13話 またまた墓穴を掘った……
主人公の言葉遣いが荒れます。
「つまり、あの人でなしは自分で追いやっておいて、私を死んだ事にしてるって事ですか?」
今まで微塵も好意なんてものはなかったけど、今嫌悪感が天元突破したよ。
クズ過ぎる。
あの脳筋色ボケ糞野郎ならやりかねないけど、本当にクズ。
あんな野郎の血を引いてるってだけで、気持ち悪くて吐きそうだ。
「あ、あぁ、病死した事になっている……たが、その反応を見ると君の言ってる事が事実のようだな」
王子様は私の反応に少し引きながら言った。
私の今の容姿は見た目だけは大人しそうな感じなので、ギャップに驚いているのかもしれない。
残念だけど、前の私はもう居ないんだよ。
私は一番自分が大事だから、どうでもいいやつの為に自分を犠牲にしたりしない。
「当然です。あの糞野郎の糞のように腐った糞まみれの血を引いてると知られる事は、人生の汚点、恥以外の何物でもありませんから。そんな嘘をつくメリットは、私にありません」
怒りのあまり糞糞言い過ぎてしまったが、これが私の正直な気持ちだ。
先程は墓穴を掘った事を悔やんだが、今は別の意味で正直に言った事を後悔している。
あれとの血の繋がりを他人に知られるなんて、これ以上の恥はないと思う。
さて、あの糞野郎共、どうしてくれようか?
いつか天罰下れとは思っていたが、今はいつかなんて待ちたくない気分だ。
やられた分はやり返したい。
やられっぱなしは、性に合わない。
やっぱり、私のギフトを生かして兵糧攻めとか商売で圧迫するのがいいかな?
時間はかかっちゃうけど。
武力行使はわんわん達がこの人数相手に、木っ端微塵にやられた事を考えると厳しいかもしれない。
あの糞野郎は脳筋、すなわち武力に関しては優れている。
そして、私は武力に全振りしたようなギフトがどれ程のものか、全く推し量る事が出来ない。
わんわんはゲームだとドラゴン倒せるレベルだし、向かうところ敵無しで楽勝かと思ってたけどそれは思いあがりだったのかもしれない。
この世界のギフト持ちの常識だと、わんわん達は大した脅威ではなかったのだ。
私は王子様の連れている人数と様子からそう推察していた。
そう言えば、この世界で倒したのはカルナとか馬肉だしな……うん、このメンツで調子に乗っちゃ駄目だったね。
わんわん、高いわりに使えなかったのか……。
所詮、私は田舎者。
前の私もだが、狭い世界で生きていたようだ。
「……ところで、君の能力はあの犬型の兵器だけじゃないんだな。この村全体にギフトの力を感じる。それにこの村は貧しい枯れた村だと聞いていたが、随分と豊かだ。君のギフトは何だい? 能力にまるで法則が見当たらない」
「え、M・P・Gっと言って、何というか色んなものを生産?する能力です」
王子様の質問にまさかアプリゲームですという訳にはいかず、私は何とか説明しようとした。
説明ってなるとムズいな。
生産と言っても幅広すぎてある意味生産能力って感じだし、ゲーム内で売り買いも出来るからな。
……ん、て、あれ?
私はうーんと頭を捻っていると、王子様の右腕の辺りが少し破けているのに気付いた。
そして、そこからほんの少し血が滲んでいるのにも。
「あ、あの、お、お怪我をなさっているのですかっ!!?」
私は叫ぶように高い声を上げた。
背中から汗が大量に吹き出し、体から血の気が引いていくのが分かる。
ヤバい。
ヤバい、ヤバい。
これはマジでヤバい。
先程まで動揺していて気付かなかったが、王子様だけでなく周りのお付きの人達も服が所々汚れていたりかすり傷を負っていた。
大怪我はさせていないが、決して無傷とは言えなかった。
わんわんの首と一緒に、自分の首も飛んでく姿が容易に想像出来た。
何とかしなきゃ……!
「私、薬塗りますねっ!!?」
私はポケットにしまっていたクリームを手にとって、有無を聞かずに王子様の腕に塗り付けた。
よしよし、流石馬肉のクリーム。
効果覿面だよ。
お、何か古傷もある……ついでに塗っておこう!
怪我を綺麗に治しとけば多少なかった事になるかもしれないと、私は袖を捲って王子様の腕全体に塗りたくった。
証拠を隠滅し、いざとなったらとぼけるのだ。
その甲斐あって王子様の腕は、傷1つなくなった。
よしっ!
これで処刑は回避されるでしょっ!!
「……おい、これは何だ?」
しかし、やりきった充足感にひたる私の腕を、再び掴む王子様。
「これはギフトによるものではない、な? これほどの薬効を持つものは数少ない……これの原料はユニコーンの角だな? ユニコーンは保護動物だと知っての事か?」
私の思いとは裏腹に、またもや王子様の疑惑の目が向けられる事になったのだった。
し、しまったっ……!!
馬肉は希少価値の高い馬肉だった!