僕は僕じゃないよ
気が付くと空を見つめていた。今回だけじゃない、産まれてからずっと続いている習慣だ。理由は考えるだけ無駄な気がしたけど、もしかしたら大切なパズルのピースかもしれないと思っていた。
物語が始まったら冒頭でいろいろ語ることがよくあるけど、僕はこの地上に生まれてからというもの人間として何か功績があったとか人に自己アピールしろと言われれば出る言葉は間の抜けた声ぐらいしかだせない。僕なんて誰が何と言おうと何のために生きてるの?と言われるはずだ。
今日もこうして朝の激しい通勤の中を一人空を見上げる。
嗚呼、今すぐに空か白い糸でも垂れてくれないかなぁ…
ぐっと手を伸ばしたらもしかしたら誰かが、何かが引き上げてくれて、今の自分から良いほうに上昇する人生になるのかなぁ?
「あ、神様いましたよ!彼が新しい人財ですよね!?」
どこか辞典で書かれるような姿の天使が興奮しながら、そのお方を呼んだ。
「そうだよ。今度からここで働いてもらうことになる人だよ」
「ああ、やっぱり!でも、彼ずっとこちらを見てませんか?私たちは絶対に見えないはずなのに…」
「彼の個性によるものだよ。さあ、今から彼をここに連れてくるよ」
天使の可愛い拍手。その期待に応えるよう、神様は空の雲を紡いでとても長い糸を編み出しました。
「でも彼、糸に気づくのかなぁ?」
「そこは心配いらないよ。この糸は彼にしか見えないようになってるから。それにそんなことしなくても彼ならわかってくれるはずだよ」
わくわく。天使も珍しく鼻をうたいながら、足をパタパタしながらその時を…
「きゃあ嗚呼ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
空がグランと大きく揺れた。引き上げた白い糸の先には確かに彼が存在していた。
「ど、どうして!!!彼はどこなの!?いるなら返事をしてえええ!!!」
神様は激しく自分の頭を打った!天使は震えながら泣いた。神様はオカシクなっちゃった。
「か、か、体だけしか…。とられちゃった…悪魔に彼の『心』を奪われちゃたああああ」
彼に会うため一体どれほどの期間を費やしたか?彼以外はありえなかった…のではなく選ばざるをえなかった事情を本人は知る由もないのである。
地上で彼はしっかりと糸を見ていた。そして手に取り、輪を作って首に飾った。
身体だけの彼の顔も、その時も、うっすらと笑って…