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67 ≪さよなら、紫苑。≫


紫苑。



花嫁姿、とても綺麗だよ。


真珠色のドレスも、花の刺繍のあるベールも、すずらんの花束も、すごく似合ってる。

背中の大きなリボンは、ほっそりした紫苑には妖精の羽みたい。


ほんとうに、おめでとう、紫苑。





あれから4か月。

やっぱり、紫苑と僕が言葉を交わすのは、あの日が最後になったね。


あれからずっと、紫苑は幸せな日を送ってる。



龍之介が「もうこれ以上は待てない!」って急かして、あっという間に決まった結婚式。

真由の式がなければ、あと2週間は早かったはず。

お互いに相手の結婚式に出るためには、真由が新婚旅行から帰ったあとじゃないと、って、紫苑が言い張って。


式場探しや新居選び、家族の顔合わせに指輪選び・・・忙しかったけど、紫苑と龍之介はいつも楽しそうだった。


それに・・・仲が良すぎるよ!


龍之介は何かと言うと「3年も我慢した。」って言って、紫苑を離さないんだからね。

デートのときはいつも手をつないでるし、紫苑の部屋にいるときにはたいてい紫苑をひざの上に座らせてるし、なにかって言うと “チュッ” なんて。

あんなに照れ屋だったのに、紫苑が自分を好きだって確信したとたんにこんなになっちゃうなんてさ!


紫苑は・・・甘えてるよね。


お母さんが病気になってから、家でも会社でも頑張って来たもんね。

ほんとうは、こうやって甘えられる誰かが紫苑には必要だったのかも知れない。



だけど、紫苑と龍之介が、こういうカップルになるとは思わなかった!

見ている僕の方が恥ずかしいよ。

もっと友達同士みたいなままでずうっといくと思っていたのに。・・・まあ、会社では、みんなにそう思われてるけど。


僕は焼きもちを焼いているのかな・・・。




今日は優斗も来ているね。


優斗が前みたいに駅で紫苑に話しかけたのは、紫苑が断ってから2週間後くらいだったっけ?

龍之介が、紫苑と結婚することを優斗に知らせてすぐだった。

予想よりも早い登場だったから紫苑は驚いていたけど、優斗はあの天真爛漫な笑顔で紫苑にはお祝いを言って、龍之介を散々からかっていた。


優斗は強いね。

いつか、彼も幸せになるはずだよ。



最終的に、紫苑はもともとそばにいた龍之介を選んだけれど、優斗が選ばれる可能性も十分にあったはず。

優斗が現れなければ、龍之介が行動に出るのはもっと先だったかも知れない。

紫苑は今でも、恋をすることを拒み続けていたかも知れない。


可能性はいろいろ。

僕はきっかけを作るだけ。


そのきっかけからどう動き出すのかは、それぞれが決めること。

そして、ものごとは、人間一人だけの思惑どおりには進まない。

だから慌てたり、困ったり、嬉しかったりするんだね。






ああ・・・時間だ。

お母さんが紫苑を呼びに来た。



教会の扉が開く。


赤いじゅうたんの先には龍之介が待っている。





さよなら、紫苑。

何かが僕を呼んでいる。

どこかへ引き寄せられていく。


だから・・・行かなくちゃ。


お別れに紫苑のベールを揺らして。



さよなら、紫苑・・・。







「・・・・?!」


なんだろう?

動けない。

何かに閉じ込められたみたいな・・・。



僕の真ん中でドン、ドン、ドン、ドン、と響いているのは何?


・・・紫苑。



紫苑がいるよ、僕の前に。

花嫁姿で。

緊張した様子で下を向いて。



でも・・・いつもと違う、この景色。

どうして見えない部分があるの?

いつも、もっと自由に、全部を感じることができたのに。



紫苑の手。

こっちに差し出されて・・・その手を取っているのは・・・僕の手?


紫苑の手、温かい・・・。


“温かい” って、こういうこと?

“触れる” って、こういうこと?



「紫苑・・・。」


僕の言葉が・・・音になってる。



紫苑が顔を上げる。

僕の声が聞こえた・・・?


紫苑が僕に微笑みかける。

僕が見えるの、紫苑?


紫苑の瞳に映るのは・・・僕?

僕は・・・・・リュウノスケ?




紫苑の指に指輪をはめているのは僕。


紫苑が指輪をはめてくれるのは僕の指。


紫苑と口づけを交わすのは僕。


そして、紫苑を抱き締めるのも ―― 。


僕は・・・龍之介。



消えるって、こういうことだったんだ・・・。





・・・さよなら、紫苑。


夢の中できみを慰めるユウはもういない。

今から僕は龍之介の一部になって、龍之介として紫苑を見守って行くから。


これからは紫苑に「泣かないで。」じゃなくて、「泣いていいよ。」って言える。

きみを抱き締められる僕がいるから。





紫苑。


僕の大切な紫苑。


愛してるよ。


これからも一緒にいるよ。

ずっと、ずっと・・・。










          おしまい。




あとがき、です。



最後までお読みいただき、ありがとうございました。


読みに来てくださる方、ポイントを入れてくださる方、コメントや感想をお寄せくださる方、みなさまにたくさんの勇気をいただいて、最後まで書き上げることができました。

ほんとうに、ありがとうございます。

楽しんでいただけましたら、作者としてとても幸せです。

京夜さまにはレビューまで書いていただき、ほんとうに感謝しています。

いつも応援していただくばかりで、申し訳ありません。


このおはなしは、最初にユウの設定ができて書き始めました。

そのため、出番の少ないユウの個性が、一番はっきりしているような気がします。

ラストシーンが先にできて、そこに向かって書き進んでいくという、いつもと違う手順で創った物語です。そのため、あれこれ矛盾するような点もあるかと思いますが、どうぞ笑って許してくださいませ。



こちらに作品を出させていただいて、1年が過ぎました。

わたしにとっておはなしを書くことは、心の中にあるものを外に出す作業のような気がします。

それがいつも楽しくて、いそいそと続けております。

初心者のわたしがこうやって続けてこられましたのも、読んでくださるみなさまの存在があったからこそです。

ほんとうに、ほんとうに、ありがとうございます。


これからも、楽しく、幸せになるようなおはなしをお届けしたいと思っています。

どうぞよろしくお願いします。



この5作目を連載しているあいだに、2作目の『ぴいちゃん日記』をお気に入りに登録してくださった方が100名を超えまして(一時的かも知れませんが)、わたしにとっては快挙ともいえる3桁の数字にドキドキしています。

この場を借りて、読んでくださったみなさまにお礼申し上げます。



みなさまが楽しく、幸せな毎日を過ごされますようにお祈りしつつ。



虹色。

※あとがきが長くなって、すみません!

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