カズサイド
『
【魔王】
「魔法……と例えますか」
【魔王】
「ですがすでに現代の主人公達はその魔法を使えてるはずですよ?新しい命を自分らの意志で生み出せてる。しかも始まりからね」
【魔王】
「それって普通に考えればとんでもないこと。私なら恐怖心を感じて現実逃避したくなるでしょう」
【魔王】
「そしてこう思う。この優劣感は一体なんだ」
【魔王】
「そしてこう考える。本当は優等なのではないか……?と」
【魔王】
「だが何もできない。何も」
【魔王】
「皆さんの皮肉はもっともです。だからこの場を借りて即座にお返しします」
【魔王】
「我々スタッフ一同 キャストに現実へ目を向けさせる自信がある」
【魔王】
「いい距離間を保った作品を発表できるとね」
』
【ハツネ】
「………」
【ソラ】
「どったの?これから裏神代だってのに」
【ハツネ】
「行き先変更だ。戻って受刑者と面会する」
【ソラ】
「残る脅威はコンピュータとこしもとだけになったということかな」
【ハツネ】
「案の定」
【ソラ】
「まぁしゃーないことだよねぇ。誰も手出しできなかったんだから」
【ハツネ】
「恋のキューピット候補じゃなかったのか」
【ソラ】
「戦況はなかなか変わらないものだねぇ~」
【ソラ】
「うちの御大将が絡めばワクチンがバックにつく」
【ソラ】
「ワクチンが絡めばうちの御大将がバックにつく」
【ソラ】
「では他は?」
【ハツネ】
「両方がバックにつく」
【ソラ】
「つまりはコンピュータ様と呼ばんといかんのだよ。あんた 脚本に目通してないの?」
【ハツネ】
「アドリブ好きのお前が様をつける?」
【ソラ】
「どうでもよくないんでね。いつもの修正ツッコミはおせっかい」
【ハツネ】
「いやいや ワクチン相手じゃテリトリー化も解析ツールも通用しない。フォローする気はない」
【ハツネ】
「オレ達は明けの明星を倒そうとしてるんだ」
【ソラ】
「神代が現代を騙す。それは同意のもとだから許せる。けど――」
【ソラ】
「『神』が『神』を騙すのは許しがたいッ!」
【ソラ】
「私は 永遠といえる時間 君臨し続けてきた神という座から引き摺り下ろしたい」
【ソラ】
「そのために――」
【ハツネ】
「よせッ!寿命を縮め――」
【ソラ】
「アタシは作品を駒にした」
【ハツネ】
「………」
【ソラ】
「作者が……作品を主人公にさせてやれなかった時点で終わってた」
【ソラ】
「後悔からじゃないよ。だってアタシの心臓は おタマに聞かされたときに決まったんだから」
【ソラ】
「ようやく本気に出逢えた」
【ハツネ】
「………」
【ハツネ】
「オレもお前もできることは全てやった。後はタマを信じ 待ち続けることだ」
【ハツネ】
「大丈夫。タマなら8月1日までに作品を完成させる」
【ハツネ】
「なぜかって?そりゃお前 タマも最長寿だからさ」
【ハツネ】
「全ての存在を知る可能性があって それでいて全ての時代を知ってる」
【ソラ】
「せんせーッ!一つ質問。おタマはワクチンが明けの明星になるという時に どうして指を咥えられていたの?」
【ハツネ】
「物事にはタイミングというものがある。ましてや天敵。勝てる時に倒すもの」
【ソラ】
「誰を待ってたの?」
【ハツネ】
「……でだ。次にこしもとを狙うかどうかだが オレは狙わないと踏んでる」
【ソラ】
「ワクチンの妹分だもんね♪」
【ソラ】
「であるから いまだにくさい飯を食べ続ける神物がどちらなのか見極めにいくと」
【ハツネ】
「オレやお前がちょっと接触したところで膠着状態は破られない。唯一ワクチンが動くとしたらそれはコンピュータ絡みだ」
【ソラ】
「んじゃいきますか。イースト地方 キャスト禁制の地へ♪」
【ハツネ】
「……悪い。ソラ。言いそびれた」
【ハツネ】
「オレはお前を疑ってる。ワクチンかこしもと。そのどちらかだって」
【ハツネ】
「………」
【ソラ】
「会う前に言ってくれてよかった」
【ソラ】
「たぶん 証明は難しいだろうけど 私から裏切るなんてことできっこないから ぜったい」
【ソラ】
「謝罪の絡みは結構」
【ソラ】
「ハツネは外に待たせてある」
【明けの明星】
「んじゃ昔話でもしようか」
【ソラ】
「………」
【ソラ】
「歴史の勉強でしょ おばあちゃん」
【明けの明星】
「アタシに代表作はありゃあせん♪」
【ソラ】
「出てくる出てくる。耳を澄ませばもっと出てくる」
【明けの明星】
「始まり連中なんて中身がからっぽでグタグタだよ」
【ソラ】
「現代配置のことを指してるなら先に進んではくれないだろうか」
【明けの明星】
「生きる価値があるとしたら 第一回のルール決め会に参加できることだね」
【ソラ】
「部屋が殺風景だからって その始まり連中が必ずしも劣等とは限らないんじゃない?」
【ソラ】
「本当はもっと早く死ぬはずだったのに 新入りがひきこもったせいで先延ばしになった」
【明けの明星】
「おッ!イキがいいねぇ~。そろそろお役御免でいいかも」
【ソラ】
「ありがたいことに」
【明けの明星】
「んで新入りの働きぶりはいかがかな?」
【ソラ】
「時間をくれたね」
【明けの明星】
「そっちはまだ完成してないようだけどね」
【ソラ】
「明けの明星は時間をくれないようだ」
【明けの明星】
「あげるって。だって要するもん。現代を創作するってことは」
【ソラ】
「………」
【ハツネ】
「そ ソラ……」
【ソラ】
「時間という恩を 決定権という形でお返しする気満々だったね」
【ハツネ】
「膠着状態は続く……か」
【ソラ】
「ハツネ」
【ハツネ】
「……どうした?」
【ソラ】
「アタシはこの戦況受け入れると思う?」
【ハツネ】
「二つの意味で無理があるな」
【ソラ】
「だね。アタシのことだからどえらいことを期待する」
【ハツネ】
「オレは何をやらかすと思う?」
【ソラ】
「おしらせッ!話題はウィルステロからワクチンショックへ移行となりました」
【ハツネ】
「有権者は黒幕と勘違いする。そうなったら怒りの矛先が自然と明けの明星に向けられる」
【ソラ】
「ひとーつッ!ウィルス以上に嫌われました」
【ハツネ】
「それでもまだ うちの作品が劣ると決まったわけじゃない」
【ソラ】
「でも宣伝効果はうち以上」
【ハツネ】
「ブレてんのかお前……」
【ソラ】
「ぶっちゃけ進行表を渡されてからずっとだよ」
【ハツネ】
「強気過ぎる」
【ソラ】
「結末を教えます。方法も……けれど上回れないときた」
【ハツネ】
「所詮オレ達は 何をやっても暇つぶしにしかならない」
【ソラ】
「……チート過ぎるよ。設定権利ってのは」
【ハツネ】
「設定。また設定。それを地道に 鎖で繋いでいく作業は地味過ぎるけどな」
【ソラ】
「帰る?」
【ハツネ】
「考えてることは他の連中も一緒だと思う」
【魔王】
「はじめまして 新入りと申します。この度 縁あって 皆さんと一緒にお仕事させて頂くことになりました」
【ハツネ】
「………」
【ソラ】
「わざわざ出迎えてくれたの?」
【魔王】
「いえ ばったりと……」
【ソラ】
「運命だねこりゃ」
【魔王】
「ハツネ先輩もそう思いますか?」
【ハツネ】
「ワクチンは君に感謝していた」
【魔王】
「自分はひきこもっていただけです」
【ソラ】
「我慢して力を蓄えたわけじゃないからすごいよね」
【魔王】
「からかわないでください」
【ソラ】
「からかってなんかないよ。新入りはどえらい。おかげで御大将と出逢えた」
【ソラ】
「どうもありがとう」
【ソラ】
「ありがとう……」
【魔王】
「………」
【魔王】
「これでワクチン接種者はオレと紅里子ちゃんだけとなりました」
【ソラ】
「知ってる。で こしもとの居所は掴めたの? 新入り」
【魔王】
「はい」
【ソラ】
「え……?」
【魔王】
「でもご心配に及びません。青空は接触を断ちましたから」
【魔王】
「もはや脅威ではないということです」
【魔王】
「先輩方ならご存知ですよね?オレに決定権を与えたこと」
【魔王】
「それがどんな意味を持つことも」
【魔王】
「青空を護るのか」
【魔王】
「タマを護るのか」
【魔王】
「それとも両方護るのか。両方護らないのか」
【魔王】
「しかも神代の未来が懸かった選択。正直言って 正直言ってね……」
【魔王】
「先輩方と同じ 明けの明星を相手する方がワクワクする」
【ハツネ】
「………」
【ソラ】
「………」
【魔王】
「タマの心臓は青空。だからオレが本気の舞台に導くことを期待している」
【ソラ】
「導けるの?導く気はあんの?」
【魔王】
「もちろん 作品は内容だけで評価されない」
【ハツネ】
「例の”自覚”か」
【魔王】
「ええまぁ……オレがいつやらかすか。大体見当はついてる」
【ソラ】
「見合ってない現実ねぇ~」
【魔王】
「それまで何もしないことです。この先何が起きようとも お鶴の本気の集中を途切れさせては全てが水の泡」
【ソラ】
「とうとう動きますか。でもどう動くんだろ~?」
【魔王】
「ケイとチハルをここに連れてきたい」
【ソラ】
「居所はすぐ掴める」
【ハツネ】
「おいおい本気か?そうなれば 明けの明星もここに連れてくることになる」
【魔王】
「まさにそれが狙いです」
【ハツネ&ソラ】
「え?」
【魔王】
「青空のことならオレに関わらせればいい。難なく対処できる絶対的自信がある」
【ソラ】
「………」
【ソラ】
「面白い。今調べさせよう」
【ハツネ】
「政府が作成した監視対象者リストにいるケイとチハルという姓だ。大至急頼む」
【魔王】
「で どう? 先輩はオレを上回れる自信ある?」
【ソラ】
「んにゃ 入口で話を済ませた時点で消え失せた」
【魔王】
「異なることで比較でき 相性ってものが生まれる。踏み込まない方がいい。知らない方がいい。お互いにとって」
【ソラ】
「しかしね 新入り。先輩としては同行しないわけにはいかんのだよ」
【魔王】
「それじゃお願いしまーす」
【ハツネ】
「最近の話だ。平穏をとりわけ好む有権者の現代移住に伴い イースト地方がキャスト禁制の地と呼ばれるようになったのは」
【ハツネ】
「つまり ここにいる連中はみな 現代作者を目指してる」
【ソラ】
「ご指名は裏切りじゃない?」
【魔王】
「青空やタマ そしてオレも8月1日を過ぎればギラギラしなくなる」
【魔王】
「それはどっちに飛び降りようとも 飛び降りなくとも変わることがない。なぜなら 神代の主人公に次などという未来はないのだから……」
【魔王】
「……だから 当然正当化する必要がある。自分を後悔させないため」
【魔王】
「聴こえるんだよ。お役御免になりたかったら せめて新神代を未来に繋げろと」
【魔王】
「そしてその結末には三者とも合意している」
【ハツネ】
「同情はできない」
【ソラ】
「神のいいところをわるいところがいずれ上回ることは想定できる」
【ハツネ】
「……結局どっちなんだ?」
【ソラ】
「お姫様じゃなくてよかったと思ってる」
【魔王】
「………」
【魔王】
「オレは先輩方が跡目にならなくてよかったと思ってる」
【ハツネ】
「………」
【ソラ】
「必然といや必然」
【魔王】
「永久無罪が妥当じゃないですかね?」
【ソラ】
「……あっさり終わっちゃったね。ハツネ。これからどうする?」
【ハツネ】
「……お前に任せる。ただ 精神が崩壊していくさまを見るのは苦しい」
【ソラ】
「んじゃ苦しもうか?」
【魔王】
「後はどれぐらい意識を保ってられるか。意志の強さにかかってる」
【魔王】
「……悪いですけど オレは先を急ぎます」
【ソラ】
「あたし達はワクチン接種者を監視下に置けなかったけど 明けの明星は違うんだよね」
【ハツネ】
「全ての存在 物事が筒抜けだ」
【魔王】
「はっきりしたらどうです?」
【ソラ】
「口が軽いのは意識して? それとも無意識?」
【魔王】
「オレは青空とタマのスタッフを現代送りにするから魔王とイジられたんだ」
【ソラ】
「口を堅くできるの?」
【ハツネ】
「明けの明星はまんまと優越感に浸らせた」
【魔王】
「………」
【魔王】
「肩書き付きの登場シーンはオレの神生脚本に盛り込まれてませんよ」
【ソラ】
「おタマのことを本気で想ってるならその言葉に嘘はない。よね?」
【魔王】
「ケイッ!チハルッ!」
【ソラ】
「第三走者にバトンタッチってところかな?」
【ハツネ】
「コンピュータはワクチンに守られてるが このガキ共は政府の監視対象。妨害行為もしなかった」
【ソラ】
「自動的に情報が送られるね」
【魔王】
「以前話したハッカー集団の重要メンバーだ」
【ソラ】
「政府にはあなたが見えて あたしには見えない。おわかり?」
【ハツネ】
「こうみえても 現代作品がどれほどの意味を持つかぐらい理解している。自信もある」
【魔王】
「ならサーバー構築講座を開くのはどうでしょう?」
【ソラ】
「ほらきた。作者志望でもないのに業界用語なんか使っちゃってさ~」
【ハツネ】
「勝負師だなぁ お前も」
【ソラ】
「おい 子供。お前達の敵は政府でもあたし達でもない」
【ケイ】
「あぁん?」
【ソラ】
「いなくなったはずのワクチンが明けの明星だってこと。明けてからずっと……未だにね」
【ハツネ】
「そんな大それた特ダネを背負ってさ これから8月1日まで生き抜けると本気で思ってる?」
【ハツネ】
「どんな意地があるにせよ 今はおとなしくオレらと行動を共にするしかない」
【魔王】
「………」
【ケイ】
「………」
【チハル】
「………」
【ケイ】
「利用しろ」
【魔王】
「では先輩方 後頼みます」
【ソラ】
「ギラギラしてるね♪」
【魔王】
「新入りなんで がむしゃらにやっていくしか……」
【ソラ】
「………」
【ハツネ】
「オレも行こう。お前は案内を頼む」
【ソラ】
「ささっ どうぞ中へ」
【魔王】
「………」
【ハツネ】
「なぁ……どうして入りたがらない?」
【魔王】
「青空が仕掛けた地雷の一つだからですよ」
【ハツネ】
「確かに手術室の前で待ってたってそわそわするだけだな」
【魔王】
「誠に残念ですが……では済まされないので」
【ハツネ】
「つまり互いに空気は読んでると」
【魔王】
「結末に向かって 先輩方の作品完成は不可欠です」
【ハツネ】
「七草華美とこしもとが同一神物だって?」
【魔王】
「残念ながらオレと紅里子ちゃんではありません」
【ハツネ】
「ワクチンのお前に対する恩は本物かよ」
【魔王】
「青空がオレのそばに紅里子ちゃんを置き 受験が終わったらそれを演じる……なんて展開は想定できただけで十分だ」
【ハツネ】
「お前が明けの明星だってオチもか?」
【魔王】
「なるほど。だがあいつの噛ませ犬発言は女という意味に対しての皮肉でしかない」
【ハツネ】
「で どうなんだ?」
【魔王】
「オレは用心深いか?」
【ハツネ】
「自転車の鍵に二重ロックは必要ないと思っている」
【魔王】
「正真正銘 青空が明けの明星ですよ。タマでもありません」
【ハツネ】
「ほんと お前らは都合がいいな」
【魔王】
「先輩なら 何でもありの相手にどう立ち向かうべきだと考えます?」
【ハツネ】
「………」
【魔王】
「残された時間はわずかです。先を急ぎましょうか先輩」
【ソラ】
「案内と一服。順番は?」
【ソラ】
「おタマ部屋前~♪おタマ部屋前に到着致しました~♪」
【チハル】
「醜い」
【ソラ】
「絡みにくい」
【ソラ】
「いいですか?決して覗いてはいけませんよ。集中が途切れて完成しなくなりますから」
【ケイ】
「我慢できないのはそっちの方なんじゃないのか?」
【チハル】
「したくてもできないんだよ。自分を否定することになるから」
【ソラ】
「何言ってんの?あたしは跡目を捨ててない」
【ケイ】
「どうでもいい」
【チハル】
「というより投げやりな印象を強く受ける」
【ソラ】
「道連れにしてやろうか?」
【ケイ】
「ここにいれば安全だ」
【チハル】
「チハル達に手を出せない」
【ソラ】
「これだからクソガキを嫌いになれない」
【ソラ】
「膠着は……もうしばらく続きますかな」
【ハツネ】
「イースト地方に戻ってきただけじゃねぇか」
【魔王】
「見てみろ。何もない。空間だらけだ」
【ハツネ】
「現代に希望を抱かせたのはタマだ」
【魔王】
「あいつは器用じゃないからな」
【魔王】
「………」
【ハツネ】
「まさか 見えない布を被せてるだけなのか?」
【魔王】
「というと……?」
【ハツネ】
「装飾が施されてる。作品の」
【魔王】
「青空は遊園地をここに建ててると そう確信したのか?」
【ハツネ】
「いや。タマなら隣に作るだろう」
【魔王】
「それじゃ孤独にできねぇだろうが」
【ハツネ】
「え?」
【魔王】
「青空はな タマをサウスに閉じ込めるつもりなんだ。徹底的に打ちのめす」
【ハツネ】
「どうやって?」
【魔王】
「切り取る」
【ハツネ】
「なんだって?」
【魔王】
「歴史にはサウスの大移動と記される」
【ハツネ】
「………」
【魔王】
「世間様にとってタマは悪でしかない」
【魔王】
「この悪さえ葬り去ることができればいいのに……政府は関わろうともしない」
【魔王】
「……有権者もシャットダウンを決断しない」
【魔王】
「生きてるからだ」
【魔王】
「そこへ青空が……明けの明星が登場してみろ。どんな反応を示す?」
【魔王】
「歴史には王の帰還と記される」
【ハツネ】
「ふざけてるのか?」
【魔王】
「おいしいとこだけ頂いてとんずらする気なんだから当然そうなるだろう」
【ハツネ】
「………」
【ハツネ】
「さっきサウスを切り取ると言ったな?」
【魔王】
「ああ。今の神代は菱型を取り入れてる」
【ハツネ】
「サウスが切り取られれば△型になるわけだが」
【魔王】
「既存の対型作品に新しい主人公を追加してみろ。面白いように崩壊していくぞ」
【ハツネ】
「長生きさせるには時代ごとに飽きさせない売りをちらつかせる」
【魔王】
「なんべんも言わすな。8月1日に全てが終わる」
【ハツネ】
「それじゃお前……どうやって どうやって白黒つけるんだッ!?」
【魔王】
「黒にになりたくなかったら青空を動かすしかないだろう」
【魔王】
「それも明日。月が変わるまでに何とかするしかないんだ」
【ハツネ】
「………」
【ハツネ】
「……何も言うな。わかってる」
【魔王】
「無限の対策を携えてるならあれこれ考えず さっさと表舞台に出してやったほうがいい。そう思わんか?」
【ハツネ】
「だからもういい」
【魔王】
「いや 変わらないだろう。変わらない。変えることができない」
【ハツネ】
「ひょっとしたら そういった苦悩が現代配置を促したのもしれないな」
【ハツネ】
「優等だから劣等に憧れるのではなく 劣等から優等になっていくイメージだった」
【魔王】
「……うまく立ち回ってのし上がっただけだ。その時間を作るために」
【ハツネ】
「秘密兵器――兵器?兵器だよなぁ。お前にとっちゃたいそう」
【魔王】
「フッ……これでやっと精神病院に通院できる」
『
【魔王】
「ライブをご覧の皆さん。こんにちは。ウィルステロ集団 広報担当のカズです」
【魔王】
「つい先ほど うちのあるスタッフが政府によって拘束されました」
【魔王】
「ご察しのとおり 身柄の交換が行われる」
【魔王】
「こちらはNO.2を……その後はそちらの自由。情報を吐かせるなり何なりすればいい」
【魔王】
「期限は今日。日付が変わるまでもなく返答は届くだろう」
【魔王】
「それでは待つ」
』
【補佐官】
「最高責任者。これはいったい……」
【新神代政府最高責任者】
「想定していた。その対応策がこの取引なんだ」
【補佐官】
「単独行動……でしょうか?」
【新神代政府最高責任者】
「そこまではわからない」
【補佐官】
「どちらにせよ 小細工はしないでしょう」
【新神代政府最高責任者】
「交換しろ」
【ハツネ】
「………」
【新神代政府最高責任者】
「私に何かを伝えたいならとっとと話したらどうだ?」
【ハツネ】
「………」
【ハツネ】
「あんたらの築き上げてきた現実は全て ワクチンの創った枠の中で起きてる」
【ハツネ】
「……今の 今までな」
【新神代政府最高責任者】
「………」
【ハツネ】
「返す言葉の検索が終わる前に コンピュータからの伝言を伝える」
【ハツネ】
「遅かれ早かれ 有権者は真実を知ることになる」
【ハツネ】
「シャットダウンの準備を」
【新神代政府最高責任者】
「………」
【ハツネ】
「現状 ウィルスに対する有権者の評価は悪。誰でもいいから何とかしてもらいたいという心理状態にある」
【ハツネ】
「つまり公表という選択は必ず何かしらの混乱を引き起こす」
【ハツネ】
「最高責任者に問いたい。そのとてつもない情報を得て あなたなら今後の展開をどう描く?」
【新神代政府最高責任者】
「ウィルスは英雄になれないこと。そしてもう一つ」
【新神代政府最高責任者】
「罪を免れ 罰も受けず 最期に華を咲かせ散る神と魔王を併せ持った明けの明星――」
【新神代政府最高責任者】
「ワクチンの完全勝利だ」
【ハツネ】
「次の情報を与えてやる」
【ハツネ】
「ウィルスは誰の手も必要としない。コンピュータはあくまで自分の意志だ。だからワクチンは認めた」
【新神代政府最高責任者】
「裏切りの大小で自分を一時的に納得させたか。大した心臓だ」
【ハツネ】
「だが結局 ウィルスは誰かに頼らざるおえないことをワクチンによって教えられた」
【ハツネ】
「その時 ウィルスがコンピュータを認識していたとは思わない。方向性が決まっただけ」
【ハツネ】
「今更言うことでもないが ここまで長引いたのは コンピュータが長いこと引きこもっていたからに過ぎない」
【新神代政府最高責任者】
「君の犠牲と引き換えに 同居者はこれからコンピュータの頭となって動くだろう」
【ハツネ】
「そのとおり。付き合いはワクチンやウィルスより長い。参謀役にぴったりだ」
【新神代政府最高責任者】
「……やはりな。自覚の難点は仮定できなければ意味をなさないということか」
【ハツネ】
「フッ。さすがうちの御大将がわざわざ最高責任者にしただけある。オレだけじゃあなたに遠く及ばない」
【ハツネ】
「……どうやらNO.2の存在価値もここまでのようだ」
【新神代政府最高責任者】
「君がまだ協力的ならアジトに踏み込める」
【ハツネ】
「利用はするもんだ。ただ もぬけの殻だが?」
【新神代政府最高責任者】
「だそうだ」
【???】
「はい。全ての想定をまとめます」
【ハツネ】
「お楽しみの時間か」
【新神代政府最高責任者】
「おい。君はこれから精神崩壊まで 質問攻めに遭うが 用意はできてるか?」
【カズ】
「……まぁ お前の意志で留まったとはいえ オレも受け入れた。だから巻き込んだ責任は全面的にこちら側にある」
【???】
「私はキミに助けられた……という解釈でいいのかい?」
【カズ】
「赤子で終わるな。終わりたかったら心臓を探してからだ」
【???】
「もう長いこと生きた。キミの中で」
【カズ】
「……そうか。残念だよ」
【???】
「キミの外で何があったのか 詳しく聴かせてくれないかい?」
【ソラ】
「………」
【ケイ】
「残念だ」
【チハル】
「無念よね」
【ソラ】
「ざんねん……? むねん……?」
【ケイ】
「………」
【ソラ】
「……くっくっくっ。にゃはははッ!」
【チハル】
「後始末はケイに任せる」
【ケイ】
「お おいッ!」
【ソラ】
「くそガキ共。聞けッ!」
【ソラ】
「悪になるのはもう あたしとハツネで終わりだから……」
【ソラ】
「……だからおとなしくしてろ。戦況を見守れ。終わるまで関わるな」
【ソラ】
「後はうちの御大将と新入りがやってくれる……はず」
【ケイ】
「………」
【チハル】
「………」
【ソラ】
「……あたしは少しばかり疲れた。ちょっと休むわ」
【ソラ】
「ちょっと休んだらまた頑張れるから……」
【ソラ】
「……また……頑張れるから……」
【明けの明星】
「歳はとりたくないもんだねぇ~。長生きした分だけ敵をつくるからさ」
【タマ】
「………」
【明けの明星】
「でもいい加減 死ねないことに嫌気がさしてきちゃった」
【タマ】
「……大丈夫。犠牲をいくら出そうと あたしとカズでお前をやる」
【明けの明星】
「どっちも悪じゃ作品は成り立たんよ」
【タマ】
「……もう あたしの道程を知る者はお前しかいない」
【明けの明星】
「同世代の巫女ちゃんも居候も みんなのいない空間を過ごしてきたわけだしね」
【タマ】
「昔の仲間もいない今 このタイミングで昔話を語ってやりたいのはお前の方だろ」
【明けの明星】
「んまぁ それは言えてるんだけどね……引き金をひくのは私じゃなくて――」
【タマ】
「……あぁ 結論を言っとくと時間切れ。解析や侵入はまるっきり徒労に終わったよ」
【タマ】
「お前がカズを――」
【明けの明星】
「タマは居候を――」
【タマ&明けの明星】
「創り出した」
【タマ】
「………」
【明けの明星】
「………」
【明けの明星】
「お互い同じことを危惧してた ということにしとこうか」
【タマ】
「あたしはお前を知った」
【明けの明星】
「つまり知らなければ同じだってことだね」
【タマ】
「善悪や感情論――何を対抗させても 結局は弱肉強食だ。有ればいずれは使う」
【タマ】
「そして使い 使われていくことを恐れ カズを置いた」
【タマ】
「上に立てないという設定にして」
【明けの明星】
「明けの明星の立場としては必然の予備対策だよ」
【恋】
「あの時気付いたんだろうね。今ではしっかり確信も想定もできてる」
【タマ】
「………」
【恋】
「自画自賛するけど 巫女ちゃんはデキるよ。自覚もある。隣には参謀役もいることだしね」
【タマ】
「……幸せではある。お前が本気であたしを意識してくれて」
【明けの明星】
「だから私は居候をマトにした」
【明けの明星】
「それを見抜いてはじめの一歩が踏める。見抜けなければ私の独壇場で幕が下ろされる」
【タマ】
「………」
【ソラ】
「くれぐれも他言無用で頼むよ 副部長」
【タマ】
「………」
【タマ】
「あたしも好きだよ あいつのこと」
【ソラ】
「………」
【タマ】
「必ず辿り着く。あたしはそう信じてる」
【ソラ】
「……その言葉 二つの意味で信じても?」
【タマ】
「長生きの秘訣は想定の数だろ?」
【ソラ】
「弾切れを疑ってすまんすまん」
【タマ】
「ソラ」
【ソラ】
「ん?」
【タマ】
「お互い作者なら 最期は作品で白黒つけよう」
【ソラ】
「そう緊張しなくていいよ」
【ソラ】
「なんせ私は 正体が明かされるまで舞台裏でスタンバってるんだからね」
【タマ】
「………」
【???】
「おもしろいね」
【???】
「悪を演じてるウィルスと悪を隠してるワクチン」
【???】
「ウィルスは隠された真実を手に最終的には有権者を味方につけたい」
【???】
「ワクチンは絶体絶命の心理状態につけ込み 明けの明星として表舞台に立ちたい」
【???】
「でもどうしてワクチンは 噂 登場 勝利 自白という流れにしないのだろうか?」
【カズ】
「弱味は出しとく。盛り上がりに欠けるようなことはしない。心臓は終わりに添える」
【???】
「噂、登場、自白、勝利……?」
【カズ】
「誰も許しを得ようなんてこれぽっちも思っちゃいない」
【カズ】
「青空は全ての主人公を殺し続けてる」
【カズ】
「タマはそれを心臓とし 無数の主人公を犠牲にしてる」
【カズ】
「オレはそれらに恋をしてる」
【???】
「………」
【カズ】
「……神代も現代もな 自分の同意がなければ”生きる”は存在しないんだよ」
【???】
「現代ってなんだい?」
【カズ】
「………」
【カズ】
「自分が求めるものを10個 順位をつけてあげてみろ」
【カズ】
「2位から10位の結果は別にどっちでもいいが 1位だけは何が何でも現実にする」
【カズ】
「それが神代」
【???】
「現代はあれもこれも求めるんだ。欲深いんだね」
【カズ】
「……まぁその話はいいとして オレには青空が これからどう動くか予測はついてる」
【???】
「言ってごらんよ」
【カズ】
「謝罪の言葉。出展宣言。強制投票……勝利」
【???】
「詳細を並べてきたね。私はお邪魔だったかな」
【カズ】
「ここまででどこか 腑に落ちないところはあるか?」
【???】
「ふざけてるのかい? キミはついさっきやらかした」
【カズ】
「確認だよ。今じゃタマに感謝してる」
【???】
「手始めにどんな噂を流すんだい?」
【カズ】
「それなんだが 規則で持ち帰れなかったんだ」
【カズ】
「だから撮り直すしかない。それに今じゃオレも多少の影響力がある」
【カズ】
「マスコミはどうだろう?」
【???】
「私がその程度の情報だけで キミに仮定をプレゼントできると思ってるのかい?」
【カズ】
「君は相手を選べていいな。オレは選べないというのに」
【???】
「………」
『
【巫太郎】
「直にチャイムが鳴る」
【巫太郎】
「試験の終わりを告げに」
【巫太郎】
「だがペンは置けた。手応えを感じて」
【巫太郎】
「でもそれがどこからくるのかわからない」
【巫太郎】
「この先のこともわからない」
【巫太郎】
「それでも確信してることがある」
【巫太郎】
「青空との関わりを断ち切れないこと」
【巫太郎】
「何かあるということ」
【巫太郎】
「試験が終わる前にそのことを自分に伝えたかった」
【巫太郎】
「………」
【巫太郎】
「どうして青空は万年二位だったんだろうか……?」
』
【カズ】
「青空は明けの明星……」
【カズ】
「……なのに一度もオレの上に立とうとしなかった」
【カズ】
「………」
【カズ】
「今だから言える」
【カズ】
「止めるため 止めてもらうため――」
【カズ】
「青空はオレを創り出した」
【???】
「まだ撮るのかい?」
【カズ】
「………」
【カズ】
「証拠は隠滅に限る」
【???】
「明けの明星はキミがいなくなっても 次の弾を用意してるんじゃないだろうか?」
【カズ】
「……そんなことわかってる」
【カズ】
「わかってる」
【???】
「二度言う必要があるのかい?」
【カズ】
「んじゃどうすればいいッ!?タマに勝たせるにはどうしたら……」
【???】
「キミはいつだってそうだ」
【???】
「一兎にしたら得られると思ってるのかい?」
【???】
「共倒にしなよ。それがキミ達のベストエンディング」
【カズ】
「ダメだ」
【???】
「どうしてだい?トップの座から引き摺り下ろせる。ウィルスの崩壊していくさまをみなくて済むだろ」
【カズ】
「タマの心臓は青空を超えることだからだ」
【???】
「ウィルスがそう言ったのかい?」
【カズ】
「そこに木があるから」
【???】
「………」
【カズ】
「オレやお前が生きる神代が言ってんだ。新しい木を植えさせてやりたいとな」
【???】
「仮定を提供してあげるから 試しに自覚を魅せてくれないかい?」
【カズ】
「………」
【カズ】
「家の外に出れば君は死ぬ」
【???】
「キミは知ってしまったから」
【カズ】
「誰も君のことをほっとかないだろう」
【???】
「キミが護ってくれないのかい?」
【カズ】
「………」
【カズ】
「紹介が遅れてすまない。オレはカズ。君の姓は?」
【???】
「私はてっきりキミがつけてくれるとばかり――」
【カズ】
「……あい わかった」
【カズ】
「では君に”キミ”という姓を授けよう」
【キミ】
「ではカズさんを待つとしよう」
【カズ】
「………」
【カズ】
「……ニュースでもみておくか?」
【キミ】
「仮定の見直しをする時役立つかもしれないしお願いするよ」
【カズ】
「……すぐ戻る」
【キミ】
「………」
『
【専門家】
「政府が手放した関係者が今のNO2ということです」
【専門家】
「元からそうだったのか それとも出世したのか 私には解りかねますが これだけは言える」
【専門家】
「最高責任者の決断は正しかった」
【アナウンサー】
「………」
【アナウンサー】
「政府は先ほど アジトへ踏み込ました」
【アナウンサー】
「これを受け (作品発表を心待ちにする)サウス待機者は各方位 各方面へと移動」
【アナウンサー】
「とりわけイースト地方ではないか という見方が強いようですが?」
【専門家】
「今一番大事なのは接触を続けること。情報を得ることが先決です」
【アナウンサー】
「利用されてるだけでは?」
【専門家】
「……かもしれません。ですが作者というのはね 時の中に必ず”流れ”を取り入れる」
【専門家】
「先例に鑑みて」
【アナウンサー】
「………」
』
【ケイ】
「………」
【チハル】
「………」
【ケイ】
「移動しなかった」
【チハル】
「悟っていたから」
【カズ】
「ありがとう。現代ターミナルまで送り届けてくれて」
【ケイ】
「悪いが お前には貸しがある」
【チハル】
「もう返さなくていいよ。チハル達はほとぼりが冷めるまで身を隠す」
【カズ】
「それでいい。それで」
【ケイ&チハル】
「え……?」
【カズ】
「どうせなら選択肢を狭めて一つにして欲しい」
【カズ】
「もっとだ。もっと。オレに関わろうとするな。タマでさえ……」
【カズ】
「それでいい。それで」
【カズ】
「………」
【キミ】
「カズさんが沈んで帰宅した時は決まって何か企んでいたね」
【カズ】
「あの時は今と違って何もないんだ。イメージするしかあるまい」
【キミ】
「誰かに会った」
【カズ】
「会う前に何をすべきか考えるべきだったね」
【キミ】
「たとえば?」
【カズ】
「始まりが どんないきさつなら みんな納得するんだろうね?」
【キミ】
「そんなものない。だから自分はこう言ったんだ」
【キミ】
「みんなが住める場所をつくらないか?」
【カズ】
「いいよ。私がボスでキミがしもべなら」
【キミ】
「………」
【カズ】
「………」
【???】
「カズッ!」
【キミ】
「おや。これが噂の自覚かい?」
【カズ】
「……どうだろう。悲しみは繰り返したくないという気持ちを利用しただけかもな」
【カズ】
「まだ引き返せる」
【カズ】
「それでも 悪に加担する覚悟があると言うなら話を進めるが?」
【ケイ】
「悪を美化する気だけはねぇから」
【チハル】
「チハル達に何をしてもらいたいの?」
【カズ】
「……よし。それじゃ互いに自己紹介といこうか」
【キミ】
「私には訊いてくれないのかい?」
【ケイ】
「カズに聞きました。あなたもワクチンやウィルスと同世代の主人公であると」
【カズ】
「………」
【キミ】
「震えがね 止まらなかったんだよ……」
【キミ】
「自分を感じた瞬間 景色が真っ暗になり しばらくさまよった私は何かと接触した」
【キミ】
「それがカズさんだった」
【キミ】
「カズさんは言った」
【キミ】
「自分とにらめっこ勝負しないか?」
【キミ】
「誰もいない空間で」
【キミ】
「私は入った。とにかく整理する時間が欲しくて」
【キミ】
「それから永遠といえる沈黙が続いた」
【キミ】
「どっちが先に破ったと思う?」
【ケイ】
「……さあ。どうでしょう」
【チハル】
「どうでも」
【キミ】
「カズさんははじめから勝負しようなんて思っていなかった」
【キミ】
「どうしてあの時 私は留まったのか 何度自分に尋ねても答えが返ってこないんだ」
【キミ】
「多分 もう その時感じた気持ちを忘れてしまってるんだよ」
【キミ】
「だから私はこう決め付けたんだ」
【キミ】
「見知らぬ誰かと同じ空間を過ごせばいずれは親近感を覚える」
【キミ】
「それが悪でも」
【カズ】
「………」
【キミ】
「こうして生を感じることができるのは 誰かを求めたからこそなんだよ」
【ケイ】
「………」
【チハル】
「……ん?」
【ケイ】
「け ケイですッ!現代テーマパークで付けられた姓をめんどくさいのでそのまま使ってます」
【カズ】
「……こいつもオレ同様 長生きし過ぎてまともじゃないんだ。まともに返すな」
【チハル】
「チハルです」
【キミ】
「キミだよ。どうぞよろしく」
【カズ】
「まず何から話そうか」
【キミ】
「私達の今の立ち位置を教えてくれないだろうか?」
【カズ】
「解りやすくいえば 青空の中にタマがいて タマの中に最高責任者がいて 最高責任者の中に他がいる」
【カズ】
「オレはワクチンを接種されていたから当然タマのウィルスに左右されない」
【カズ】
「ケイとチハルに関していえば すでに最高責任者の眼を避けられる状態にある」
【キミ】
「………」
【カズ】
「だがお前は違う。気があれば監視できる」
【キミ】
「楽観的過ぎないかい?」
【カズ】
「まあ待て。先走り過ぎ」
【カズ】
「紛れもないことだが 最高責任者を柵の中に入れたのはオレだ」
【カズ】
「意思表示はしたつもりだし 今の最高責任者ならこちらの思惑を掴んで汲み取ってくれる」
【カズ】
「アレはタマのアシストだったんだよ」
【ケイ】
「………」
【チハル】
「………」
【カズ】
「考えてもみろ。青空の生存と正体を知った今 誰が求められるかを」
【カズ】
「立場を貫くかッ!?それは違うッ!政府はタマのウィルスに全く対抗できなかったッ!!」
【カズ】
「結局は主人公と同じ。追い詰められたらどんなことをしても安全を保障する」
【カズ】
「最高責任者はお前を監視しない」
【キミ】
「現実を見てみよう」
【カズ】
「その 現実という結果で正当化してやるよ」
【キミ】
「私からの質問は以上だよ」
【チハル】
「チハル達に何をしてもらいたいの?」
【カズ】
「他のクソガキ共を護って欲しい」
【カズ】
「残り一か月。そろそろ繰り返されてもおかしくない。きっかけもあった」
【カズ】
「しかし前進とはいかなかった」
【カズ】
「期待?……いや 我慢の反動をどこにぶつけよう」
【カズ】
「強者が無理なら弱者で発散する」
【カズ】
「政府に向けられる」
【カズ】
「神隠しが再び起きる」
【カズ】
「タマが公聴会で脅した直後のようなことが」
【カズ】
「有権者は政府の仕業であると思ってた。でも政府は何もしていない」
【カズ】
「タマもやってない。裏で実行したのは青空だ」
【ケイ】
「いや したぞ。神代各地を沈静化した」
【カズ】
「途中から加わっただけだ」
【ケイ】
「え?」
【カズ】
「……正直 オレは今でも 青空と最高責任者が通じてる可能性を否定できないでいる」
【キミ】
「通じていなかったとしたら キミはどんな解釈で論破する気なんだい?」
【カズ】
「できるはずもないことをあえてしてきたということは自信があるということだ」
【チハル】
「チハル達は最高責任者の性資格を知ることができなかった」
【カズ】
「使っていたとは思うがな」
【ケイ】
「で どうなんだよ?」
【カズ】
「掴んでいたらグルで決まり」
【キミ】
「ちょっと待ちなよ。キミはこれから その最高責任者の上をいかなくてはならないはずだろ?」
【ケイ】
「………」
【チハル】
「………」
【カズ】
「よくわかってるじゃねぇか。まさか青空と面識があったとはな」
【キミ】
「私はトップの決め方が嫌で引きこもっただけだけのことさ」
【カズ】
「最もな意見だ。ただ現実という存在は公平さを好む。結果だけを受け入れる」
【カズ】
「つまり無意味でも 今までがそうだったように 青空に勝つには認めさせる他ない」
【カズ】
「気に入る答えをプレゼントするしかないんだ」
【カズ】
「設定権利が 永遠の次に価値があることぐらい 神代の主人公なら誰もが知ってるはずだよな?」
【キミ】
「もういいよ」
【カズ】
「勘違いするなよお前ら。目的は首じゃない。最高責任者の自信を打ち砕くだけでいいんだ」
【キミ】
「お互いやる気なら手間が省ける」
【キミ】
「キミとウィルスさんは共闘してるんだろ?これから先 敵として見なすことになると言うのかい?」
【カズ】
「わかってることも多々あるが 実際はわからないことだらけなんだ。今はそれしか言えない」
【カズ】
「オレがタマを裏切る?」
【カズ】
「タマがオレを裏切る?」
【カズ】
「何がきっかけでそうなるのか。もしくはしなければいけなくなるのか。考えても考えても納得のいく答えに辿り着けないんだ」
【キミ】
「やるだけ想定してみよう」
【カズ】
「オレが最高責任者とタマを上回る」
【カズ】
「そしてこの先 作品かオレ どちらか決めることになる」
【カズ】
「ケイ。チハル。お前らはまだまだ若い。がむしゃらにいったほうが何かと噛み合うかもしれない」
【カズ】
「考えてどうにかなる相手でもない。無意識を心掛けろ」
【ケイ】
「しゃーない。行ってやるか チハル」
【チハル】
「そうね。チハル達はチハル達のやり方で結果を出すから」
【カズ】
「………」
【キミ】
「おっと。気を悪くしないでくれよ」
【カズ】
「実は青空やタマより お前との付き合いの方が圧倒的に長いことをすっかり忘れていたよ」
【キミ】
「ケイさんとチハルさんが与えられた仕事をこなせかったと仮定する」
【キミ】
「次々と消えていくね……」
【キミ】
「……でも何もできない」
【キミ】
「感情が全てを超越したくなったら?」
【キミ】
「最高責任者の気が変わるかもしれないよ」
【キミ】
「どうなるんだい?私は――」
【カズ】
「だからまだ決めてない。いくつかの想定と対策はしてるがな……少し現実をみてみよう」
【キミ】
「キミはどのタイミングと考えてるんだい?今生存の噂を広めれば 有権者はたちまちワクチンに期待を寄せやしないかい?」
【カズ】
「そうなれば最高責任者は有無を言わさず締め出され 青空とタマの一騎打ちという絵図が出来上がるな」
【キミ】
「誰か忘れていないかい?」
【キミ】
「キミがプレゼントを決めるということは 贈って喜ばれるものを考えるということ」
【キミ】
「それでも中身は――」
【カズ】
「外の空気でも吸ってきたらどうだ?」
【キミ】
「やるだけ想定してみよう」
【カズ】
「……ああ。頼む」
【カズ】
「………」
【カズ】
「……言われなくてもわかってんだよ。そんなこと」
【カズ】
「見たくないだけで 本当は一本道だってことは」




