『レ』はツンデレの『レ』
僕の後輩(♀)は、何かにつけて僕につっかかってくる。
ツリ目でショートヘアー、僕の前だといつもへの字口。
廊下とかですれ違っても。
「先輩、ちょっと邪魔です」
いつもこんな調子だ。
だから僕も。
「あ〜はいはい、どきますよ」
こんな調子だ。
しかし、流石にこの前はキレたよ。
放課後の校庭で足掛けされたから。
「って……てえなオイ!」
コケて立ち上がった僕は思わず叫びましたよ。
「なんなんだよ!なんか俺に言いたいことがあるなら言えばいいだろ!」
叫び終わったら、後輩は俯いて泣いていた。
「…それが…」
後輩は僕の視線を感じるとすぐに背を向けたから、それ以降はどんな顔をしていたからわからないけど。
「…それが言えたら…こんなことしませんよ!」
後輩の涙は、僕の脳裏に焼き付いて。
なんだか悲しい気持ちになった。
「…とっ…とりあえず、使えよ」
後輩の気持ちがよくわからなかったから、とりあえず後輩の正面に回ってハンカチを渡したら。
「……とうございます…‥」
最初はよく聞き取れなかったけど、お礼の言葉だったみたいだ。
「…先輩……」
後輩は涙を拭いて、濡れたハンカチを見つめた。
「先輩はどうして‥こんなに絡んでくるうざい後輩に…そんなことをしてくれるんですか?」
私は少し考えこんで、後輩に背を向けた。
正面向いて言うには、少し恥ずかしかった。
「お前さ…俺に絡んでくること以外は、普通に‥真面目でいい奴だろ?」
背後の後輩は、驚いているみたいだった。
「…そんな…」
僕は、構わず続けた。
「文化祭とか、学級委員とか……正直、俺なんかよりよっぽど色々なことをこなしてるだろ?」
振り返って、驚いて瞳を見開いている後輩を見つめた。
僕は、苦笑いをしてみた。
「だからさ…ストレスがたまって‥俺にやっちまってんのかなって思うと…‥仕方ないなって‥気がすんだよ」
僕はそう考えていた、だから嘘じゃない。
後輩は確かに僕より仕事をしてるから仕方ないと思っていた…‥
「…違っ…!」
後輩はそれを聞くと、更に驚いて…戸惑っているみたいだった。
「……違います!」
後輩は、ハンカチを両手で抱えて赤面した。
そして、意を決したかのように言ったんだ。
「…私が…先輩に……絡むのは……気になるからです‥」
へ? と口を開けてしまった。
「…先輩が……気になるからですよ!」
気になる……という言葉の意味は、僕でも分かっているが。
「……え………………‥‥?」
一応、念押しをしてみた。
「…それって…‥」
後輩は赤面しながら私に迫った。
その間60cmくらい、多分。
「先輩が気になるから……先輩が他の子と楽しそうに喋っていたから…嫌だった!」
後輩は、意を決したかのようにハンカチを僕に差し出した。
「……」
ハンカチを渡す後輩の手を、僕は握った。
「‥?!…先輩っ?」
僕にとっては初めてだ、フォークダンス以外で女の子を握るのは。
「…なっ…なんでッ!?」
後輩はツリ目気味の瞳を大きく見開いて驚いていた。
僕も大胆な自分に驚いていた。
「俺‥そんな風に女の子から好かれたことなかったから…」
僕は、自分でも知らないうちに素直になれない不器用な彼女に惹かれていたみたいだ。
「嬉しいよ…友達から‥始めないか?」
その言葉を聞いた後輩は再び泣いていたが、僕の顔を真っ直ぐに見つめていた。
「……はいっ…!」
僕は、俯き気味で歩き出した後輩の横に立った。
「でも、もう蹴らないでくれよ……これ以上蹴られたら俺……マゾになっちゃうからな」
私は苦笑いしながら、彼女に念押しした。
いくら愛情の裏返しとはいえ、痛いのは嫌だから。
「はい…もうしません…先輩に…嫌われたくないから…‥」
彼女は僕のスポーツバックの端をちょこんと摘むと、僕と歩幅を合わせて歩き出した。
夕日の校庭。
振り向いた横顔、僕の宝物に。
「………」
僕は、息を呑んだ。
一瞬が、永遠になる。
「…だから先輩…よろしく‥お願いします‥」
これからの学校生活が、楽しくなりそうだ。
「……ああ、よろしく」
不器用な笑顔が、かわいいよ。
これからは…よろしく‥
【おまけ】
僕と彼女が一緒に帰れる道のりは短いから、僕と彼女は公園に寄っていくことにした。
「結構……こういう子供っぽいのもいいですね‥」
僕達はブランコに乗っていた。
「そ‥そういえばさ……角手は…‥」
話かけようとした僕を、彼女は遮った。
「…先輩…名前で呼んで下さい」
彼女…角手の名前は玲奈だった…
「…そりゃ…そうだよな‥」
確かに親密になりたいなら名前で呼んだ方が自然だった。
「玲菜はさ……自分のことを『僕』っていう男を…どう思う?」
名前を呼ばれて口元が弛んだ玲菜は、少し考えているようだった。
そして、ブランコから降りて手すりに腰掛けた。
「…先輩って…自分のこと『僕』っていうんですか?」
………‥
図星だった。
僕の一人称は家族の間ではまだ
「僕」
だが、学校などでは
「俺」
だった。
因みに学校でも、慌てたりすると
「僕」
と言ってしまうが。
「……」
だって…背伸びしたい年頃なんだモン!!
という苦しくてわけの分からない弁解を、僕は心の中でしていた。
慌てながら、僕はブランコに座った。
「…そ……そうだよ‥」
僕は赤くなって俯いた。
何気に、恥ずかしいカミングアウトであった。
「……‥」
玲菜は手すりから離れて僕に近づく。…僕は彼女にどう受け止められているか心配であった‥
「先輩…気にしないでください‥」
玲菜の顔が、僕に近づく。
彼女のツリ目は、近くで見ると…吸い込まれそうな輝きを放っているようにも見えた。
「…『僕』でも『俺』でも……先輩は先輩です」
じんわりと彼女の言葉が僕の心を打つ。
「私の……きな先輩です」
彼女は赤面しながら、僕の耳元で呟いた。
凄く小さい声でよく聞き取れなかったけど…
…何て言ったか‥僕には分かった‥
「…ありがとう………」
彼女がすっかり赤くなって僕から離れると、僕は立ち上がった。
「さて、帰ろうか」
僕は歩き出した。
「はい‥先輩」
彼女と一緒に。
家までの短い道のりだけど、明日また会えるから。
これから本当によろしく。
最後まで読んでいただいて、どうもありがとうございました。
「こんなんツンデレじゃねえぞ!」
「…ここは…こうした方が…‥」
といった感じの感想、お待ちしております。