第一部 現代テーマパーク inサウス
【カズ】
「ここが現代テーマパークだ」
【カズ】
「ひとまず ここに身を潜めよう。もちろん心の方も」
【タマ】
「………」
【カズ】
「なに恥ずかしがってんだよッ!俺がエスコートするんだから泥船に乗った気でいりゃいい」
【カズ】
「はい 行こう」
【タマ】
「お、おいッ!カズッ!」
【受付】
「いらっしゃいませ。今回はどのような現代作品をご希望でしょう?」
【カズ】
「人間物語のお試しコースを」
【受付】
「お試しコースですと およそ一週間となります」
【タマ】
「………」
【受付】
「すぐご入場されますか?」
【カズ】
「はい」
【受付】
「基本設定はいかがなさいますか?」
【タマ】
「あたしはおまかせで」
【カズ】
「いや 決められるならこっちで決めたい」
【タマ】
「………」
【カズ】
「スレンダー」
【カズ】
「黒髪のロングストレート」
【カズ】
「気の強い性格」
【カズ】
「年代は……ツンデレなおねえさん?二十歳の大学生ってイメージ」
【カズ】
「でお願いしますと 連れが言ってます」
【タマ】
「はぁ?」
【カズ】
「ちなみに俺は――」
【タマ】
「……神代の恥さらしが。勝手にやってろ」
【カズ】
「ね♪ ピッタリでしょ?タマは現代へ行ってもこうなる」
【受付】
「………」
【受付】
「企画書等の持ち込みがございましたら こちらと致しましても できる限りの反映はさせていただきますが?」
【カズ】
「傭兵の寄せ集めじゃなさそうだ。察しがいい」
【受付】
「恐れ入ります」
【カズ】
「受付嬢にも気を配ってるし」
【受付】
「確かにお受取り致しました」
【受付】
「では準備が整い次第 お呼び致しますので お手数ですが 必要事項のご記入をお願いします」
【カズ】
「ん? ああ 同意書にサインね」
【タマ】
「………」
【カズ】
「怪訝そうにするなよ。これからアトラクションに乗るんだぜ」
【カズ】
「ほら 入場する前の注意事項その他もろもろ。ちゃんと読んどけよ」
【タマ】
「………」
【カズ】
「んなもん アンケートだと思って テキトーに書いとけばいいんだって。真面目過ぎだで」
【タマ】
「お前さ……」
【カズ】
「ああ ワクワクしてるよ。どんな物語ができあがるのかって」
【タマ】
「後悔してるんじゃないか?」
【カズ】
「あぁん?」
【タマ】
「お前はソラを護れなかった」
【カズ】
「そうだな。自分はお前らとの間に境界線を引けなかった」
【カズ】
「……わかっちゃいたが 二兎はキツかった。一兎を得るのもしんどいのに。まんまと葛藤させられちまった♪」
【タマ】
「本気の代償を払わされて 然るべき心理状態にあるのに この気の変わりようはなんだッ!後悔してるなら素直に認めてやれよッ!」
【カズ】
「………」
【カズ】
「夢にまでみた お前との現代デート……なんだぜ? まぁあの時の調子を思い出そうと 無理矢理モチベーションを上げていたのは認めるけどさ」
【カズ】
「時間に解決を求めるよりも もっと効率のいい解釈の仕方を見つけた」
【カズ】
「というより自分もさっき気付いたんだ。自問自答は嫌いだからな」
【カズ】
「上回るように仕向けるにはどうするべきか」
【タマ】
「………」
【カズ】
「お前は 青空が負けた時の保険だったってことにな」
【カズ】
「だいたい 神代と裏神代のジョーカー的存在のお前らだ。誰よりも心臓で動くし いずれは白黒つけなきゃいられない関係でもあった」
【カズ】
「……なぁタマ。青空がいなくなった今 自分と絡んで何になる。もう意味を成さないだろッ!」
【タマ】
「意味は成す。あたしには まだッ! まだどうしてもお前が必要なんだ」
【カズ】
「サプライズプレゼントの中身はデートが終わってから こっそり確かめようっと♪」
【タマ】
「今はそれでいい。それで」
【カズ】
「ん?そういや神代じゃ 相手へ気持ちを伝える方法として ”言葉”を故意に遠ざけてるよな」
【タマ】
「一番手っ取り早い分 それ相応のリスクが伴う。っていまさら教えてやることか?」
【カズ】
「そうか。だから自分達のやりとりはめちゃくちゃで 見分けがつかないんだ。どれが本音で どれがたてまえか判らないときた」
【タマ】
「言いたいことが伝わればそれで済む話だ。言葉には依存しない」
【カズ】
「でもこれからは依存することになる」
【タマ】
「……知ってるよ。そんなこと」
【カズ】
「リスクが必ず付きまとうことも?」
【タマ】
「……そうだよ。覚悟してる」
【カズ】
「それとな 旨くいかないからって 戦国時代に自動車を持ち込むなよ。空気が汚れる」
【タマ】
「……しつこいなぁ。ちょっとはあたしを信用しろよな」
【カズ】
「なんていうか やっとこさジェットコースターに乗る順番が回ってきたような気分なもんで」
【タマ】
「ふん 一週間なんてあっという間に過ぎるよ」
【カズ】
「さーて 自分にできるかな」
【タマ】
「カズ。何か企んでるなら 今のうちに白状したほうが身のためだぞ」
【カズ】
「タマ。恐いなら 素直に恐がっていいんだぞ。乗りたくないって」
【タマ】
「現代作者の作風もまた 時代とともに変遷をたどる運命にあるからなぁ」
【カズ】
「おうおう そうこなくちゃッ!張り合いが抜けちまう」
【タマ】
「……どさくさに紛れ込んでる この台本は頑なに口を割ろうとしないんだ。大学生と子供の張り合いに あたしも一枚噛ませたがる理由を」
【カズ】
「………」
【カズ】
「へっ 自分が試されるようなタマかよ。見下した駆け引きはやめろって」
【タマ】
「………」
【カズ】
「……はぁ。ったく」
【カズ】
「お前は お前は青空がまだ 神代にいると思ってるみたいだが」
【カズ】
「自分はいないと思ってる」
【タマ】
「あたしはいると思うぞ」
【カズ】
「そうかもな……って認めるか。仮にいたとしても あいつとはもう二度と逢えない」
【タマ】
「いや 逢いたいなら逢う。逢わないのは逢いたくないからだ」
【カズ】
「今度ばかりはそうはいかないッ!」
【カズ】
「冷めさせたら何もかも終わっちまう。そういうヤツなんだよ青空は」
【カズ】
「自分は……自分は……何てことをして――」
【受付】
「お待たせ致しました。ではこちらへ」
【カズ】
「………」
【タマ】
「カズ」
【タマ】
「ようやく決まったテーマの存在意義を 完全否定しかねない ぎりぎりのところまで反抗できた作者は いつだってこう言い放つ」
【タマ】
「引き換えに得たものなど何も無かった」
【タマ】
「………」
【カズ】
「タマ」
【カズ】
「トロイの木馬に毒された感染者は こぞってこう思ってる。教えておくよ」
【カズ】
「現代こそ 主人公が一番輝ける舞台だった」
【カズ】
「ありがとう ってな」
『
【タマ】
「――言わなくてもいいんだ。カズ」
【タマ】
「言っても、言わなくても、お前が死ぬことはないんだから」
【カズ】
「………」
【カズ】
「タマ。お前……」
【タマ】
「……お前はッ! お前のやりたいように生きればいい。あたしはそれを否定したりはしないからさ」
【タマ】
「……戻ろう。あたしの家に。休憩の時間はとっくに終わってる」
』
【タマ】
「………」
【カズ】
「タマ」
【タマ】
「………」
【カズ】
「タマッ!」
【タマ】
「……え?」
【カズ】
「止めるなら今のうちだぞ。何度も言うようで悪いが」
【タマ】
「だ、誰がッ!」
【カズ】
「はは 自問自答はほどほどにしとけよ」
【受付】
「ではご乗車の前に なん点か お伝えしたいことが御座います」
【受付】
「法律上 一切の記憶の抹消は正規ルートのみと定められています」
【受付】
「よって わたくし共がご提供できるのは配役。そして 既存への記憶の賦与となります」
【受付】
「また 気分がすぐれない。もしくは生に危険を感じたら 速やかにご利用をお止めになることを強くおすすめします」
【受付】
「しかしその際は――」
【カズ】
「アンコールはいらない」
【受付】
「当アトラクションは遊びではありません。くれぐれも 生に影響を及ぼしかねない危険性が潜んでることを重々ご理解した上で 心ゆくまでお楽しみ下さい」
【タマ】
「どうりで政府がほっとくわけだ。尻上がりにものを言えば主導権を握れると思ってる」
【カズ】
「……やれやれ」
【受付】
「手を出すということは 認める行為に当たりますから 野放しにするのは当然のことでしょう」
【タマ】
「模倣作者の集まりが。潰れかけのテーマパークに脅威が無いだけだよ単に」
【カズ】
「おい それ以上関わるな。早く行こう」
【受付】
「関わってますよ?」
【カズ】
「好きなようにやったらいい。自分はそれを否定できない」
【受付】
「………」
【タマ】
「……はいはいかっこつけない。さっさと乗るぞクソガキ」