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64 突然の

ここから紫苑に戻ります。


「紫苑。結婚しよう。」


「えっ?!」


い、い、い・・・、


「いきなりプロポーズなの?! しかも、『しよう。』って、なんか、もう、当然あたしが『はい。』って言うみたいな・・・?」


「うん。」


「『うん。』って、そんな・・・。だって、普通はその前にデートとかして、大丈夫かどうか・・・。」


「もう2年以上、紫苑のことをこうやって送ったんだから、それでデート50回分くらいにはなるよ。」


「いや、そんな数にはならないんじゃないかな? え? あれ? 2年以上って、ずっと・・・?」


「そうだよ。俺はずっと紫苑のことを・・・。」


「そんな! あたしはそういうつもりじゃ・・」


「それに、夜に二人で出かけた。」


そういえば、たしかに・・・。


夜のドライブは、そういう目で見ればロマンチックだったかもしれないけど・・・。


待って。

あたしは何をした?


龍之介のうしろに座って、いろいろ話した。

私服姿を初めて見て、「かっこいい」って褒めた。

一緒にアップルパイを食べて・・・あんなに近くで。


そうだ。

『月うさぎ』に連れて行ってもらったときはあんな・・・恋人ごっこなんて。

龍之介にベタベタじゃれついて・・・。


もしかして、あたし・・・・すごく恥ずかしい!

友達をからかってるつもりだったのに・・・だったのに、龍之介は・・・。



恥ずかしい!!



顔を見られたくなくて下を向いたら、龍之介の胸に顔をうずめることになってしまって、ますますドキドキしてしまう。


どうしよう?!

とにかく何か言わなくちゃ。


「龍之介のことは、友達だと・・・思って・・・。」


「わかってる。でも、俺はそうじゃない。」


それは・・・それは分かったけど。今。

あたしはこんなふうに、龍之介の腕の中にいるけれど。



結婚しようって。


結婚。


結婚?



あんまりいきなりのことで、頭が混乱してる。

なんだかふらふらするし。

龍之介の寄りかかっていなければ、倒れてしまうかも・・・。


「龍之介・・・。」


あたし、何を言えばいいの?



――― 一緒にいたいかどうか、考えてみるの。



ふいに、真由の声が聞こえてきた。

真由が隆くんのプロポーズを受けたと打ち明けてくれた日に言った言葉。



――― 『その人がいなくなったらどうだろう?』って考えてみて、いなくなっても平気だったら断るの。



龍之介がいなくなったら・・・?


だめ!

やっと仲直りしたところなのに。

この前、あんなに悲しかったのに。



龍之介がゆっくりと腕をほどきながら、優しい表情であたしを見つめる。

その腕が離れる前に両手でつかまえる。


だって・・・倒れてしまいそうだから。


「龍・・・龍之介のことは友達だと・・・。」


同じ言葉を繰り返してる。

あたしには、伝える言葉はないの?


龍之介がニヤリと笑った。

いつもの、おなじみの笑顔。


「友達と結婚しちゃいけない決まりでもあるのか?」


友達と結婚・・・?


「ううん。それはないけど・・・。」


「じゃあ、俺と紫苑も有りだろ?」


可能性の話としてはもちろん。


「うん・・・。」


「たとえば、」


龍之介がちょっと考えて話し出す。


「日曜日に一日中、俺と一緒にいるのは嫌か?」


日曜日に一日中一緒に・・・?


朝、起きたら龍之介がいて。

一緒に朝ご飯を食べて。


・・・普通に楽しそう。

っていうか、特に違和感を感じない。

たくさん話して、笑って。


お買い物やお出かけをして。

テレビを見たり、料理をしたりして。


「ええと・・・、」


龍之介がいる風景は、当たり前で、安心な感じ。


「だい・・・じょうぶ、かも。」


頭がくらくらする。

胸がドキドキする。

昔みたいに?


違う。


この苦しさは・・・つらくない。

なんだか・・・あたたかい。


「龍之介。あたし・・・。」


なんて言えばいいんだろう?


「ちょっと考えるから・・・。」


もう少し話したい。

二人でゆっくり。


ええと、どうしたらいいの、こういうとき?

こんなところで立ったままでは、落ち着いて話せない。


「今すぐに返事をしなくてもいいよ。」


困った顔のあたしを見て、龍之介が腕を離し、笑って言う。


「じゃあな。」


帰れって言ってるの?

いつもみたいに見送るからって?


ああ、違うよ、龍之介。

そうじゃなくて。


「あの、ええと、」


なんて言えばいいの?

待って。

もうちょっと、二人で考えたいのに・・・。

でも、「うちに寄って行って」って、なんだか恥ずかしい。


なんて言えば・・・ああ!

あれって、こういう意味だったんだ。

あのとき龍之介は・・・。


「龍之介。あの、門限ある?」


「門限? そんなもの、この年であるわけが・・・。」


「あのね、あの、あの・・・。」


言いにくいな、やっぱり。


「あの、ふ、二人で考えたいから・・・、うちで・・・コーヒーでもどうですか・・・?」


声がだんだん小さくなって、頬に血が上るのがわかる。

恥ずかしくて顔を上げられない。




龍之介?

・・・無言?



・・・どうしよう?

あたし、言葉の選択を間違えたのかも。

もしかして、断るときに使う言葉だったのかな・・・?



恐るおそる見上げてみると、龍之介はぽかんとした顔をしている。


「・・・龍之介?」


そうっと呼んでみると、瞬きをして、頭をふるふると振った。

そして、あたしを見る。

驚いた顔のまま。


「あの。」


何か、信じられないようなことが起こったと思ってる?

どうしたらいいんだろう?


目が合ったことが急に恥ずかしくなって、また下を向いてしまう。


どうしよう?


「紫苑。」


龍之介のハスキーな声が、いつもよりさらに掠れてる。


「・・・はい。」


「つねって。」


「は?」


「俺のこと、つねってみて。」


ああ。

夢かどうかたしかめたいのか。

それほど龍之介にとっては予想外のできごとだったってこと・・・?


龍之介のスローな反応に、自分は少し落ち着いた。


でも、誰かの顔をつねったことなんかないよ。

よくわからないけど、とにかく痛くなくちゃ、現実だって認識できないんだよね?

じゃあ。

いくよ。

えい!


「イテテテ!」


よし、成功だ。

龍之介が痛そうに頬をおさえてる。


「紫苑! 痛いだろ!」


え〜〜〜〜?! 怒るの?!


「もう少し優しくできないのか?! まったく・・・。」


「だって、痛くないと龍之介が。」


ぐっと手首をつかまれた、と思ったら、また龍之介の腕の中にいた。


「あ、あの、龍・・・、」


「そういう紫苑が、全部、好き。」


頭の上でつぶやかれた言葉。

その声と言葉が、頭の中で何度も何度も繰り返されて。



なんて・・・優しい言葉だろう。



龍之介は、あたしのことが好きなんだ・・・。



あたしは・・・?



龍之介との会話は楽しい。

龍之介に『好き』って言われてほっとしてる。

龍之介の腕の中は安心。

龍之介と一緒にいられることが・・・嬉しい。



龍之介とずっと一緒にいたい。




・・・真由。


あたしにもいたよ。

ずっと一緒にいたいって思える人が。



大きな大きなため息が出た。

がっかりしたんじゃない。

満足のため息。


「紫苑?」


「うん。」


「コーヒー、いただきます。」


はい。






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