43 ≪レイナ≫(2)
明日は帰るのよね・・・。
今日一日やってみて、わたしたちの仕事って、そう簡単なものじゃないって分かったような気がする。
でも、まだあきらめない。
今夜の宴会で、チャンスが作れるかもしれないもの。
「「「おじゃましまーす。」」」
え?
あら、やだ。
これって、どうなの?
「あー! ちょっと待って!」
「きゃ! ご、ごめんなさい!」
「失礼しました!」
「え? どうしたの、二人とも? なんで行っちゃうの?」
「・・・紫苑。ちょっと来い。」
「龍之介? なに? どうしたの?」
「いいから早く。」
「・・・・・なに?」
「真鍋さん、着替え中だったんだぞ。」
「あ、うん。見て分かったよ。」
「服着てなかったじゃないか。」
「え? パンツはいてたじゃん。」
「はぁ・・・・。」
「なによ?」
「恥ずかしいだろう?」
「ええ?! だって、うちではお父さんも弟もパンツ一枚で歩いてるよ? 男の人のパンツって普通の短パンみたいだし、海とかプールに行けば、みんなそんな格好してるじゃん。」
「でも、普通は見せないものなんだから。」
「へえ、そうなんだ・・・。あたし、男の人は恥ずかしくないんだと思ってたよ。」
「じゃあ、紫苑は下着姿を見られても平気なのか?」
「なんで?! 平気なわけないいでしょ!」
「だって、海とかプールとかでは、みんなそんな格好してるじゃないか。」
「下着と水着は違うよ! 女の子の下着は見せない前提で作られてるんだから。」
「いや、そこじゃなくて、そういう・・・その、露出度の高い・・・。」
「ああ、そうか。ダメだよ、女の子のを見ちゃ。」
「男のはいいのか?」
「だって、それを見て犯罪に走ったりしないでしょ?」
「紫苑・・・。つまり、紫苑は男の裸に何も感じないと・・・。」
「やめてよ、変なこと言うの! あたしだって、何も着てなかったらびっくりするよ!」
「“びっくり” ね。よーく分かった。でも、一応、見ないようにするのが礼儀だぞ。」
「うん・・・。分かった。」
紫苑ちゃん。
あなたって、なんていうか・・・そのままの人なのね。
紫苑ちゃんを相手に選んで、この旅行中にいきなり結果を出そうなんて、ちょっとせっかちすぎたのかも知れないな・・・。
「ともちゃん、あたしちょっと飲み過ぎたかも。廊下で涼んでくるね。」
「え? 紫苑さん、一人で大丈夫ですか?」
「うん、平気。この部屋の前から離れないようにするから。」
あら。
高木くんは・・・向こうで盛り上がってる!
弘晃。
紫苑ちゃんがいないことに気付いて。
「あれ? このハンドタオルって・・・?」
「ああ、紫苑さんのです。」
「ああ、そう・・・いない?」
「さっき、廊下で涼むからって・・・。」
「一人で? もう遅いから、一応見て来るよ。」
やった〜!!
でも・・・この二人だと、あんまり期待できないかしら。
「紫苑ちゃん。」
「あ、真鍋さん。」
「寒くないの?」
「はい。ちょっと飲み過ぎたみたいで。」
「そう。たしかにここは気持ちいいね。」
「はい。それに、夜の雪景色もきれいですね。静かだし。」
「そうか。紫苑ちゃんはスキー場には来ないから・・・。」
「そうなんです。高校生のときは、夜の雪景色なんて考えてもみなかったし。」
「あははは、そうだよね。夜は友達と遊ぶ方が楽しいもんね。」
「はい。それに、疲れきってましたから。ふふふ。」
「今回は余裕だね。」
「余裕っていうか、無理にやってるわけじゃないので・・・。午後も早く終わりにしてるし。」
「楽しい?」
「はい! すごく楽しいです。真鍋さんはナイターまで、目いっぱい滑ってますよね?」
「うん・・・。ほんとうは、来るのをやめようかと思ったんだけど・・・。」
「え? 真鍋さんが、ですか?」
「うん。だけど、俺が言い出した話だったし、一人でいるよりも・・・。実はね、失恋しちゃったんだよ、つい最近。」
あら。
こんな話ができるなんて、もしかしたらいい雰囲気に・・・?
「え? あの、ええと。」
「ああ、びっくりさせてごめん。」
「いえ・・・・・。」
「うちの兄の婚約者だったんだ。2年前に紹介されたときに一目惚れしてね。最初から望みがなかったんだよ。」
「・・・・・。」
「半年前に兄が海外赴任になって、結婚式の準備を俺が代行していたんだけど、望みはないのに、彼女と一緒に結婚式の準備をするのが楽しくて。で、5日前にとうとう結婚して、兄と一緒に行ってしまったよ。」
「悲しいですね・・・。」
「うん。もう二度と笑えないと思った。でも・・・仲間っていいね。それと、思い切り体を動かすことも。」
「元気になりますか?」
「うん。笑えるってわかった。まだ5日なのに。・・・ああ、俺、どうして紫苑ちゃんにこんなことを話してるんだろう?」
それは、お互いに解りあえるからよ!
「・・・きっと、夜だから、です。」
え?
「夜だから?」
「はい。夜は、昼間とは違います。」
「ああ・・・、そうかもしれない。無防備になるっていうか。」
「はい。自分の心の深いところと向き合うような。」
「紫苑ちゃん・・・?」
「夜って、不思議ですよね。いろんなことを考えてしまいます。」
「・・・そうだね。」
「でも、朝になると元気になることが多いです。」
「そう?」
「はい。悲しい気分の夜でも、次の日になってみるとすっきりしていたり、悩んでいたことが、朝になると簡単に解決しそうに思えたり。」
「ああ・・・わかるな。」
「きっと、眠ることが体だけじゃなくて、心にもいいのかも知れないですね?」
「うん・・・。そうだね。」
「もちろん、単に、明るさの問題なのかも知れませんけど。ふふふ。」
「そうだね。」
・・・ユウ。
これが、あなたがやってきたことなのね。
紫苑ちゃんが悲しかったり、淋しかったりするときに、なぐさめてあげること。一緒にいてあげること。
紫苑ちゃんが、できるだけ心安らかに、楽しく日々を過ごせるようにしてあげること。
それが、わたしたち恋風の、もう一つの役割なのね。
役割・・・というよりも、そうしないではいられないよね?
自分たちが生まれた理由を知っているんだから。
その人間が、どれほどつらい思いをしたのかを知っているんだから。
だから、幸せを願うんだから。
弘晃。
きのうまでは毎日、あなたと夢の中で話していたけれど、もしかしたら今夜は、わたしの出番はないかもね。
でも、いつも一緒にいるから。
弘晃が幸せになるまで、ずっと一緒にいるからね。