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疾風迅雷  作者: 抹茶犬
本編
7/11

ぼっち

朝、起きると目の前に親父が立っていた――。


あの強面のオッサンが俺を見下ろしてるんだぜ?


どう見ても危険な状態だろう。そう思って俺はすぐに体を起こした。


「何やってるんだ!!もう8時だろうが!」


親父は俺を見下ろしながら顔に唾を吐きかけて叫んだ。


汚いな……。


嫌悪感に包まれながらも、ようやく今の状況を理解する。


寝坊した!まぁ、今から急いで用意をすれば何とか間に合う時間だ。


「なんで起こしてくれなかったんだよ」


着替えながら親父に問い詰めると、


「ワシも寝過ごした」


などと言って親父も背広に着替えている最中だった。


もう随分と老けてはいるが、やはりあの強面なので背広を着ると一段と味が出て恐ろしい。


街ゆく人達に避けられていることが想像できた。


「なんで今日はスーツなんか着てるんだよ?」


俺は髪を軽く整えながら、洗面所から隣のリビングに聞こえるように親父に尋ねた。


親父はもう用意が整ったようで、洗面所の廊下を通り抜けながら


「今日は、印の家系同士の会議があってな……時間がないから簡単に言うが、今日は特に気をつけろ。印の4家系が集まる日、何かが起こる事が多い。……行ってくる」


それだけ言い残して玄関を出て行った。


親父は会社勤めをしていたのだが、母親が死んだ時に何故か辞職してしまった。


親父も、何もかも嫌になったのかもしれない。母親が死んだことで、生きる望みを失ったのかもしれない。


母親は若く、そして親父は年をとってからの結婚だったため、当時母親は金目当ての結婚だったのではないかと噂されていたようだ。


実際、親父は金を持っている。だから辞職した後も俺を高校に通わせることが出来るわけだが――


母親は金を目当てに親父と結婚したような素振りはなかった。


なにせ貧乏育ちだったため、何かと節約節約と五月蠅かったし、古臭いながらも俺の破れた衣服をわざわざ縫うような人だった。


縫った場所が友達にバレて馬鹿にされて、俺は少し嫌でもあったんだけど――ただ、とにかく優しい人だったので俺は何も言えなかった。


俗に言うマザコン、だった面もあるんだと思う。俺は。


まぁ小さい時の話さ。餓鬼の頃はみんな親が好きなもんだ、そうだろう。


俺も用意をし終わったので慌てて鞄を掴んで家を出た。


教室に入ると、部屋の隅の後ろから3番辺りの席に、速水が1人で座っているのが見えた。


えっ?まさか……同じクラスだったのか?笑っちゃうよ。なんでそんな近い存在に気付かなかったんだ?


クラスが変わって間もない頃にせよ、いかに俺が周りの人間を見ていないかが明らかになった。


今までクラスメイトなんて気にしたことが無かったが、改めて速水という存在を意識してみると、速水はかなり浮いた存在であることが分かった。


印のことを調べているせいか、テレビやら芸能人やらに夢中な女子高生とは話が合わないのかもしれない。


教室でもいつも1人でいたんだろうか――。


俺は自然に速水に近づいた。いや、少し不自然な動きだったかもしれない。


なにせ、学校で女子に話しかけることなど皆無に等しかったのだから。


「同じクラスだったんだな」


速水は俺の顔を見上げると、小さく頷いた。


「昨日は強い態度でいたくせに、友達もいねーのかよ、って思ってるんでしょ?」


速水は開き直ったようにはっきりとした口調で俺に突き付けた。


「別に……」


「私と話さない方がいいんじゃない?ほら、もうあそこで話題になってる。根暗な男がぼっち女に話しかけてる、ってね」


そう言って速水は目線だけで、ある1つの女子グループを見た。


確かに、4人の女子が集まってこちらを見ているように見えなくもない。


「根暗な男って俺か!?」


俺が怒ったように言うと、速水はそこで今日初めて笑顔を見せた。


顔は可愛いのにな、もったいない。


「そうだ、親父が今日は印を持つ4つの家系の会議があるって言ってたんだが……」


速水と話す話題なんて、今はこれぐらいしかない。


速水は俺のその言葉を聞いて反応をすぐに示した。


「そうなの!その会議がある日は、先祖達がすでに決めていて――それで、その日は印の能力が弱まるの。4つの家系が喧嘩して印を使いだすと困るからね。だから、その日を狙ってアイツらが来る可能性が高い」


速水が何を言っているのかさっぱり理解できなかったので、しばらくポカンとした顔を見せていると、速水は軽く舌打ちをしたようだ。


速水は立ち上がって俺の腕を掴みながら、教室を出ようと引っ張った。


さっきより一段と教室がざわめいたように感じた。


なにせ、女子と話さない根暗な男がぼっち女に引きずられているんだから、注目を浴びて当然だろう。


「ここじゃ会話を聞かれたらただのSFマニアだと思われるわ。ちょっと付いてきて。あ、別に授業サボっても平気なタイプ?」


速水は早口で言うと、俺の返事も聞かないまま屋上に向かおうとした。


「おい、待て。これは漫画じゃねぇんだぞ。屋上なんて立ち入り禁止に決まってるだろうが」


俺が速水から腕を引き剥がしながら言うと、速水は驚いた顔を見せてから、屋上へ向かう階段の踊り場辺りで足を止めた。


埃が乗った机や椅子が置かれていて、咳が出るほどだった。


だが人通りは全くなく、廊下からは死角になっていて落ち着くことは出来そうだ。




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