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45 新しい年はどんな年?


年末はスキーから帰った翌日30日に実家に戻った。


お母さんを手伝いながらお正月の買い物や料理をして過ごし、年越しには夜中に家族全員で近所のお寺にお参り。

夜中のお参りは寒いけど、静かで厳かな感じがするので好きだ。

境内でふるまわれている甘酒も、毎年の楽しみ。どこのよりも美味しいような気がする。


1月2日は真由と一緒に初売りへ!

福袋に殺到する人たちを笑っていたつもりが、いつの間にか自分たちも仲間入りしていた。

それぞれ3つの大きな袋を抱えてお昼を食べながら、おしゃべりに花が咲く。

真由は結婚式の準備がだんだん本格的になってきたらしく、細々した決めごとが多くて疲れるとため息をついた。


「エステにも行かなくちゃいけないし。」


「あ、やっぱりそういうのやるんだ?」


「もちろん! 一生のうちで一番注目される日なんだから。」


たしかに。


「ドレスは決めたの?」


「それがねえ・・・。」


真由がまたため息をつく。


「6月だし、あたしは肩が出るドレスがいいの。でも、うちの母親がさあ、そんなのは下品だって反対するの。古いんだよね。」


「試着してみせたら納得してくれるんじゃない? 真由なら何を着ても、下品になんかなるわけないもん。」


あたしの言葉に真由は幸せそうに微笑んだ。

どんなに愚痴をこぼしていても、心の底では幸せなんだ。

知佳ちゃんもそうだったけど、幸せな人の笑顔は、見ているあたしも楽しい気分になる。


「紫苑はどうなの?」


「なにが?」


「秋月さんとは、その後、どうなってるの?」


やっぱり来た、この話題。

クリスマスの前にタルトを秋月さんのために作ったことを話してあったから、次に会ったら絶対に訊かれると思っていた。


「明日、初詣に行く予定。」


「あら。」


「とりあえず、そんなところ。」


「なによ、それ? なんだか、気が乗らないみたいだけど?」


「うーーーーん、そういうわけじゃないんだけど・・・。」


なんて言ったらいいんだろう?


「何か心配なの?」


「心配っていうか・・・その・・・。」


「どうしたの? 紫苑らしくないね。」


「だって・・・、その・・・、」


真由の方に身を寄せて。


「びっくりしちゃうんだもん。」


「は? 何が?」


・・・わからないよね。


「あのね、秋月さんて、何でも口に出しちゃう人なんだよ。」


「ああ。最初は独り言がきっかけだったって・・・。」


「うん。そういう感じで、その、あたしのことも・・・。」


「・・・なるほど。『好きだ。』とか言うわけね。」


「うん、そう。」


ほんとうはもっと具体的なことも、なんだけど。


「で? 言われるのが嫌なの? もしかして、昔のことを思い出してつらいの?」


「あ、ううん、そうじゃなくて・・・。ええと、言葉だけじゃなくて、行動に出ちゃうっていうか・・・。」


「え?! そんなに積極的な人なの? まさか人前で・・・?」


「え、いや、そうじゃなくて。」


「じゃあ・・・無理矢理・・・?」


「いや! それもないから!」


そんなことになってたら、即、お断りしてるよ!


「そうだよね。」


真由がほっとした顔をする。


「じゃあ、どのくらいのことなの?」


「あの・・・おでこにちょっと・・・。」


「おでこ? え? おでこにちょっと・・・って、おでこにキス? それだけ?」


“それだけ?” って、それだけのこと・・・なの?


「あと・・・ギュッて。」


「抱き締められたの?」


「・・・うん。」


「それ、いつのこと?」


「スキーの帰り・・・。龍之介も一緒に秋月さんの家に寄ったの。」


「ああ、年末の。」


「うん。」


「そうか。で、二人きりになったときに?」


「・・・うん。」


「うーん・・・、それくらいなら、たいしたことないような気がするけど?」


う・・・でも・・・。


「いきなりなんだもん。」


「ああ、びっくりするのね?」


「うん、そう。」


「ふふふ。でも、紫苑、そういうときって『いいですか?』とか訊かない人の方が多いんじゃないかな?」


・・・だから困ってるんだよ。


そりゃあ、あたしには昔、婚約者がいたし、今さら何も知らないふりをするつもりはない。

だけど・・・あの人以外でお友達以上のお付き合いをするのは初めてなんだもの。


・・・いや。

きっと何人目でも、その人との関係を作っていくときには “初めて” になるんだよね。

だから戸惑ってしまう。


「紫苑はいやなの?」


思考を中断する質問に、ちょっと答えるのが遅れた。


「・・・・いやっていうか・・・わからない。」


遅れても出ないこたえ。


「どうしたらいいのかわからない。明日、会うけど・・・、」


「また同じようなことをされるのが怖い?」


「怖い? ううん、怖いっていうのとは違う。でも・・・わからない。」


「紫苑。ずっとそのことを考えてた?」


「うん、まあ、かなり。」


忙しいときは忘れてたけど。


あたしの返事を聞いて、真由はくすくすと笑った。


「じゃあ、秋月さん、大成功だ。」


「何が?」


「紫苑に自分のことを考えてもらうってこと。」


「え? そうなの?」


「まあ、そういう意味もあると思うよ。紫苑にとってはかなり強烈な印象だったみたいだもんね。うふふ。」


強烈過ぎるよ・・・。


「スキーに行った帰りに寄ったんでしょう? 龍之介くんと仲良くした思い出のまま、紫苑を帰らせたらまずいと思ったんじゃない?」


「真由まで龍之介のことを言うの?」


「これは、あくまでも秋月さんがそう思ったんじゃないかっていう憶測。」


・・・たしかに、秋月さんはいつも龍之介と張り合おうとするけど。


「だとしたら・・・、明日は心配ないのか。」


休み中は龍之介と会ってないし。

年が明けたら龍之介よりも先に秋月さんに会うんだから。


「そうかもね。でも、あたしの憶測だよ?」


真由がまたくすくすと笑う。


憶測だとしても、けっこう納得がいく。

いくら口でいろんなことを言う人でも、実行するにはそれなりの覚悟が必要なはずだもの。

秋月さんがあたしのことを・・・好きだって思っているという理由だけじゃなく、龍之介への対抗意識であんな行動に出たって考える方がしっくりくる。


「紫苑。」


呼ばれて顔を向けると、さっきとは打って変わって真面目な様子の真由に少しドキッとする。


「なに?」


「ほんとうに、秋月さんのことは怖かったり、嫌だったりしないのね?」


「ああ・・・うん。そういう感じはないよ。ほんとうにいい人なの、秋月さんは。」


「それならいいけど・・・。」


真由が視線をいったん下に向けてから、もう一度あたしを見る。


「あたしね、『成り行きにまかせなさい。』なんて言ってしまったこと、今になって心配になっちゃったの。」


「そんなこと・・・、大丈夫だよ。大丈夫って言うよりも、その言葉のおかげで秋月さんともお友達になれたんだから、感謝しなくちゃね。」


「でもね、成り行きにまかせて進めば進むほど、断ることが難しくなってしまうかも。」


「ああ、それなら大丈夫だと思う。」


「そうなの?」


「うん。秋月さんにはちゃんと言ったの、『秋月さんの気持ちに応えられるかどうかわからない。』って。それでもいいって言ってくれた。『重荷に感じたら、断ってほしい。』って。」


「そう・・・。秋月さんって、ほんとうにいい人なんだね。」


「うん。」


いい人なんだよ。

・・・びっくりさせられてばかりだけど。


そんなことを考えているあたしを真由が笑う。


「けっこう積極的な秋月さんは、紫苑にはちょうどいいかもね! 明日はどんな予定なの?」


「午前中に秋月さんが車で迎えに来てくれるって・・・。」


「え? ほんと? あたし、見に行ってもいい?」


見に?!


「いいじゃない、近所だし。・・・あ、今日、紫苑の家に泊ろうかな?」


「まあ、泊るのはかまわないけど・・・そんなに見たいの?」


「見たい! 紫苑の彼氏候補だもんね♪」


彼氏候補・・・か。


たしかにそうなのかも知れないけど・・・しっくりこない。

まだ決心がついていないから、なのかな?


まあ、いいや。

だんだんとあたしの気持ちも分かってくるだろうから。


「そんなこと言って、真由、ほんとうは隆くんとののろけ話をしたいんじゃないの?」


「あ、わかる?」


「当たり前だよ! 何年親友やってると思ってるの?」


「そうだよねえ。」


「ちゃんと聞くけど、あんまり過激な内容は控えてね。」


「大丈夫! あたしたちピュアな関係だから。」


そう言うと、あきれ顔のあたしを見て、真由が楽しそうに笑った。


幸せな真由の笑顔を見たら、やっぱりあたしも楽しい気分になって・・・自分も幸せになれるような気がした。






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