もうひとりの三竦提唱者
【恋】
「………」
【タマ】
「あたしは許せなかった」
【タマ】
「デート中に別れた女の話を嬉しそうに語るカズを」
【タマ】
「そういうわけで 二日目に突入するまでもなかった」
【ソラ】
「……どーでもいい。そんなことはどーでも」
【ソラ】
「……ただどーでもよくなかったのは タマがここにきて大バカ者に成り下がったってことだよ」
【ソラ】
「気があると思わせれば 私は揺れ動いたのかもしれないのにさ」
【タマ】
「………」
【ソラ】
「なのにどうして……どうして……」
【ソラ】
「どうして私の”脚本”どおり演じ切らないかねぇッ！」
【タマ】
「これか？」
【タマ】
「……わるい言い忘れた。さっき返し損ねたからここに寄ったんだ」
【ソラ】
「いやいや 行かせたのは戻ってくると確信してたからだって」
【タマ】
「………」
【ソラ】
「………」
【ソラ】
「お気に召しませんでしたかねぇ～？」
【ソラ】
「施行されるまでに巫女ちゃんがやらかしてくれれば揃ってタマに辿り着くっていう屁理屈は♪」
【タマ】
「いや 大賛成だったよ。何より同じ境遇にならないと鼎座して話し合えないから」
【ソラ】
「だよね～ッ！なんたって三竦の物語はそこから明けるんだもん♪」
【タマ】
「本当ならな」
【ソラ】
「あららッ！」
【ソラ】
「や やっとこさ嫌われる勇気を持てたのにッ！？これぢゃ肝を据わらせた意味ないぢゃんッ！」
【タマ】
「二つ教えてくれないか」
【タマ】
「お前は 一体どれほどの犠牲と年月を払って その心理状態に辿り着いたんだ？」
【タマ】
「カズの”何が”お前の心臓を変えさせた？」
【ソラ】
「………」
【ソラ】
「……さらっと意地悪な質問をぶつけてきたね」
【タマ】
「思い出を振り返るたびに涙を流すのか？」
【ソラ】
「……このドＳ」
【ソラ】
「あぁ～もぅッ！いっぱいあり過ぎてわかんないやッ！」
【タマ】
「一目見ただけで涙が出てしまう恋が本当にあるなんて思わなかったってことか？」
【ソラ】
「巫女ちゃんの……バカ」
【ソラ】
「そ そういうタマはどうなのッ！？」
【タマ】
「反撃された」
【ソラ】
「タマにとって 巫女ちゃんってなに？」
【タマ】
「１＋１＝２であって １＋１＝１でもあると信じて止まない……」
【タマ】
「……その葛藤を背負い 無駄に生き長らえてきたどうしょうもないひねくれ者」
【ソラ】
「そんな巫女ちゃんがアタシは好き♪」
【ソラ】
「檻の中ぢゃとんずらこけないって」
【タマ】
「脱獄してもいいんだぞ？あたしは一向に構わない」
【ソラ】
「勝ち逃げでいいの？現実に嗤ってもらいなよ」
【ソラ】
「……何だかんだあがいてみたけど やっぱりオチを知ってるとつまんないねぇ～」
【タマ】
「それが優等の代償だ。だからわざわざ劣等になりたがる」
【ソラ】
「………」
【タマ】
「どんなエリートだって 些細なきっかけで 転落神生を送るなんてことはよくあることだ」
【ソラ】
「タマが諦めちゃったせいで私の寿命は施行されるまでか……イヤではないけど」
【ソラ】
「受け入れられない現実を受け入れさせるために巫女ちゃんは自分に嘘をついてるッ！」
【タマ】
「まだ言うか」
【ソラ】
「ダマしてまでね。バレたら全てが台無しになっちゃうから」
【タマ】
「おどろいた。お前でも知らない過去があると？」
【ソラ】
「私と出逢う前に何かあったとしてもッ！それは知らなくていいことだから。そんな自殺行為 間違ってもしないって」
【タマ】
「変わってはいない」
【タマ】
「けれどまだ悩んでる」
【ソラ】
「………」
【ソラ】
「美しさというのはあくまで曖昧さの中だけで輝くんだよッ！」
【ソラ】
「……エゴを念頭に置いたやりとりなんてもうたくさん」
【タマ】
「神代は他のリズムに合わせた会話作りを必ずしも良しとしない」
【ソラ】
「自己犠牲が美徳という文化はお嫌いですか？」
【タマ】
「頼むからもっとあたしを嫌ってくれないか？」
【ソラ】
「そう慌てなさんな。反動技でＫＯされたくないもんでねぇ～」
【タマ】
「………」
【ソラ】
「まぁなんだ」
【ソラ】
「作品があるから作者になれる」
【ソラ】
「でもいつなんどき 作品に呑まれてもおかしくない」
【ソラ】
「それ以外のリスクももちろん覚悟していましたよ。スタッフになる為には時としてキャストにならなければ前進できないわけだしね」
【ソラ】
「無数の作者様――ひいてはその頂点に君臨する『明け』の明星ってのは……」
【ソラ】
「どうしたらなれるものなんでしょうか？」
【ソラ】
「うんうんッ！なるほど。そういうことでしたか」
【ソラ】
「自問自答しないこと」
【ソラ】
「だってさ♪にゃは♪」
【タマ】
「……満足か？もうひとりの三竦提唱者」
【ソラ】
「投了で」
………。
……。
…。
【ソラ】
「１月１４日――私は本気で途中退席を考えた」
【タマ】
「……悩んでる」
【ソラ】
「うん。もう逃れられないなぁって。とうとう追いつめられたというか どちらか択んではっきりさせないといつか後悔する」
【ソラ】
「だからひとりになって考える時間が欲しかった」
【ソラ】
「でも邂逅橋で待ち伏せしていた巫女ちゃんにあっさり決められちゃった」
【ソラ】
「女ってのは どうも押しに弱いとこがあってさ……私は何もできなかった……ダメ。ダメと思っててもね」
【ソラ】
「そしていきなりこう言われたんだよ……」
【ソラ】
「お前を女だと思ったことは一度しかない」
【ソラ】
「……今を思うことなく その時だったね。巫女ちゃんがはじめて私に本音をぶつけたのは」
【タマ】
「………」
【ソラ】
「にらめっこで俺に勝つ」
【ソラ】
「そんな女の子 いやしねぇなぁ……」
【タマ】
「………」
【ソラ】
「タマだってそう。誰もがこの葛藤に一度は苛まれる」
【ソラ】
「信念を持つべきか……」
【ソラ】
「それとものらりくらり生きるべきか……」
【ソラ】
「……でも決断に悩むまでもないことだよね？」
【ソラ】
「信念を貫く生き方は宗教臭くてめんどくさい感じだけど ブレない心臓がないと”本気”には出逢えない」
【ソラ】
「はたまたのらりくらりやっていくのはきっぱり美しい」
【ソラ】
「うつくしい……」
【ソラ】
「今の今まで生きてきて 明けてはじめにすべきことは自己分析だったと私は思った」
【ソラ】
「お次は自己哲学の確立……ね」
【ソラ】
「現実創作はそっからでいいんだよ。何をするにしても全然遅くないッ！」
【ソラ】
「お 遅くは――ッ！？」
【タマ】
「よくできました」
【ソラ】
「くっくっくっ……」
【ソラ】
「どうぞ♪」
【タマ】
「寄り道は済んだんだ」
