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魔法を殺す毒

「さて、それではソードブレイカー設立メンバーも揃ったことですし、これよりミーティングを始めます。進行は私、アリサ・エンドウ少尉が行わせていただきます」


 ミーティングルームにつくなり、アリサは背筋を伸ばすと軍人の顔になった。


 それを見てシンヤも場の空気が重くなるのを肌で感じ、食後の眠気がいくぶんかマシになった。


「これで全員、ですか?」


「ええ」


 ミーティングルームは15畳ほどの広さの室内に、飾り気のない机が四角形に配置されている。シンヤはそこに着席している人間の顔を見回し、一瞬ぎょっとした。


「お前、どうしてここに!」


 さきほど顔を合わせたディハルトにサリア。そして、アリサに副指令のジョウと技術将校のレヴィン。ユキノがいることにも多少は驚きもしたが、それ以上に意外な人物がいたのだ。


「ママンに教わらなかったか? 人を指さしちゃいけませんて。一週間ぶりだなぁクソガキ。また俺に会えて嬉しいだろ? 俺は最悪だけどな」


 ガイアス・キャンベルはニタニタと下品な笑みを浮かべながら、ロケットペンダントの中の写真にキスをした。


「ママン。今日も愛してるよ」


「……なんであんたがここに!!」


 ガイアスはペンダントを大事そうに胸ポケットへしまうと、机の上に足をのせてふんぞり返る。


「そりゃお前、お呼ばれしたからさ。い、言っておくけど、あんたのためじゃないからね!? って、ツンデレか俺様は! ふ、くはははは!!」


「一体なんなんだ、お前は!」


 困惑するシンヤをよそに、ガイアスは狂ったように笑い出した。


「ガイアス少尉。お静かに願います。今は軍務中。節度をわきまえてください」


 アリサにそう指摘されると、ガイアスはニヤけながら舌を出し、「てへぺろ」と言って姿勢を正しイスに座りなおした。


「アリサさん、一体どういうことなんです! どうしてあんな奴を!」


「……正直、彼の態度に問題があるのは私も認めます。けれど、彼の能力は特筆すべきものがあるわ。それにソードブレイカーの人選は私の仕事じゃないの」


「じゃあ、一体誰が!?」


「私だよ、サワムラくん」


 ミーティングルームの一番奥の机から声がしたので、シンヤがそちらを見ると、副指令のジョウ・タムラが眼鏡のフレームを右手でつまんでいた。


「今は戦時中だ。奪還派も殲滅派も関係ない。地球人は一丸となって、グロニア帝国という巨悪を討たねばならないんだ。エンドウ少尉からの報告には目を通しているが、それは同盟締結前のいざござに過ぎん。これからは、我々は友であり背中を預け合う仲間だ。わかってほしい」


「同盟って……仲間って、そんな簡単にいわれても……オレは。こいつは、ラナイを殺そうとしたんだ! そんな奴を、許せるもんか!」


 握りこぶしを机に叩きつけ、シンヤは歯を食いしばった。それを見たガイアスはシンヤをあざ笑うように、自分の股間に手をやる。


「俺たちはグロニア人さえぶっ殺せればそれでいいのさ。その為にも今は大人しく、そっちの指示に従ってやるってんだからよ~。俺様と一緒に戦えるからって、嬉しすぎておティンティンぶっ立てるなよ~ぼ・く・ちゃ・ん?」


「おティンティン? とは、一体何なのでしょう隊長。殲滅派の秘密兵器でしょうか?」


 サリアは小声でディハルトにそう耳打ちするが、ディハルトは無表情のまま前を見る。


「……場の空気というものを読め。そして真顔で部下にそんな質問をされた私の心中を理解しろ、サリア」


「は! 失礼しました、隊長。この件はミーティング後すみやかに調査致します」


「……せんでいい」


「サワムラくん。混乱を招いてしまったことについては謝ろう。君もまだセカンドアースに来て一週間だ。心の整理が追い付いていないのだろうな。積もる思いもあるだろうが、今は抑えてほしい。すべては勝利の確率を1%でも上げるための措置。気が収まらないのなら、好きなだけ私を責めればいいし、恨めばいい。それで君の気が収まるのならば。私は逃げも隠れもしない。好きなだけ罵倒するといい」


「……わかりました。副指令がそこまで言うなら、オレは黙ります。オレだって……子供じゃないんだ」


 シンヤは苦い物を飲み込むと、黙ってうつむいた。


「つくづく大人の都合を押し付けてすまない。ではエンドウ少尉。続きを」


「はい。それでは話を進めさせてもらいます。各々自己紹介の必要はないでしょう。地球軍でも名の知れた精鋭をかき集めた部隊ですもの。このソードブレイカーは、グロニア七聖剣を打倒するための特化戦力として運用されます。部隊指揮官は私、アリサ・エンドウが務めさせていただきますので、よろしくお願いします。階級の面でも戦闘経験の面でもディハルト大尉が上ですが、EX兵器の特性から大尉には前線で戦ってもらう方が効率的だと副指令の判断です。ご理解を」


「ああ。解っている。一度死んだこの身だ。これ以上失うものなど何もない。部隊指揮は君に任せる。それに私も頭を使うよりも体を動かす方が好きだ」


「周知のことですが、七聖剣はそれぞれ強力かつ、特殊なナイトアーマーを所有しています。詳細なデータは後ほど各人に配布しますので、目を通してください。さて、そのナイトアーマーに対抗しうる兵器として開発されたのがEX兵器。ここにいるソードブレイカー各員には個人適正に合わせた兵装を開発・支給されます。現在開発が完了し、テストも終えているのは私のも含め、4点。つい先ほど最終チェックが終わった物が、ガイアス少尉専用のEX兵器になります」


「おほ。マジかよー、アリサちゃん愛してるぅ。あとで壁ドンしてやんよ。俺様に惚れろよ」


 ガイアスはアリサに向けて投げキスをしたが、アリサはそれを無視するとレヴィンを見る。


「けっこうです。私、年下のかわいい男の子が好みなので。それではレヴィン少尉。例の物をお願いします」


「了解ですぞ、エンドウ少尉」


 レヴィンは席を立つと憎悪の瞳でガイアスをにらみ、次に視線をスライドさせ、恨めし気にシンヤを見た。


「な、なんですか。エンダー先生」


「半ズボンをはけば、少しはぼくもかわいく見えるのかと思いましてね。ただし、スネ毛を剃った自分を想像して挫折しました。それだけです」


「はあ?」


 レヴィンは銀色のアタッシュケースをガイアスの目の前に置くと、中を開ける。そこには、金色の弾丸が12発入っていた。


「マナイーター。グロニア呪薬学におけるアルラウネの茎から抽出された毒物と、我々の最新技術であるナノマシンを複合させた物です。このマナイーターの弾丸を撃ち込まれた人間は、体内のマナを根こそぎ奪われ24時間魔法が使用不可になります」


「へえ。なるほどね。強力なデバフってわけだ。確かにこいつは俺向きだな」


「あなたの射撃の腕を見込んでのことでもありますが、フィンブルとの同時使用を前提で設計されています。プラズマガンに専用アタッチメントを装着することで使用可能。あなたの技量ならば、ナイトアーマーを相手に命中させることができるはず」


「なあ、アリサちゃんよお。もしこいつをラグナロクやディハルトのおっさんに撃ち込んだら、どーなる?」


 ガイアスは鋭い瞳でアリサにそう質問する。その瞬間、室内の空気が変わった。


「貴様! その言葉の意味が解っているのか!?」


 今にも飛びかかりそうな勢いでサリアは席を立つと、ガイアスをにらんだ。対してガイアスは、涼しい顔でサリアのスカートに包まれたお尻を眺めている。


「落ちちゅけよ、ナイスヒップちゃん。武器のスペックを把握しとくのは、プロとしてとーぜんだろが。ほんで? そこんとこどーなの、アリサちゃんよ。お答えできませんかー? お返事の代わりにおっぱい触らせてくれもいいのよ」


「性能が半減します。ラグナロクもアンデットボディも動力にマナを使用しているので……すべてのマナを動力とする兵器、ナイトアーマーはもちろん、他EX兵器に対しても高い有用性を示すでしょう」


「ち、答えやがったよ。おっぱい触れねーじゃんかよ。なあ!?」


 ガイアスはそう言って、隣に座っていたレヴィンの肩を抱いた。レヴィンは顔を真っ赤にしながら小さく頷く。


「ガイアス少尉。口を慎め」


「は~い」


 ジョウに注意されても、ガイアスは脳天気にそう答えるだけであった。


「先ほどのマナイーターだが、量産がまだ進んではいないものの、オーストラリア大陸の沿岸部やメルボルンの検問ゲートに配置されている。理由としては、グロニアの憑依テロを警戒してのことだ」


「憑依テロ?」


「憑依魔法……グロニア帝国に伝わる高等白魔術の1つですな。相手と肉体を入れ替えたり、相手の肉体を乗っ取るという非常に恐ろしく、イリーガルな魔法ですぞ。憑依魔法を用いたテロを地球軍ではそう呼んでいるのです」


 シンヤの疑問にエンダーが答える。


「その通り。この憑依魔法を使い、地球人の子供に乗り移って、暗殺や情報収集をする特殊部隊がグロニアに存在する。グロニア七聖剣第三席シャデル・バウアーの指揮下、暗躍している非常に厄介な連中だ」


「憑依って、そんなバカな話が……」


「信じられないのもわかる。グロニアではその昔、憑依魔法を使用して何人もの体を乗り換え、1000年以上生きたという王の伝説があるくらいだ。今では禁呪の中の禁呪で、憑依魔法を扱えるのも天才といわれる部類の人間だけのようだがな。何度も言うが、グロニアに我々の常識は通用しない。いくら武装面で優位に立てても、ソフトの面では彼らの不可思議な力に翻弄されてしまう。だが、マナイーターさえあれば、そういったからめ手を封じることができ、彼らは単なるペテン師になりさがるしかない」


「魔法を殺す毒、か」


 ジョウは静かに頷くと、メガネのフレームをつまんだ。


「さて、今後の作戦についてだが」


「失礼します!!」


 急にミーティングルームの扉が開かれ、慌てた様子で女性兵士が入り込んできた。


「騒がしいぞ。何の要件だ?」


「は、はい! それが……グ、グロニア帝国が!」


 女性兵士は手に持っていたタブレット端末を震える手でジョウへと手渡す。


「これは……新皇帝の戴冠式の映像……か」


「はい。帝都グラングロニアに潜伏していた地球軍の兵士が盗撮した映像です。グロニア七聖剣第二席レーニッジ・アーモルドが、前皇帝から帝位を受け継いだと」


「な!?」


「あの男が……皇帝に」


 その場にいた誰もが女性兵士の報告に席を立ち、驚いた。ジョウとガイアスを除いて。


「なるほどね。これが重大な歴史の転換期ってわけか……どこで手に入れたんだかこの情報」


「ふむ。考えられる話だ。レーニッジ・アーモルドは前皇帝の娘の婚約者だ。今回のオーストラリア戦役の敗北を前皇帝になすりつけ、民衆をまとめあげるのが目的だろう。彼という若い力が国のトップになれば、グロニアは勢いを衰えさせることなく我々との戦いを継続できる」


「いえ。それが……この映像をご覧ください」


「む? 何……どういうつもりだ……あの男」


 それまで平静を保っていたジョウであったが、その映像を見て他の面々と同様に驚くこととなる。


「ミーティングは一時中止。私は総司令と今後について早急に打ち合わせねばならなくなった」


 ジョウは静かに席を立つと、扉を開け外に出ようとする。


「副指令。一体何が起こっているのです?」


 アリサがそう問いかけるが、ジョウは振り向かない。


「グロニアが地球人殲滅宣言でもしやがったかあ? 見せしめに収容所の地球人を処刑とかしたりしてなあ。あいつらは血も涙もないバケモンだ! そんぐらい平気でやっちまうぞ! ママンを殺したみたいに!」


「違うな。逆だ」


 ガイアスの問いかけに、ジョウは背中を見せたまま答える。


「あん?」


「グロニアは……レーニッジ・アーモルドは。和平を申し入れてきた」

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