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神聖剣クロノス

「なんと!? 皇帝陛下に反旗を翻すつもりなのか、あの若造は!?」


 レーニッジの発言に、その場にいた貴族全員がどよめきたった。


「問答無用というわけか。だがレーニッジよ、ワシは知っておるぞ? 先のオーストラリアの戦いで聖剣エクスカリバーが破損し、修復が完了していないことを」


「貴様の首1つはねるのに、エクスカリバーは必要ない」


「ほほう? ならばやってみるがよい。もっとも、ワシのロイヤルガードをナイトアーマーなしで倒せればの話だがな。ワシの可愛いロイヤルガード達よ、ここにいる愚か者の首をはねい!」


「は!!」


 バイロンの声1つで、謁見の間に皇帝を守護する精鋭騎士団、ロイヤルガードが玉座の前に全員集結し、肉の壁となる。その数、30。


「各員、ナイトアーマーを装着せよ! 相手は七聖剣第二席である! 今こそ己の忠誠を皇帝陛下に示すとき! 我が命と引き換えに、グロニアを守れることを誉れと思え!!」


「やれ、ロイヤルガードよ。その若造の顔を苦痛で歪めてやるのだ」


 ロイヤルガードたちは鞘から剣を抜くと、床に突きたて一斉に唱えた。


「我が剣よ。敵を貫く刃と成り、我が身を守る盾と化せ……グラディウス!!」


 下級騎士に支給されるクレイモアと違い、中級以上の騎士が使うことを許されるグラディウスは、東方の一部地域で使用されるカタナ系ナイトアーマーを除き、グロニアで量産されている物の中では最高の部類に入る。


 そのグラディウスと、確かな実力。そして皇帝への高い忠誠心を持つロイヤルガードは、グロニア国民にとって七聖剣と並ぶ憧れであり、エリート中のエリートなのだ。


「ナイトアーマーは時代遅れの骨董品……か。認めたくは無いが、まさしくその通りだな」


 銀色に輝くグラディウスの鎧を見て、レーニッジは自嘲気味に笑った。


 そのレーニッジの笑いに気付かずバイロンは勝ち誇った顔で玉座にふんぞり返る。


「のう? レーニッジ。このロイヤルガードはワシが選んで、特別に目をかけてやった者達じゃ。七聖剣には実力で及ばずとも、忠誠心においてはグロニアにおいて随一じゃろうて。エクスカリバーのないお前に勝機など微塵もない。それともお前に何か策でもあるのか? あるまいて! だが、ワシは慈悲深い器の大きな男じゃからのう。幼子より可愛がってきたよしみじゃ、今なら許してやらんでもない。剣を捨て、もう一度皇帝に忠誠を誓うのであれば、命だけは助けてやっても良いぞ? もっとも、ミミナシどもと同じ収容所で死ぬまで重労働じゃがな、ふ、くくく!!」


「これはいい! 七聖剣第二席まで上り詰めた男の転落人生! グロニア人でありながら、ミミナシと仲良く重労働!! 素晴らしいお考えですな、陛下!」


 バイロンと大貴族達はそろって笑い出した。


「策などない。だが、僕には未来が解る。僕は今日。邪魔をする者、古い者、腐った者をグロニアから排除し、皇帝になる」


「ほう? それは何故だ」


「何故ならば、僕はレーニッジ・アーモルド。グロニア最強の男だからだ!」


 レーニッジはそのセリフと同時、瞬時に間合いを詰め、ロイヤルガード1人の首をやすやすとはねた。


「バカ、な!?」


「ナイトアーマーといえど完璧ではない。間接や継ぎ目の部分を狙えば、剣1つで騎士を殺すことは可能だ。ましてや……平和ボケした貴様らのぬるい剣では僕はおろか、地球人にも勝てはしない」


「ええい。取り囲め! いくら奴の腕がたとうが、相手はたった1人だぞ! 半分はワシの側に! 残り半分は一撃でもいい! 鎧がない分、生身の体に傷を負わせればこちらのものよ!!」


 ロイヤルガードは皇帝の命令通り、半分の数をレーニッジの攻撃に割いた。


「我が身死しても、魂はグロニアと共に!」


「ムダだ、僕には通用しない」


 ロイヤルガードが次々とレーニッジに攻撃を仕掛ける。だがそれらは全てかするどころか、虚しく空を斬るだけだ。


「しょせん、型どおりの動きしかできない素人に、毛が生えた程度。そのレベルで騎士を名乗るとは!」


「覚悟!!」


 死角からの攻撃も、まるで後ろに目でも付いているかのように完全回避するレーニッジに、ロイヤルガード達は激しい焦りを覚えた。


「何故だ!? 何故当たらん! こちらはナイトアーマーで身体能力を強化しているのだぞ!」


「簡単なことだ。1に10を足しても100には届かない。凡人がいくら強化されようとも、絶対的強者の前でザコはザコ。僕とお前たちでは器が違う」


「これが、帝国最強の騎士……だが、魔法を使えば!」


「愚か者! そんなことをすれば陛下や貴族の方々にまで被害――が!?」


「ムダなおしゃべりは3時のティータイムだけにしておけ。ここは今、戦場だ。そうだ……その傲慢さがグロニアを弱くした」


 1人。また1人と、ロイヤルガードはあっという間にレーニッジによって倒されていく。


「や、やめろ! やめてくれ!!」


 そして、いつの間にかロイヤルガードは最後の1人を残して、広間に死体となって転がっていた。


「これが……これが、七聖剣第二席!? 化け、物……」


「剣を捨てろ。その古ぼけた粗大ゴミを捨て、僕に忠誠を誓うのであれば殺しはしない。僕としてもこれ以上の殺戮は望まないからね」


「だ、だが。私は陛下をお守りする! たとえこの命果てようとも!」


「古いな。お前の考えも、剣技も。地球人は進歩しているというのに、お前達はやれミミナシだ、無能だと罵るばかりで奴らから何も学ばない」


 レーニッジは最後の1人の手足の関節を斬ると、蹴り飛ばした。


「あぁ!! へ、陛下……お逃げくだ、さい……」


 バイロンは目の前で起きている出来事をまだ現実として受け入れられず、死んだロイヤルガードたちを指差し震えている。


「ばか、ばかな……ワシの……ロイヤルガードが……」


「これが現実だ。バイロン・レド・グロニア」


「あわ、わ、わ。は、ふ、ふ……」


 バイロンはやがて現実を受け入れると、玉座から転げ落ち、床を這うようにして大貴族たちの元へ行こうとした。


「どこへいく」


「ひゃあ!?」


 だが、レーニッジに背中を踏みつけられバイロンは逃げ場を失う。


「だ、誰か! ワシを助けよ! この若造の首をはねるのだ!」


 助けを求められた大貴族達は互いの顔を見合い、うむむとうなり始めた。


「へ、陛下が……しかし……」


「ぐ……わ、私とてまだ死にたくは無い! 剣など、子供のとき以来握ってなどいないのだから! そうだ! シュレー公爵! 確かそなた。この前、剣術大会で準優勝したそうではないか! そなたに陛下をお助けする役目を譲ろうぞ! うむ!」


「あ、あれは! 大会主催者にワイロを送って……金で買った名誉なのだ。いや、待てよ。聞いたことがあるぞ。ウェルン侯爵が魔法学院で主席だったと! そうだ、ウェルン侯爵! お主の出番ぞ!」


「魔法学院は……行っておらぬ。あれは、替え玉で……私は病弱だったので……こういうときそ、一番年若いヴァドレー侯爵が前に出るべきであろう! 年長者に恥をかかせる気か!!」


「わ、私は……」


 大貴族達の醜い争いを見て、レーニッジはため息を吐いた。


「これが、1000年続いた帝国の現状か……腐っているな」


「そ、そうか。わかったぞ! レーニッジよ。これは何かの冗談なのじゃな? な? そうであろう? 優しく愛らしいお前がこのような振る舞いをするはずがない! お前は冗談の大好きなやんちゃな子であったからなあ。ふ、ふ。ふふふ」


「僕は冗談が大嫌いだ」


 気持ちの悪いにやけ顔のバイロンに対し、レーニッジは鋭い刃のように研ぎ澄まされた視線で冷たく言い放った。


「ではこれは夢だ! そう、夢! ワシは悪夢を見ておる! うむ。早く目覚めよ、ワシ!」


「これは紛れもない現実だ」


 レーニッジは剣を皇帝に突き刺した。


「あ、ぁぎゃあああああああああああああ!?」


 だが、剣は皇帝に突き刺さっておらず、彼の股間のわずか下の床にニアミスしていたのだ。


「む、息子よ! 義理とはいえ、父になんということをするのだ……う、ううう」


 じんわりと大広間にアンモニア臭が漂う。その臭いの発生源は、バイロンからであって……彼はあまりの恐怖に失禁してしまったのだ。


「なんと情けのない。これがグロニア皇帝だと? 笑わせるな!! 害虫め。貴様など、グロニアにはいらぬ! 死ね!!」


「ひいい!?」


「父上! これは、一体!?」


 レーニッジがバイロンの首をはねようと剣を構えた時、アリーシアがゆっくりと大広間に入ってきた。


「血の臭いがするから何事かと思い来てみれば……これは、お前がやったのか、レーニッジ!」


「皇女殿下。お下がりください。今これから、グロニアは生まれ変わるのです。古き皇帝の死をもって、新しき皇帝が生まれる。その大事な場面に、あなたは必要ない」


「こんなこと、認めない! 父上はわらわがお守りする! この七聖剣第一席、アリーシア・レダ・グロニアが!」


「そうか。ならばちょうどいい」


 アリーシアは手に持っていた小振りの剣を地面に突き刺すと、唱えた。


「我が剣よ。敵を貫く刃と成り、我が身を守る盾と化せ……クロノス!!」 


「おお、クロノス! グロニアを統一した初代皇帝カインの所持した神聖剣! あれならば、いくら強かろうと!」


 神聖剣クロノスは、代々のグロニア皇帝が所持することを許された時の精霊の加護を受けた聖剣である。その鎧は白銀に輝き、時を操ることができる無敗の剣。


「何故、だ……何故わらわの声に応えない、クロノス!」


 だが、無敗の剣は彼女を主と認めてはいなかった。


「そなたの所持者はわらわぞ! カインの血を引くわらわの声に、なぜ応えん!?」


 アリーシアは何度も床にクロノスを突きたて、唱えるがただ時は無情に流れていった。


「違うな、アリーシア。クロノスが求めているのは絶対的強者。皇帝の血筋などではない。すなわち……それは僕の物だ」


 レーニッジはアリーシアに近づき、クロノスを奪った。


「か、返せ!! それは、わらわの――」


「我が剣よ。敵を貫く刃と成り、我が身を守る盾と化せ……クロノス!!」


 レーニッジが床に突きたてると、まるで神が光臨したかのように、広間はまばゆい輝きで満たされた。


「そんな……わらわの……クロノスが……」


「クロノスが……あの若造を選んだと……いうのか、バカな!!」


 バイロンは驚きと嫉妬の混じった表情で、白銀の鎧を見ていた。


「これで、僕はクロノスに認められた正式な皇帝だ。古き支配者は打倒され、新しき皇帝が新時代を築く」


「新たな、皇帝……陛下……」


「さて、バイロン・レド・グロニア」


「は、は。な、何じゃね? レーニッジ……様」


「僕は慈悲深い器の大きな男だからな。幼子より可愛がってもらったよしみだ。今なら許してやらなくもない。頭を垂れ、皇帝に忠誠を誓うのであれば、命だけは助けてやっても良い。もっとも、ミミナシどもと同じ収容所で死ぬまで重労働だがな、ふ」


 バイロンは額を床にこすりつけ、乾いたのどからしぼるように声を出した。


「レーニッジ……皇帝陛下……」


 この日、グロニア帝国は歴史上最高の転換期を迎えたのだった。

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