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「あなたって酷い人ね。私の気持ちを知っておきながら、抱き締めるなんて・・・」
涙声のムササビ族に偶然だ、とは言えなかった。
「あきらめたくない。あきらめたくないの。あなたは私の初恋の人なのよ。・・・あの鷹族もきっとそう」
「鷹族も?」
「あら、知らなかったの?余計な事を言っちゃったわ」
「何故?」
「フフ、分からないなんてね。どうしても知りたいなら、鷹族にでも訊いてみたらいいじゃない」
「お前は教えてくれないのか?」
「本当に酷い人ね。振った相手に訊かないでよ」
もういいわという風に、ムササビ族は俺から離れた。俺に背を向けて苦しげに言った。
「私は諦めの悪い女よ。ねえ、私の事が少しでも好きなら、私の尻尾をさわって」
眼前にムササビ族の尻尾がふわりと持ち上がった。