14話 運命は予測不能
王子様視点です。
シリルの占いで運命の居場所を把握した俺達は、通っている学園を休んで会いに出掛けた。
そして王都から一週間程かけてやって来たのは、キアージュ伯爵治める領の片隅にある小さな田舎の村だった。
キアージュ……俺としてはあまり聞きたくない名前だな。
学園での事を思うとあまりいい気持ちではない。
だが、関わりたくないと思っているのに、こうして訪れる事になるとは考えてもみなかった。
認めたくはないが、何やらキアージュとは妙な縁があるのかもしれない。
……いよいよ、か。
さて、運命とはどのような相手なのか。
相手を逃がさない為に、村から少し離れた所に馬車を停めると連れてきた10人程の騎士を連れて村には徒歩で向かった。
俺は王妃に邪魔されぬよう、今日は騎士を最小限しか連れてきていない。
能力に優れ口の堅い、信用出来る者だけに厳選したのだ。
「珍しいね、殿下がそんなに緊張するなんて」
コロコロと笑いながら話しかけてきたのは、今日この村を訪れるきっかけになった幼馴染み。
シリル・ヘイム、占いのギフトを持つ年のわりには、幼い外見の少年だ。
「……流石に、な。長年探していたものをようやく見つけたんだ。緊張くらいするだろう」
シリルは当初アドルフの側近として、城に召された貴族の子供だった。
ヘイムの家自体も陛下から子爵位を賜り王妃の派閥に属していたが、周囲の期待を裏切りシリルは俺に仕えた。
今でこそ感謝してるが、当時はそれが理由で更に王妃派に暗殺者達を差し向けられて大変だった。
「ふーん? 僕も早く会いたいなぁ。それで見てみたい。殿下が骨抜きにされるのをっ!」
萌葱色の瞳を爛々と輝かせて言っている事は、見た目に反して意地が悪い。
外見のせいで侮られる馬鹿が多いが、皆後に痛い目に遭っている。
「シリル、やめないか。殿下に無礼だぞ」
そんなシリルを諌めるのは、同じく幼馴染みであるヴァイス・ツェルイル。
剣が得意で、堅すぎるところもあるが誠実で信頼のおける奴だ。
ヴァイスは触れた物体の重さを操作するギフトを持っている。
しかし、好青年な見た目とは裏腹に、幼少時はギフトの操作が上手く出来ずに周囲を壊しまくる破壊神と化していた。
そして周囲から孤立するヴァイス見かねた陛下が、相性がいいだろうと護衛も兼ねて俺に付けたのが出会った切っ掛けである。
昔は問題児であったが、今は剣を起点としてギフトの力を使い国有数の騎士として知られるようになった。
「えぇー、ヴァイスは相変わらず堅いなぁ」
唇を尖らせて、シリルは詰まらなさそうに道の石を蹴った。
2人とも今日は何時もよりよく口が動く。
人の事をどうこう言っていたが、自分達も内心興奮していたらしい。
正直、この時俺は別に運命相手に警戒はしていなかった。
ヴァイスとシリル、俺のギフトの組み合わせは中々凶悪で堅牢だ。
俺達を本気で殺しにかかるのには、大隊が必要になるだろう。
しかし、村まで200メートルを切ったところで、俺は足を止めた。
遠くからは長閑に見えた村を、強力なギフトの力が覆っていたからだ。
「……2人とも、遊びは終わりだ。気を引きしめろ」
俺の一言でヴァイスは剣を抜き、2人は戦闘体勢に入った。
シリルは俺に必要な人物だと予言したが、ギフトの詳細は判明していない。
「殿下、正面からでなく森から様子を見ましょう」
古い木の門が村の入り口に建てられているが、最早この村が見た目通りのものには思えない。
ヴァイスの進言で、運命に逃げられなぬように出入り口に騎士を数人を残すと、俺達は人目につきにくい森から村の様子を伺うことにした。
「この村全体、いや村そのものがまるでギフトのようだ……一体、どんなギフトを持っているんだ?」
「それ程大規模なものとなると……結界、などでしょうか? これほどの範囲に力を干渉できるとなると、かなりの使い手ですね」
俺の問いに、ヴァイスが予測を話す。
結界のギフトは教会関係者が持つことが多い。
だが、通常はせいぜい5メートル程のもので村1つ覆えるようなものなど聞いた事がない。
確かに、それ程の力の持ち主ならば国にとって必要な人物に成りうるだろうが……。
どこかピンと来ない。
そう思うのは、俺自身にはあまり必要と思えない力だからかもしれない。
「……一度、俺の力で抑えてみるか」
俺のギフト、それは”無効化“だ。
力の強弱で他のギフトを弱体化から、完全な無効化までする事が出来る。
そして完全なる無効化でなければ、力をある程度コントロールする事も可能だ。
つまり、相手のギフトを弱体化させて、ヴァイスや騎士達のギフトで簡単に叩き伏せるという事も出来るのだ。
俺は村に入ってギフトを使おうとした。
すると──
『わんわんっ! わんわんっ!』
場にそぐわない妙な鳴き声に足を止め目を向けると、そこには犬のような変な生物が此方を威嚇していた。