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信念の銃口

「おやめなさい!」 


 ――体勢を崩され、回避が間に合わない。シンヤがそう思った矢先に響いたのは、少女の澄んだ声だった。


「あん?」

 

 シンヤと男の間に割り込むように、少女が生身で割って入ってきたのだ。


「お前、まさか」


 その少女の声と小さな背中は、シンヤの頭にあの夜起こった出来事を思い出させた。同時に美しい貴族の少女の笑顔が連想される。


「やっとこさ出てきやがったな。次期グロニア皇帝。もしくは、七聖剣第二席。グロニアにとってVIP中のVIPの妹……」


「これ以上の蛮行は私、ラナイ・アーモルドが許しません。お引きなさい!」


「ラナイ……アーモルド? じゃあ。お前、あいつの妹なのか?」


 呆気に取られていたシンヤにラナイが振り返る。


「ごきげんよう、シンヤ。こんな形であなたと再会できるとは思ってもいませんでした。もう二度とあなたには会えないと……運命の赤い糸って、あるのですね」


 硝煙の臭いが漂う戦場で乙女なセリフを言うラナイに、シンヤはどうしたものかと頭が痛くなった。とにかく今はそんな場合ではない。


「あ、ああ。オレもだ。けれど、今はそんなしんみりした状況じゃないんだ。そこをどいてくれ、ラナイ!」


「そういうこった。こっちは楽しい殺し合いの真っ最中なんだからよお! 運命の赤い糸で結ばれてんならちょうどいい。2人まとめて首チョンパだ!」


 男は再び襲い掛かってきた。光の刃がラナイめがけて振り下ろされる。


「ラナイ、離れてろ! お前はオレが守る!!」


 ラナイを背中に隠すようにシンヤが前に出て、男が放った光の刃に備え防御の姿勢を取る。


「お前はオレが守る!! だあ? くっさいセリフはいてんじゃねえぞ、ガキが!! そーいうのはなあ、10年後に黒歴史なんだよ!!」


 だが、男は一撃目を光の刃と見せかけ、回し蹴りを放ってシンヤのガードを崩す。無防備になった所に本命の一撃を決めようと大きく振りかぶった。


「シンヤ!?」


 接近戦における経験値は明らかに向こうが上だ。その上こちらには装備がない。せめて、条件だけでも同じにしなければ話にならない。


「ダメだ。こっちも何か接近戦用の武器がないと……!」


 ヘルメット内部のモニター。そこにプラズマキャノンが表示される。


「だめだ。こいつは屋内じゃ使えない。他に武器はないのか!?」


 その威力はシンヤも知るところだが、こんな至近距離で放てばラナイも巻き込んでしまう。そう考え直していると、プラズマキャノンの表示に矢印が現れ、他の武装が選択できるようになった。


「あった……近距離剣撃オプション……レーヴァテイン」


 プラズマキャノンの表示と入れ代わるように、そこに巨大な片刃の剣が表示され、シンヤは迷わずそれを選択する。


「レーヴァテイン、セット!」


 両肩に背負ったプラズマキャノンの左側が分割し、そこから剣が姿を現すと、シンヤはそれを引き抜いて光の刃を受け止めた。


「接近戦用の武器が大砲から出やがっただと! かっこいいじゃねえか、ラグナロク。バイクからの変形といい……男心をくすぐりやがる!」


「武装名:レーヴァテイン。オリハルコン製の刀身は上級騎士のナイトアーマーを豚肉みたいにスライスできる……一応データ上じゃそうなってるらしい。けど、データはデータだよな?」


 シンヤがレーヴァテインで光の刃を弾き返すと、男は後退して体勢を整えた。


「あんたの体で試してやるぜ、こいつの切れ味を!」


「てめえ、俺のセリフぱくるんじゃねえよ。著作権違反で訴えんぞ!」


 男は光の刃を構えると姿勢を低く、フェンシングのように突き刺してきた。


 シンヤはそれをレーヴァテインで受け止め、カウンターに回し蹴りを放つ。


「オレには戦闘の経験はない。あんたがスペックの差を経験で埋めるって言うんなら、オレは経験の差をスペックで埋める!!」


「うを!?」


 ヘルメット内部のモニターに、戦闘支援AIからレーヴァテインを使った高速機動戦闘術が提案される。地形を活かしヒットアンドアウェイを可能にする、この屋内ではもっとも有力な戦術であると表示されていた。


「翻弄するぞ、ラグナロク。高速機動戦闘モードでケリを付ける!」


 ラグナロクは、元はバイクであった。その名残が両足に残った車輪である。それが勢いよく回りだし、アサルトアーマーの車輪を使った人型での地上走行を可能にした。


「速い!!」


 まるで大地を滑るように駆けるその姿は、疾風の如く。歩行時とは比べ物にならない速度で地面を駆け、踏破する。


「くっそ速いローラースケートってか? 生きてるやつは足を止めろ! 当たらなくてもいい! 動きを抑えるんだ!」


「は!!」


 今まで遠巻きに見ていた黒服の男達がシンヤに向けて発砲する。


「ダメだ当たらん! 速すぎる!!」


「地球人同士で殺しあってる場合じゃないだろ! オレ達の敵はグロニア帝国だ!!」


 だが、当てる以前の問題で、そもそも狙いのつけようが無く、引き金を引く前に男達のライフルはレーヴァテインによって、真っ二つに一刀両断されてしまう。


「役立たずのザコどもが!!」


 男は連結させていたプラズマガンとナイフを取り外すと、照準をシンヤに向けて引き金を引いた。


「速度制限くらい守れや!!」


 プラズマガンの光弾は、高速機動モードのラグナロクには一切かすりもせず、シンヤは一気に間合いをつめた。


「今はスペックであんたを圧倒しているけれど、いつか絶対に……オレはスペックに頼らない戦い方で勝ってみせる! だから、今は!!」


 レーヴァテインを男の胸部に振り下ろす。刀身の部分ではなく、峰打ちの要領で一番ガードが固い部分を強打した。


「お……ぉ」


「隊長!!」


 男は地面に膝を付くと、荒い呼吸を整えながら駆け寄る部下を右手で制する。


「いてぇ。いてぇぞこの野郎。俺がマゾヒストなら作戦継続してるとこだが、いてえ! アバラ何本かいってるみてーだし、今日のところはこれくらいにしといて……やる!」


「退いてくれるのなら、オレはそれで構わない」


「それにな、俺は嬉しいんだよ。ここまで俺を痛めつけてくれてよ」


「あんた、やっぱりマゾなんじゃねえかよ……」


「違うに決まってんだろうが! お前のその力があれば、グロニア人を殺し放題だ! 俺の夢が叶うんだよ……俺から愛しいママンを奪い去ったグロニアのクソどもを、1人残らずミンチにしてやるっつー、最高の夢がな!」


「マゾの上にマザコンなのかよ……最低だな」


「俺はマザコンじゃねえ! 母親っていうのはな、女神なんだよ。この世に俺という存在を生み出した創造主なんだよ! そのママンをなあ、グロニアのブタ野郎どもが5歳のキュートなボウヤだった俺の目の前で辱め、殺しやがった! 俺の……大好きなママンを!! う、ぅ……」


 男は泣いているのか、肩を震わせながら地面に思い切り拳をたたきつけた。


「なあ、お前。俺と一緒に来いよ? 俺と一緒に来れば、グロニア人を殺し放題だぜ? あまっちょろい奪還派の連中なんぞとつるむより、俺ら殲滅派のほうが自由きままに気持ちよく生きれるってもんだ。一緒にグロニア人をぶっ殺そうぜ。なあ!?」


「癒しの力よ……」


「は?」


「ラナイ!? 危ない、逃げろ!」


 なおも何かを叫びだした男を遮るように、ラナイが治癒の魔法を彼に施した。


「な、何してやがる!? 俺の体に触れるんじゃねえ! グロニア人が!!」


「動かないでください。骨がへんにくっ付いてしまいます」


「そうじゃねえ! 何でグロニア人が、グロニア人が俺の傷を癒してやがんだ!」


「傷付いた人がいれば、癒します。それが地球人であろうと、グロニア人だろうと。見捨てることなんて、できないもの」


「おかしいだろうが!? お前らは俺からママンを奪った豚のはずだ! こんなことしてるんじゃねえ!!」


「私には、わかりません。地面に額をこすりつけて謝罪しても、20年前に死んだ人々は生き返らない。地球から出て行けといわれても、行く場所も帰る場所もない。でも、だからこそ思うの。私達は地球人のことを知るべきだって。今は無理でも……いつか一緒に手を取り合って生きていけることができるって」


「ラナイ……」


「治癒が終わりました。骨折した骨も元通りになっているはずです」


「そうかい、ありがとよ! バカな女!!」


 男はラナイに向けてプラズマガンの銃口を向けると、引き金に指をかけた。


「お礼に頭吹っ飛ばして、殺してやる!」


「ふふ。初めてですわ、そんなお礼をいただくの」


 ラナイは逃げるでもなく、男の銃口をつかむと自分の額にぴったり押し当てた。


「て、てめえ!?」


「約束してください。私が死ねば、グロニア人を憎むことをやめると。1人でもグロニアを憎む地球人が減るのであれば……私の死にはちゃんとした意味が生まれます」


「やめろ、ラナイ!!」


「ぐ、う……ち!! 時間だ、てめら。引き上げるぞ!!」


「は!!」


 隊長の一言で黒服たちは撤収していく。


「俺の名前はガイアス・キャンベル。ラナイ・アーモルド。あんたには傷を癒してくれたカリができちまった。今日のところは殺さないでおいてやる。けど、忘れるんじゃねえ。俺は絶対お前らグロニア人をゆるさねえ。次は、絶対に殺してやる……」


「わかりました。では、お茶とクッキーを用意して再会できる日をお待ちしていますわ、ガイアスさま」


「……ふざけやがって!」


 ガイアスは足早に去っていった。


 その後姿が消えると、ラナイは膝を付いて倒れかけた。


「大丈夫か、ラナイ!」


 ラナイをなんとか抱きかかえ、シンヤは地面にゆっくり下ろす。


「すっごく、恐かったです……シンヤ」


 ラナイが笑顔のまま涙を流していた。


「オレは……信じるよ。グロニア人を。いや、ラナイを。いつか地球人とグロニア人が分かり合える日が来ることを」


「ありがとうシンヤ。あなたと出会えて、本当によかったです。やっぱりこれは運命、ですね」

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