18 ≪幸せ≫
―― 紫苑。久しぶりだね。
「・・・ユウ?」
―― そうだよ。
「元気だった?」
―― うん。
「いつも、そばにいてくれてる?」
―― もちろんだよ、紫苑。僕はいつも紫苑のそばにいるよ。
「ユウ。まさか、また・・・。」
―― 紫苑。僕は紫苑が不幸になることは絶対にしない。
「うん・・・。あたしはユウがいてくれればいい。それだけがあたしの望み。それだけで幸せ。」
―― ・・・・・。
「真由が結婚するって。」
―― うん。一緒に聞いてたよ。
「ほかの人たちも、きっとだんだんと結婚するね。」
―― そうかもしれないね。
「あたしね、ユウ。べつに、そういうみんなのこと、羨ましいとは思わないよ。」
―― そう?
「だって、あたしにはあたしの幸せがあるもん。」
―― そう。
「そうだよ。あたしにもちゃんと信用できる友達がいて、仕事もあって、自分で生活できている。そうだ! 今度、何か習い事でもやってみようかな? 今まで興味があってもできなかったこととか。」
―― それもいいね。
「ああ、来月はスノボにも行くんだし。」
―― そうだったね。きっと楽しいよ。
「ユウは見てることしかできなくて残念だね。」
―― でも、紫苑が楽しいなら、僕も楽しいよ。
「そうなの?」
―― うん。紫苑が楽しかったり嬉しかったりすることが、僕も嬉しいんだよ。紫苑が幸せなら僕も。
「そう。じゃあ、あたし、毎日を楽しく過ごすね。ユウのために。」
―― 僕のためにじゃなくて、紫苑は自分の幸せを考えて。
「そうか。目が覚めているときには、ユウのことは忘れてるんだもんね。」
―― そうだよ。
「わかった。あたし、いつも幸せでいられるように頑張るね。だから、いつもそばにいてね、ユウ。」
―― もちろんだよ、紫苑。いつもそばにいるよ。
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紫苑。
僕の大切な紫苑。
気付かない?
きみが僕と夢の中で話せるのは、きみが淋しいときや悲しいときだけ。
きみが誰かにそばにいてほしいと思うときだけ。
だけど。
僕はきみを言葉で慰めることしかできない。
きみに触れることはできない。僕には実体がないから。
手を握ってあげることも、肩を抱いてあげることも、涙をぬぐってあげることも・・・。
紫苑。
僕は辛い。
僕ではきみを本当に幸せにすることはできない。
きみは求めているのに・・・。
紫苑。
真由の言葉もきみを導いてくれる。
勇気を出して、紫苑。
いつも、そばで見守っているよ。