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漆黒の戦神  作者: pigeon
幕開け~戦いの決意~
4/10

第四話~情勢と実情~

先ほどまで居た通りからさらに10分ほど歩いた所に、その小さな家はあった。

活気付いていてにやかだった通りと比べ、此処は静かな所で、閑静な雰囲気が漂っていた。

中に入ってみると、そこは清潔に保たれていて、居心地が良さそうだ。


《全くどうでもいいことだけど、家にはいる時は靴脱がないんだな。本当に日本でいう中世ヨーロッパみたいなところだな》


そんなことを考えながら家の中を見回していると少女が、


「あ、そこの椅子に座って待っててください。今飲み物を持ってきますね」


「わかった。あまり気を使わなくていいぞ」


「いえ、命を助けて頂いたのですから当然ですよ!むしろ足りないくらいです!」


「そ、そうか」


《そんな危ないとこだったのか?本当此処はどこなんだろうか?変な人だと思われるの覚悟でこの少女に聞いてみるか》


そう思いながら椅子に腰掛けると、


《あ、そう言えば自己介すらしてなかったや。成り行きでこうなったから忘れてた》


「そう言えば俺たち、自己紹介してなかったな」


机の上に、茶色がかった飲み物をおいている少女にそう言ってみると、


「あっ!す、すいません、私としたことが。私はエリーシャって言います。父は商人で、母は平民でした。今14歳です」


続けて名前を言おうと思ってたのに、先をこされてしまった。


「そうかエリーシャか、よろしくな。14歳なのにしっかりしてるな。俺は羽白空矢って言う。19歳だ」


その飲み物は飲んでみると、とても爽やかな味がした。


《なかなかいけるな。フルーツティーか?レモン、いや、酸味の強いアップルティーか。なかなか病みつきになる味だな》


そうやって紅茶らしき飲み物を味わっていると、


「ハシロクウヤ?ずいぶんと長い名前ですね。それに聞き慣れない名前」


じっと何かを考えていた少女、エリーシャに、めちゃくちゃなイントネーションで名前を呼ばれた。

しかも勘違いされている。


「そうか、此処らには余りこう言う名前はないのか。ちなみに名前は空矢だ。羽白は苗字だ。家名というやつだ」


「えっ、てことはあなたは貴族なんですか!」


《此処には貴族までいるのか。さっき平民って言葉も使ってたしな》


「いやそんな大層なもんではない。俺のいた所では、全員苗字を持ってるぞ」


「そうなんですか」


「あとさっきから気になってたんだが、俺に丁寧語を使う必要は無いぞ。堅苦しいのは出来なくも無いが、煩わしく感じてな」


「わ、わかりました。できればそうします」


「それじゃ本題に入ろう」


「はい」


「君の話を聞くことがメインなんだけど、その前にいくつか聞きたいことがあるんだ。それでもいいかな?」


「はい、私で答えられることでしたらなんでも聞いてください!」


「そうか、じゃあ遠慮なく。変なこと聞くかもしれないけれど、まずこの世界の地理的なことと、世界情勢が聞きたいんだ。何故こんなことを聞くのかは、後で説明するよ」


「はあ……。それじゃあ私が分かる範囲で答えてますね。まず地理的な事ですが、この大陸はクラリス大陸と言われています。もう一つ大陸があるそうなんですが、そちらの情報はほとんど無いです。ただ少しわかっている事と言えば、あちらにも人々が生活していて、いくつもの国があると言う事です。」


「何でその大陸の事がわからないんだ?」


「本当に変な事を聞くんですね。いまの技術では、彼方まで渡っていけるほどの船が造れないんですよ。たまに奇跡的に渡ってくる人は、ボロボロで死にそうになって来るんですよ。そういう人がいるから、辛うじて大陸があって、人が住んでいる事が分かったんです」


「ふむふむ」


「次はこの国の事ですが、名前をオルタリア公国と言います。すぐ南に隣接するレイファス王国の衛星国的な国ですね。あと東にあるカーチス公国も同じくレイファス王国の衛星国ですね。」


「ほお。てことはレイファス王国ってのは随分大きな国なんだな。」


「そうです。その他にもルーメス共和国とリーン帝国という大国があり、中央のランバル連合という小国の集まった集団を挟んで三竦みの状態になってます。今は平和ですが、いつ戦争が起こるかわからない状況です」


「そうか。それじゃあ今は大きな戦争はないんだな」


「そうですね。国境付近で小競り合いがあったという話は聞いた事はありますが」


「そうか」


「あとはどんな事が知りたいですか?これでも私、知識量は結構自信あるんですよ!」


「そうか。それなら魔人について教えてくれ。どんな扱いを受けるかもな。言いたく無いなら遠慮なく言ってくれ、自分の事だからな。無理はして欲しくない」


「いえ、心配してくれてありがとうございます。でも大丈夫です。慣れていますから」


「そうか」


「魔人とは、さっきも言いましたが、魔獣の特徴を体の一部に持つ人間の事です。特徴の事は証と言はれ、私は耳としっぽで二箇所あります。他には手に鱗が生えていたり、羽が生えていたり色々です。そしてもう一つ、人間と魔人の違う所は、魔力の保有量です。証の魔獣のランク順に、高い方が多いです。それでも最低ランクの魔獣の証を持つ魔人でも、常人の数倍から数十倍の量を保有してますけどね」


「へぇ~。エリーシャの証はどの位なの?」


「それがわからないんです。今まで確認されていない種類らしくて。魔力量は結構あるみたいなので、そんなに低くは無いとお思うんですけど」


「そうか。そう言えば、魔力があるって言ってたな。てことは魔法があるのか?」


「はい、ありますよ。魔法ではなく魔術ですけど」


「おぉ~」


「あの、そろそろ聞いていいですか?何故こんなに一般常識ばかり聞くのか」


「ああ、そうだったな。変なやつだと思はれるかもしれないが、本当の事をいうぞ。どうやら俺は、異世界からきたらしい」


なんでも無いかの様に俺が言うと、エリーシャはよく理解できなかったのか、こちらをじっと見て来た。


・・・凝視。


・・・無言。


・・・凝視。


・・・沈黙。


・・・凝視。


「あー、えーと、何だその、何かをすごく言いたいけど言い出せなくて困ってるてきな顔は」


「いえ、クウヤさんが変な事言い出したから」


お、いつの間にか敬語がとれてる。

しかもなんだか名前で呼ばれてるし。


「いやー、俺もそう思ってるんだけど、今まで聞いた話からすると、おれの元いた所と全然違うようでさ。じゃあ試しに聞いてみるけど、日本って知ってる?俺のいた国なんだけど。何ならアメリカとか中国とかロシアでもいいけど」


《今更だが俺落ち着いてるな。まあ心残りって言うのも無いからかもしれないがな》


「そんな国名は聞いた事が無いですけど」


「だよな~。第一俺のいた世界では、魔法、いや魔術だっけ?まあそんなもの無かったしな」


「え!そんな世界全く想像できません」


“ピクッ”

あ、耳がたった。

それを見て和んでから、裏付けも取れた事だし話をもどす事にした。


「まあそういう事だから、此処の常識が通じない事があるかもしれないが、それは勘弁してくれ。それじゃあ君の話を聞こうか。余計な話しちまったからな」


笑ながらそういうと、


「あ、すっかり忘れていました!なんだか今の雰囲気で言うような話では無いですけど」


「どんな話でも構わないよ。聞くって約束したしね」


そう言うと安心したように微笑んだ。


「それじゃあまずもう呼んでしまっていますけど、クウヤさんって呼んでいいですか?私の事はエリーでいいですから。仲の良い人はみなみんなそう呼ぶんです。と言ってもそんなにはいませんでしたが」


「ああ、いいよいいよ!エリーだな!よろしく!」


少し暗くなってしまったエリーを元気付けるためにも、明るく返事をしようと思ったら、焦ったあまり、少しどもってしまった。


「ありがとうございます!」


こんな事でこんなに喜んでくれるとは。

それにしてもエリーは可愛い。

笑っているのをみると、つい“ドキッ”としてしまう。


「それじゃあまず魔人の境遇について話したいとおもいます。魔人はさっきも言った通り、魔獣の特徴を持っているので、基本は魔獣と同じ扱いを受けます。ひどい時は生まれてすぐに殺されてしまいます。いえ、その方が幸せかもしれません。殺され無かった場合は人買いに売られ、労働奴隷になるか、綺麗だったなら貴族の慰みモノにされます。その分私は幸せでした」


エリーは何かを思い出しているのか、少し目を赤くさせながらそう言った。

しかし直ぐに気を取り直し、また話し始めた。


「父は商人だったので、魔人を見慣れていました。その為、私を産んで取り乱していた母をなだめ、魔人も人間と変わらないと説得し、私を隠して育ててくれました。今私のもている知識は、父が教えてくれたものがほとんどです。私の正体がばれてしまうと大変なので、商売をしながら各地を転々としていました。それでもその間私はとても幸せでした。父も母も私を愛してくれていましたから」


エリーは涙をこぼしながら、俺の眼を真っ直ぐ見てそういった。


《本当に幸せだったんだな。一体何があったんだろう》


「しかしもうその愛を感じる事ができないんです。父と母はもういないから」


泣きながら語るその小さな姿を慰めてやりたかったが、俺はかける言葉がみつからなかった。

これ程もどかしく思ったのは初めてだ。

そう思っている間にも、エリーはどうにか声をしぼり出して話しを続けていた。


「あれは丁度一ヶ月位前の事です。この街に来る前に暮らしていた所で、私の事がばれてしまったんです。父は私と母を逃がす為に時間を稼いでくれました。その間に私と母は荷物をまとめ、荷馬車を用意しました。帰って来た父を乗せ、この街まで逃げてきました。これでまた平和に暮らせると思ったのもつかの間、父が倒れたんです。時間を稼いでいた時にやられたのか、体の中で血が漏れていたそうです。そしてすぐに死んでしまいました。その時の私の記憶はほとんどありません。後から母から聞いたら、自分をせめて自暴自棄になっていたそうです。そして悲劇はまだ続きました。働き手がいなくなってしまった代わりに、生活費を稼いでいた母が倒れてしまったんです。そして母も父の死にまいっていたのか、直ぐに父の後を追いました。私はもうどうなってもいいと思って外をうろついていました。そして案の定、証を見られて人々の前に引きずり出されてしまいました。これで父と母の後を終えるとおもいましたが、実際に死を目の前にしてみると、怖くなって命乞いをしていました。そこにあなたが現れたんです」


そう言って今度は力強い眼をこちらに向けてきた。


「最初にも同じような事を言いましたが、魔人は家畜と同じような扱いを受けてます。それを民衆から助けてくれた。その時はとても嬉しかったです。それに証を見ても怖がらなくて、か、可愛いと言ってくれた。その時に私は、この人に話を聞いてもらいたいと思ったんです。迷惑かとも思ったんですが、どうしても聞いてもらいたかったんです。今にもパンクしそうだったんです。迷惑でしたか?」


そんな背景があったのか。


「そんな事はない。俺で良ければ幾らでも聞いてやるさ」


「ほ、本当ですか?迷惑じゃ無いですか?うざく無いですか?」


「おいおいそんなに卑屈にならなくても」


「うっ、ひっく」


するとエリーは、今まで溜めていたものを全て出し切るかのように泣き始めた。


「ほら、よしよし」


俺はエリーの横まで移動し、落ち着くまで頭を撫でてやることにした。

それからしばらく、泣き声は止む事が無かった。

数分後泣き止んだエリーは、


「みっともない所を見せてしまいました。……えへへ」


エリーは、思いっきり泣いた事で、付き物が落ちたような、すっきりした顔になっていた。


「あの、クウヤさんはこれからどうするんですか?本当に異世界と言う所からきたとしたら、行くあても無いですよね」


《ん~、いたいとこついてきたな。

今まで考えないようにしていたのに。

まあいつかは対面する話だけどね。》


「まあなんだ、あんま心配してないけどな。両親もいたけど暫くあってなかったから、まだあっちに帰ん無くてもいいし、この世界は面白そうだし。多分帰る方法を探しながら、旅して回る事になるかな」


「そうですか」


何か言いたそうな顔をしているな。


「あの!」


「ん?」


「その、あの、えーと、だから」


「言いたい事は遠慮無く言え。溜め込んでるとよく無いぞ」


「それじゃあ、私も連れて行って下さい。お願いです。やっぱり地理を知っている人がいた方が良いですし、私、家事とか料理とかできますよ。それに、それにもう此処にはいられないですし」


何か凄い力説して来る。

ん?もういられない?


「もういられないって言うのは?この町に住めないって事か?」


「はい、そうです。さっきの件もありますので、ずっと注意深く過ごしてましたからこの家はまだ知られてないと思いますが、いつかはばれてしまうとおもいます。見つかったら殺されてしまうのは目に見えているので」


「何で魔人と仲良くしないのかね?人間は」


「あれ?言ってませんでしたか?この大陸にはアスター教と言う宗教があって、その信者が九割を占めているんです。そこが魔人を差別してるんです。詳しくわかりませんが、何でも『魔人は昔魔獣と交わった忌むべきもの達の末裔で、人間とは認められない。』とか何とか。証を見る限り、あながち間違ってはいないのかも知れませんが、中は他の人間と同じなんですから、そんな小さな事、気にしなければいいのに」


途中から、我が事の様に熱を入れて話していた。

いや、自分の事だったか。


「おれのいた世界にも宗教があったけど、どこも同じだな。これはあくまで一例だけど、敵という存在があると、信者達をまとめやすいんだよ」


「私達は魔人になりたくて生まれた訳じゃないのに」


「今まで誰もそれに反抗しなかったのか?魔人どうしで集まったりとか」


「聞いた話だと、魔人を擁護する方達がレジスタンスを作っているらしいですよ。反教会勢力って普通の人は読んでます。でもまだ小さいからか、たいした行動に出てはいませんが」


「ん?どこかで聞いたような?」


「それよりそんな事を話していたんじゃありません。私も連れてってくれるのかという話をしてたんです。さあ、答えて下さい。ダメと言ってもついてきますけどね」


「おいおい」


「一人は嫌なんです」


《ギャーーー!

そんな下向いて悲しげな雰囲気醸し出すのやめて~。

だ、ダメだ。

俺にはこれに対抗する手段がない》


「仕方ない。ついて来ても良いよ」


そう言ってやると嬉しさのあまりか、抱きついて来た。

前にも言ったかもしれないが、俺は女友達がいなかった為、こういう事に免疫が無かった。どうしたらいいのかわからなくなってしまうのだ。


《ギャーーー!》


こうして俺はエリーに生気を吸い取られてしまった。

俺にその後の記憶はない。

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