16話 運命は独立不羈
前の話のタイトルを変えて、此方にしました。
これでこの章は終わりです。
追いかけて行った村人が入っていった屋敷から出てきたのは、儚げな印象を持つ少女だった。
この女が……運命なのか?
先程見せた強力なギフトの持ち主?
強力なギフトを持っているから、もっと周りを従えるようなオーラを持っていると思っていた。
それがいざ本人に会えば、容易く折れてしまいそうな薄幸少女。
話振りやシリルの様子から本人にである事は間違いないが、これは予想外だった。
それにまさかキアージュ伯爵家の娘とは……あの娘といい、何やら妙な縁があるようだ。
キアージュの1番目の娘は、当主本人により死んだと病死したと国へ報告されている。
これが事実なら大問題だ。
本人にそのつもりはなくとも、国にとって有益な力を持つ彼女を隠匿したに等しいのだから。
そもそも……あの女は姉はギフトに恵まれず、嫉妬に狂って母親とと自分はずっと嫌がらせをされていたとか何とかほざきまわってなかったか?
恐らく同情を引いて懐に入る為のもので、事実では無いのだろう。
この目の前の少女、クレイの人が豹変したような怒り具合からも、クレイに義があると見ていい。
学園にいる方のキアージュの娘は、数々の見目のいい権力者に言い寄り侍らせている。
しかも、その対象には俺やアドルフまでもが含まれていた。
あの脳味噌花畑を陥落させたまでは中々使える奴かも知れないと思っていたが、対立している俺にまで粉をかけてきた時に評価は色狂いへと変わった。
全く舐められたものだ。
此方が拒絶しているのに、関係ないとばかりに学園でも絡んでくる。
しかも、アドルフを含む自分の取り巻きを引き連れて、だ。
靡かない俺が気に入らないのかやたらと絡んでくる女に、アドルフ達までもが嫉妬から絡んできて非常に鬱陶しい。
運命がまさかその姉、とはな。
人生とは分からないものだ。
「……ところで、君の能力はあの犬型の兵器だけじゃないんだな。この村全体にギフトの力を感じる。それにこの村は貧しい枯れた村だと聞いていたが、随分と豊かだ。君のギフトは何だい? 能力にまるで法則が見当たらない」
俺はずっと気になっていた事を率直にクレイに聞いた。
こうして目の前に居ても、そのギフトがどんな能力を持つのか全く分からない。
妹の口振りでは役に立たないとの話だが、恐らくギフトを理解できずに発動に必要なイメージが出来なかっただけだろう。
そういった者もごく稀に現れる。
「え、M・P・Gっと言って、何というか色んなものを生産?する能力です」
クレイは正直に自分の能力を申告したように見えた。
だが、あまり要領をえない。
色々なものとは一体何なのか。
「あ、あの、お、お怪我をなさっているのですかっ!!?」
俺が思案していると、動揺した彼女が声を上げた。
その視線の先は、腕の怪我に向けられている。
別に気にする必要はない、と言うおうとして止めた。
これを理由に俺達側について貰うか。
理由としては十分だろう。
「私、薬塗りますねっ!!?」
だが、先に動いたのは彼女だった。
懐から何かを取り出すと、自身の指につけて俺の腕を取った。
一瞬、振り払おうしたが、俺はされるがままにする事にした。
流石にここで毒物を塗り込むような女に、俺が恋い焦がれる事はないと思ったからだ。
すると彼女は傷口どころか、昔の古傷にまで薬を塗り込んできた。
王都にいる貴族の女性みたいに化粧や香水の不快な臭いがなく、爽やかでほんのりと甘い匂いがして不愉快には感じない。
これは、もう10年以上前の傷何だが……。
あまりの慌てふためきように、思わず口角を上げてしまう。
だが、すぐにシリルのニヤリとした目と合って、すぐに笑みを消した。
そして、彼女にも大丈夫だと言おうとして、自らの腕の傷が治っているのに気付いた。
それも古傷までもが、だ。
「……おい、これは何だ?」
意図せず、低い問い詰めるような声になってしまった。
離れていく、クレイの腕を掴み眼を合わせる。
ギフトの使用は感じられなかった。
ともすれば……
「これはギフトによるものではない、な? これほどの薬効を持つものは数少ない……これの原料はユニコーンの角だな? ユニコーンは保護動物だと知っての事か?」
彼女が情報に疎いのは、先程からのやり取りで何と無く分かっていた。
だから、1つ1つ丁寧に確かめていく。
悪意をもって行っていた場合、大問題だ。
ユニコーンは一昔前に絶滅危惧種となっており、この国や周辺国家でも保護動物に指定されている。
そして残存している薬も希少性や奇跡を起こす万能薬である事から、王家が全て管理し非常時以外に使用される事はない。
少なくとも、どんなに重症でも第2王子に使用される事はなかった。
じっと答えを待っていると、彼女の目が泳いだ。
しまったと、分かりやすく顔に出ている。
「い、いえ、あのこれは私の庭では毎週手に入るもので……」
彼女はしどろもどろ説明したが、俺はその内容に戦慄が走った。
毎週?
つまり、毎週ユニコーンの命を狩っていると言うことか?
見た目通りではないと思っていたが、彼女は想像以上に鬼畜な所業に手を出していたようだ。
俺は本当に彼女を愛する事になるのであろうか。
思わず、シリルの力を疑ってしまった瞬間であった。
「君は毎週ユニコーンの命を摘み取っている、ということでいいか?」
「ち、違います、殺してませんっ!! え、と、先程お伝えした私のギフトの能力で、毎週一匹のユニコーンから角を1つ収穫出来るのです! 勿論、収穫してもユニコーンは死にませんっ!!」
俺の言葉に彼女は慌てて否定した。
犯罪に手を染めているわけではないようで、俺は心底ホッとした。
それにしても、本当に規格外のギフトだ。
生産と言っても、作物から薬、超兵器と幅がとてつもなく広い。
だが、それ以上に──
「そうか、君が犯罪に手を染めていない事は理解した。だが、君には俺達と共に王都へ来てもらう事になる」
「え、な、何故ですか? 犯罪では無いのですよね?」
俺の言葉をどう勘違いしたのか、彼女は死刑執行を言い渡されたかのように顔を青くした。
クレイは本当に顔に出やすく分かりやすい。
「ふ、そう心配しなくていい。君を連れていくのは、ギフト持ちの貴族は学園に通わなければならないと決められているからだ」
俺は彼女に手を差し出して、そう教えた。
今まで人脈作りが目的で楽しみなどなかったが、予測出来ない彼女が来れば楽しくなりそうだ。