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M・P・G ~私の庭に死角はない!~  作者: 皐月乃 彩月
三章 権力には勝てなかったようです。
11/29

11話 さよなら、わんわん(数億円)(T0T)

 

役人による監査を乗り越え、悠々自適に過ごしていた16の春、そいつらはやって来た────



「う、指がつってきた……薬、薬っと」


私はベッドの横のチェストから、カラフルな丸い箱を取り出した。

当初、馬肉はあんまり使えない馬肉かと思われたが、実は便利な馬肉だった。


「こう、痛むところに塗ってっと」


箱の中身は、ユニコーンの角をすりつぶしてクリームにしたもの。

ユニコーンの角は飲むだけでなく、少量患部に塗るだけで絶大な効果をもたらす。

寧ろ、目に見える傷に対してはこちらの方が効率的だった。

馬肉のおかげで、私は指や手首の疲れや痛みから解放された。

カルナや村人達には勿体ないと言われたが、そんな事はない。

実に有意義な使い道である。


「よし、復活した」


私の指は日に数百万は稼ぐ。

私は元気になった指で、軽快なタッチで生産を開始した。


《ピコーン!》


《侵入者がやって来たよ!》


「……んん?」


暫くゲームをした後に発せられたポップな音ともに表示された情報に、私は指を動かすのを止め眉をしかめた。


村人達じゃないし……野犬か何かかな?


まぁ、野犬程度問題ないだろうと私は表示を無視して、再び画面上に指を滑らせた。

野犬程度にわんわんをどうにかする事は出来ないのだ。


《ピコーン!》


《わんわん5号が破壊されました!》


「え? ……は?」


そして数分後、再び現れた表示画面に目が点になる。


聞き間違いに見間違い?

だって、わんわんだよ?

ゲーム内では、怪獣やドラゴン何かとも渡り合えるようにカスタマイズしたわんわんだよ?

滅茶苦茶、金を注ぎ込んだんだよ?

え、嘘だよねっ!?


《ピコーン!》


《わんわん4号が破壊されました!》


「のぉーーーーーっ!!!?」


しかし、事実は無情だった。

私がわんわんに費やした数億円(ゲーム内通貨)はものの数分の間に、脆くも崩れさってしまったのだ。


「私のお金がっ!……って、それよりわんわん達を軽く倒す侵入者って一体何っ!? どんな化け物が私の庭に侵入してきたって言うのっ!?」


一瞬お金の事に目がいったが、冷静に考えるとそんな事よりわんわんを倒せる程野敵がやって来たと言うことの方が重要だ。

このペースだと、残りのわんわん達もすぐにやられてしまうだろう。

侵入者が何かによっては私や村人達の命も危ないかもしれない。


「とりあえず、村人をこの家に避難させないと──」


村で一番頑強なのは、私の住むこの家だ。

私は村人との契約条件である絶対服従を使って、この家に呼び寄せようと端末を操作しようとした。


「く、クレイ様っ! た、大変だっ!!」


けれど、私が操作する前にカルナがノックもせずに、慌てた様子で部屋へと雪崩れ込んできた。


「そんなの知ってるしっ! だから、こっちらその対策を「王族だ! 王族がこの村に来たっ!」…………は、王族??」


何それ美味しいの? と、思わず言わなかった私を誉めて欲しい。

え、王族ってあれだよね?

国で一番偉い王様の血縁者って事だよね??


「あぁっ、第2王子様だ!!」


第2王子……?

血縁者どころか直系やんけ……。

一体何でこんなド田舎の村に……?


カルナが告げた事実に、私は目眩を覚えた。


もしかしなくても、侵入者って王子様だよね……?

やべぇ……さっきとは別の意味でやべぇ。

知らなかったとはいえ、王子様攻撃しちゃったよ!!

てか、何で王子様はわんわんの警備に引っ掛かるような行動を…………っ!?


わんわん達は何も無差別に攻撃しているのではない。

あくまで不審者や窃盗目的の盗賊や獣、害意のあるものを攻撃しているのだ。


まさか、この間のちょろまかしがバレたのかっ?

……いや、こんなド田舎の案件で第2王子か実際に来るのか?


私は情況が飲み込めず、ただ立ち尽くすばかりであった。









◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆










「────王太子は年齢、母親の身分に関わらずその能力で決める」


突如、国の王たる父に呼び出され、宣言された事柄に周囲がざわめきたった。

次の王太子は正妃の子で長子でもあるアドルフだと、この部屋にいる正妃や側妃、王子や大臣達の誰もが思っていたからだ。


「そんなっ!? 陛下、次の王太子は正妃である私の子であるアドルフがなるの筈ではなかったのですかっ!?」


この国の正妃である女が、ヒステリックに声を上げて陛下に詰め寄る。

正妃は事前に父から何も知らされていなかったらしい。


やっと、この時が来たか……。


周囲に気付かれぬよう、1人笑みを溢す。


俺はこうなる事を知っていた。

いや、正確には俺自身が王に選ばれる為に、そう動いてきたのだ。


「正妃の子だからと次の王へと据えるのは、必ずしも最善の選択であるとは限らない。故に私はこの国の為、最も優れた子を王太子に選びたいのだ」


「し、しかし陛下、そんな事になればそれぞれが支持する王子の派閥同士で、国を二分する争いになる事も。民は戦乱など望んでいませんっ! どうか、どうかご再考をっ!」


そう汗を額から流し、提言したのは財務大臣であった。

正妃腹や長子相続にしていたのは、元々は無用な争いを避ける為だ。

血を分けた兄弟同士が、争って滅んだ国など幾つもある。


「財務大臣、貴方の言い分もよく理解しておる。よって、この王太子の選定には期限を設け、武力による軍事行動は禁じるつもりだ。今から1年だ。1年で将来王になるに相応しいと思える器を示せ。そして末の王子達はまだ幼いが、成長を待つつもりはない。が、資格を奪うつもりはないので、存分に励め!」


はいっと、まだよく理解出来ていない幼い弟達が目を輝かせて返事をした。

やる気をみなぎらせているようだが、流石にまだこの弟達には早すぎるだろう。

派閥も大した力はないし、誰も特に期待はしていない。

この戦いは、初めから俺とアドルフとの一騎討ちだ。


「レダートっ……!!」


正妃が俺に憎悪の眼差しを向けた。

その感情はよく理解出来る。

父、いや陛下は実質俺の為に機会を与えたようなものなのだから。


「えぇ、陛下、仰せのままに。このレダート、必ずや陛下の期待にそいましょう」


俺はそう言って陛下に頭を下げた。

心からの笑みを浮かべて。

この時をどれ程待ったことか。


こうして下位貴族や民達には内密に、次代の王選びが始まった。

派閥の大きさでは、アドルフに分が上がる。

それを1年でひっくり返すのは、並大抵の事では出来ないだろう。

それを理解しているから、今のアドルフには焦りや怒りは感じられない。


だが、余裕でいられるのは今のうちだ。

俺はその為に準備をし、努力を惜しまなかった。


俺の側近には、ギフトに占いの力を持つ者がいる。

自在に操れる訳でも全てを見通せる訳ではないが、それでもかなりの精度を誇る有用な力だ。

そしてついに先日、その力でずっと探していた人物の居場所を突き止めたのだ。

俺にとって唯一無二の存在を──


"殿下、殿下はいつか唯一無二の存在に出会うよ。そして、その子の為に王になる。殿下にはいつか利害でははかれない大切な存在が現れるよ“


それが俺が初めてアイツに貰った予言であった。

その正否は今もまだ分かっていない。

俺自身にとっても王の件はともかく、唯一無二の存在とやらは正直眉唾だ。

自分の事をよく分かっているからこそ、その予言を心から信じる事が出来ない。

俺は目的の為の手段は選ばない。

邪魔になるなら、例え親でも切り捨てる。

だが、そんな俺を変える存在が現れるというのなら、それが何であれ会ってみたいと思う。

確かめてみたい思う。

だから⎯⎯


「──さぁ、最後の(ピース)を取りにいこうか」


これは俺が彼女と出会うほんの少し前の話だ。



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