10話 嫌なものは嫌
「チッ、肉じゃないのかよっ!!」
私は憤慨していた。
私は肉を期待していたのだ。
私の口は既に馬肉な気分だったのだ。
だが、馬肉は馬肉ではなく駄馬だった。
期待はずれもいいとこだ。
「クレイ様またまた大物を……ユニコーンなんて、伝説の生き物じゃないですか……俺、毎日のように水汲みに行ってたけど、1度も見た事ない……」
カルナが目の前の駄馬に対して称賛を述べるが、私の心には響かない。
私は馬肉を、馬刺しを食べたかったのだ。
馬肉をゲットした私は、ルンルン気分で村へと帰ってきた。
そこで改めて、端末の情報を確認しようと思ったらこれだ。
ひどい裏切りだ。
“新しい家畜だよ、愛情一杯にお世話してね☆
ユニコーン(76)
名前:《名前を決めてね!》
7日に一度、ユニコーンの角を採取出きる。
※ユニコーンの角は万能薬になる。
食事:草食 他に清らかな水が必要
備考:穢れなき乙女を好み、見極める鼻を持ってる”
あ、あ゛あ゛ん゛っ!?
んじゃこりゃぁっ!! って、なるよねこのプロフィールモドキ。
肉じゃないんかいって。
そんでもって、このセクハラ処女廚馬がって。
何だよ、見極める鼻って!
セクハラ以外のなにものでもないよっ!?
「で、伝説の生き物を馬肉扱いって……凄い生き物なんですよ? その角はあらゆる病や傷を癒すって……まぁ、大きな屋敷がたつほど高価なんで、乱獲されて数を減らしているって聞きますが」
荒れる私の様子にカルナがユニコーンについて説明してくれるが、全く凄く聞こえない。
何せ、セクハラ駄馬だ。
それだけで価値はマイナスである。
『な、なんのだ、この人間は。それに初めは清らかな乙女かと思っていたが、よく嗅げばどうにも熟成されたような婆臭い匂いがす、』
「くたばれ、馬肉っ!!」
駄馬もとい馬肉が禁句を言い切る前に、私は馬肉の角を蹴りあげた。
駄馬の名前は馬肉にした。
このセクハラ駄馬には、馬肉で十分だ。
馬肉は備考にあったように、随分鼻が効くらしい。
恐らく、私が前世を足すと少女ではないと言いたかったのだろう。
しかし前世はどうあれ、私はピチピチのうら若き少女だ。
婆扱いは、とてもじゃないが許せん。
だから、これは正当なお仕置きなのだ。
……婆臭いって、もしかして加齢臭の事じゃないよね?
前世の事を言ってるんだよね?
そして、とりあえず今日から石鹸や香水には気を使おうと私は心に決めた。
「ん? 何だこれ、角?」
私が考えに耽っていると、コロンコロンとユニコーンの角が転がってきた。
先ほどの私の蹴りで、角が折れてしまったらしい。
『わ、我の角がぁぁっ!!!???』
「く、クレイ様、ユニコーンは角は急所で折れれば死んでしまうんですよ……?」
私の突然の暴挙とも取れる行動に動揺する一人と一匹。
馬肉は今にも泡を吹いて気絶しそうで、カルナはドン引きしている。
「いや、大丈夫だし。私のギフトの管理下に有る限り、毎週採取出来るから」
週一でバキバキ出来るから。
馬肉じゃなかったのは非常に残念だが、これはこれで金銭的には美味しい。
「はっ! 毎週採取出来るんだから、ちょっと馬肉を馬肉にしちゃっても万能薬で回復させれるのでは……?」
凄い名案ではなかろうか?
今日の私は冴えている。
この方法なら定期的に馬肉を調達出来る。
「クレイ様、雇われの身でこのような事を言うのは何ですが、流石にそれは人としてどうかと思います」
しかし私の名案はカルナにあえなく否定され、馬肉が馬肉になることはなかった。
べ、別に本気で言ったわけじゃないしっ。
ちょっとした冗談なのだ。
だからそんな目で見るのは止めてくれ、カルナ。
最近、カルナの私を見る目が死んでいる事が多い気がする今日この頃である。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆
そして、庭が充実しあらゆる作物、畜産物が採れるようになった頃⎯⎯⎯⎯
「全員集合!!」
私は仕事前の村人達を1ヶ所に集め、50㎝程の高さの台の上に立った。
「この村はこの数ヶ月で、急激に発展しました」
私の言葉に、村人達は首をうんうんと縦に振る。
頬は肉付き、服装もボロから小綺麗な物を身に付けている。
少し前とは考えられない程の変化だ。
「実は来週、役人がこの村にも来るそうです」
村の事務や雑用は、これまでと変わらずに任せていたのだが、毎年この時期に領主の命で派遣されるらしい。
因みに、領主とはあの糞色ボケ脳筋の事だ。
「クレイ様、今年はクレイ様のお陰で余裕で税金を払えるので何も心配しなくてよいのでは?」
並んでいる村人の1人が、おずおずと手を挙げて不思議そうに発言した。
税金は、その土地にかかるもの。
そして、土地を持つ私にとって貧しい村の税金を払うのは造作もない事だからだ。
私はほぼ無限と言ってもいいほどの、作物をこの土地から収穫出来る。
客観的に見ると、気にする要素は一切ない。
確かに、私は楽々払える。
だがしかし──
「この村にかかる税金は一定です。豊作だろうが、凶作だろうが、納める税は変わらない。しかし、今の村を見れば、役人は税を必ず引き上げるでしょう」
私はそれが気に入らない。
ここが他の領主が納める土地なら、何も思わなかっただろう。
けれど、この土地の領主はあの糞色ボケ脳筋だ。
私にとって、前の私の記憶は映画のようなもの。
だから、それ映画に対して激しい感情を抱いたりしない。
だけど、悪役がいい思いをするのは気持ちが悪いのだ。
生理的な嫌悪感がある。
つまり、私はあの糞色ボケ脳筋達がいい思いをするのが、心底嫌なのだ!!
「今まで散々苦しい生活をおくらせて助けもしなかった癖に、豊かになったらその恩恵だけ都合よくむしりとろうとする……そんなの許せますか? 領主は今までその義務を放棄して好き勝手横暴に振る舞っているのに、私達にだけ義務を強制して当然の権利さえ認めない。私は嫌ですよ、そんなの絶対に」
そして、これは村人達の為でもある。
今のところその予定はないが、私が何らかの理由でこの村から出ていく可能性もある。
その場合、元の正しい額の税に戻されればいいが、領主があの男では期待できない。
その時村人の殆どは夜逃げか奴隷堕ち、若しくは餓死を選択させられる事になるだろう。
まさに、この村は地獄になる。
「そんなの許せる筈がない! この村は凶作が多くてろくな収穫は見込めないのに、何度直訴しても税は安くならなかった! 何人の村人がそのせいで犠牲になった事かっ!!」
「そうだそうだ! 散々こっちは辛酸をなめさせられたんだ。都合の良いときだけ、税をいじられてたまるかよっ!」
村人も思うところがあったのか、口々に領主や役人への不満が上がった。
村人達が同意してくれてよかった。
絶対服従の制約がある以上強制させる事も出来るが、やはり進んでやってくれた方が私の精神衛生的にはいいのだ。
うんうん、そうだよね。
あの糞色ボケ脳筋、馬鹿だから無理な税を下げるよう陳情上げても無視してきたからね。
まじでムカつくよね。
「幸いにして私の能力で、建物はしまう事が出来ます。作物も役人が来る日は、休んで雑草でも植えとけばよいのです。でも、それだけでは足りません。今の貴方達を見れば、以前と変わった事は一目瞭然。よって、貴方達は当日小汚ない格好をして、頬に泥をつけて飢えた演技をして貰います。税を下げて貰うように、懇願するのもいいでしょう。前回と同じように対応してください」
1日水だけで過ごして貰うのも有効だろう。
所詮、役人はこの土地に期待などしていない。
隅々まで調べるような面倒な事はしない筈だ。
領主の連中がいい思いをするのは気に食わない、私達の思いは1つだった。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆
監査の結果は予想通りのものだった。
私達の作戦は見事成功したのだ。
こうして、役人による監査を乗り越えた私は、チートギフトを駆使して自分の楽園を完成させた。
しかし、私は村人達の協力で役人達を簡単に騙せた事で、油断をしていたのだ。
何の旨みも特産もない寂れた村。
そんな村にまさかあんな大物がやってくるなど、考えもしなかったのだ。
嵐はもうすぐ傍まで、やって来ていた───
ちょっとサクサク行きすぎな気もしますが、これでこの章は終わりになります。
丁度今半分位ですね。
次から後半戦開始です!