界っ!?
私ってば異世界転生は異世界転生でも、乙女ゲーム転生をとげてたのっ!!?
ここに来て衝撃の事実だ。
しかも、婚約破棄ということは物語終盤だろう。
……いや、まだそう確定したわけではないが。
「……アドルフ様、よくお考えになさって? 貴方は将来国を背負って立つ御方。そのような売女と付き合うなど、貴方の評価が下がってしまいます。将来側妃を召し上がるにしても……もっと品性と教養を持つ方でないと。そこな娘は生まれは妾の子とききますしねぇ。卑しい血が王家に入るなんてあり得ませんわ」
涼しい顔で、婚約者であるらしき少年を諭す悪役令嬢(仮)。
淡々と事実を突き付けながらも元妹を嘲るように射抜くその姿、流石は悪役令嬢です。
「なっ、そんな酷いっ、何でそんな事を言うんですかっ!? いつも酷い事ばかり言うし、私の制服や大切なブローチもっ! もう、こんな事止めてくださいっ!! アドルフ様を解放してくださいっ!」
うるうる、きゅるるぅ、と効果音がでそうな感じで眼を潤ませながら、アドルフと呼ばれた王子様の兄に抱き付いて話す元妹。
男受けはするかもしれないが、本性を知っている私からすると肌寒く感じる。
そして、どうやらテンプレどうりの悪役令嬢による虐めはあったらしい。
上位貴族の婚約者に手を出してるあたり、当然といえば当然だが。
いや、あんたそれ婚約者が目の前にいる状況でやる事じゃないでしょっ!?
先程まで澄ました顔だった令嬢の眉がピクリとつり上がった。
間違いなく怒っていらっしゃる。
ただの電波系かと思った元妹だが、とんでもない胆力、もしくはとてつもないKY力だ。
いっそ尊敬する。
「まさか、婚約破棄までするとはな……アイツは何を考えているんだ?」
「……やっぱり、アレまずいですよね?」
横にいる王子様の言葉に、私は頷きつつ確認した。
「当たり前だ。相手の令嬢は国で一二を争うほどの名門キューレ公爵家の長女。アドルフの後ろ楯の1つでもある……公爵は娘を溺愛しているというし、大事にならなければいいが……あの話を先に陛下に通しておいて正解だったな」
「国で一二を争う公爵家……」
元妹は命知らず、自殺志願者なのではなかろうか?
婚約者のいるこの国の頂点たる王子殿下にアタックしているあたり、いつ不敬罪で首をはねられてもおかしくはない。
まぁ、王子様に故意でないとはいえ怪我をさせてしまった私が言える事ではないかもしれないが……。
「マリーベル、言葉が過ぎるぞ。お前の言葉こそ品位がないではないか。婚約を破棄する理由の1つは、お前のその性格だ。将来、側妃を迎えた時に好き勝手されては困るからな。俺はお前を信頼して後宮を任せられる器ではないと判断した。そしてもう1つは、お前の能力の問題だ。幼い頃から教育を施されてきたとはいえ、学園内の成績はお前の見下したチェルシーにも劣り、ギフトも大した力を持たぬ始末……このような者が将来の王妃として本当に相応しいと、お前は思うのか?」
「し、しかし、アドルフ殿下、この娘は他の殿方にも色目をつかっているのですよっ!? そんな娘より、この私が劣ると仰るのですかっ!??」
アドルフ殿下の言葉に、キューレ公爵令嬢はギリッと唇を強く噛み締めて殿下に詰め寄った。
アドルフ殿下の主張は分からない事もないが、仮にも婚約者に対しては冷たい過ぎる。
「さ、更に悪化した」
状況は最早カオス。
いつ刀傷沙汰になってもおかしくない程、空気は張りつめている。
「……巻き込まれる前に離れるぞ」
「えぇ、勿論!」
私と王子様の答えは一致した。
そのうち元妹に顔を見せて恨み恨みでも言ってやろうかと思っていたが、巻き込まれたらたまらない。
絶対に直で関わりたくない。
私の復讐は姿を見せずにこっそりと行う方針でいくとしよう。
「あぁっ! レダート様だぁっ!!」
しかし、そんな私達の思いがフラグとなってしまったのか、悲しいことに甲高い甘えたような声が隣にいる王子様の名前を呼ぶ。
……私って、中々不幸な星に生まれついたよね。
私は乾いた笑みを浮かべるしかなかった。




