第三話~出会い~
あれから、この町を見て回ってみた。
見れば見るほど、此処は地球でないという確信が深まってくる。
動物達も見たことがない品種だし、お金も何か硬貨を使っていて、紙幣もなく文明の利器と言うべきものもなかった。
《さて、これからどうするかな。金も無いし、ましてや異世界だとしたら、身寄りも無いときた。まあ、何か仕事でも見つけるか。幸い、体力やらには自信があるしな。定番の冒険者辺りがだとうか?》
そう思って気を入れ直していると、前方が騒がしいことに気付いた。
《なんだなんだ?喧嘩か?》
とくにすることも無いので、野次馬根性丸出しで見物してみる事にした。
近づいてみるとどうやら、喧嘩というよりは皆で誰かを口汚く罵っているらしい。
《何かやらかしたのか?》
今の自分の状況を考えると下手な事に首を突っ込むのは得策ではないだろう。
しかしそこはやっぱり現代っ子。
好奇心に勝るものはなかった。
一応は周りを気にしながら無理矢理人垣の中に入って行った。
《一体何人いるんだ?これは集まりすぎだろう》
そう思いながらも進んで行くと、思いもかけない光景があった。
それは真ん中で泣く少女をよってたかって罵ったり、物を投げ付けたりする人々だった。
助けたいが、現状をよく知らないで関わると最終的には引っ掻き回してしまって、余計ややこしくなってしまうだろう。
そこまで考えて、エスカレートしないようだったら手をださないようにしようと思った。
自分の身が一番だからだ。
少し下がって見ていると、ちゃらちゃらしたかんじの青年が三人出てきた。
《あー、こりゃいや~な雰囲気がひしひしと。よし、その時は助けに出よう》
そう決心して体に力を入れ、温めはじめる事にした。
そうこうしているうちに状況は進み、青年達は少女を囲み話しはじめた。
「何でこうなってんのか分かってんよな!薄汚ねえ奴ぁこの街から出ていけ!それともなんだ?突き出されたいのかぁ~?」
「お、お願いです。お願いですからき、騎士様には」
“ゴンッッ”
話している途中に体が浮くほどの力で顔を蹴られた少女は、舌を噛んだのか、口から血を流しながら助けを求めはじめた。
「た、たすけてください。おねがい、たすけて」
《ああこれ以上見てらんねえや》
「誰も助けてくれる奴なんかいねえよ。誰が魔人なんか助けるかよ」
「んー、それがいるみたいなんだよな」
そう言って、人垣を掻き分け出ていくと、周りにいた人間という人間が、驚きのあまり固まった。
まさに此処だけ、この世界から切り離されたような静けさに包まれたのだ。
《そんなに驚くことなのか?ま、俺には関係ないか。俺はやりたい事をやるだけだ》
「まあなんだ、ひとまず消えろ」
そう言って、一番近くにいた奴の首に手刀をいれ、気絶したそいつをそのまま掴んで、三人の内一番遠くにいる奴に投げ付けた。
ちゃんとスナップを効かせてあるので、クルクル回転しながら飛んでいった。
そして、それを呆然と見ていた最後の一人に近づき、正面から顎をおもいっきり殴り、吹っ飛ばして気絶させた。
最後に某然とこちらを見ていた少女を脇に抱え込み、こちらも呆然としている人垣の間を抜け裏路地へ入っていった。
人々が正気に戻り、騒ぎだす前にこの場所を離れるのだ。
あれから俺は15分程走りつづけ、今は違う大通りからのびる細い通りに身を潜めている。
「はぁはぁはぁ」
裏から、途中から一緒に走っていた少女の荒い息遣いが聞こえる。
そろそろ息がととのったかな。
「大丈夫か?結構走っちまったからな」
いつの間にかマントを体に巻き、フードをかぶっていた少女に尋ねた。
すると、恐る恐るいった感じでこちらを向いた。
フードをかぶっているため、顔はよく分からない。
「あ、あのっ。さ、先程、は、ありが、とう、ございました」
そういって頭を下げてきた。
一体この子は何をしたのだろうか?
あまり聞かない方が良いかもしれないが、好奇心に負けた。
《さっきから好奇心強すぎる。ちょっとは自制しなくては》
「いやいや、そんな事気にしなくて良いよ。それより、さっきは何であんな事になってたの?途中からしか見てなくてさ」
そういった瞬間少女は固まり、こちらを見る目の中に、恐怖が映った。
《あ、やっぱりまずかったか》
すると少女は少しかすれた声で話しはじめた。
「私は……、私は魔人です。さっきは間違って、証をさらけ出してしまったので、あそこまで引きずり出されてしまったんです」
そういって俯いてしまった。
《は?魔人?証?なんだそりゃ。全く意味が分からん。電波さんかとも思ったけど、ふざけてなさそうだし……。んー》
「あのさ、その魔人って何?証って?」
「えっ………」
本日何度目だか分からない沈黙。
《この話しは、ここらの一般常識か?》
そう思いながら、少女の顔のまえで手を振ってみたりしていると、やっと復活したらしく。
「魔人を知らないんですか!!」
「ああ、ここらの人間じゃ無いからな」
「そういう問題ではないでしょう!何処の世界に、魔人を知らない人がいるんですか」
《魔人という単語が一般常識か。俺の常識がそのまま通らない可能性もあるな》
「ここにいるぞ」
適当にふざけておいた。
「はぁ~」
すると少女は溜息をつき、こちらをじっと睨みはじめた。
「あーいや、言いたく無いなら無理しなくても良いんだけど………」
ジーー。
「あっその、だから………」
ジーーー。
「うっ」
「は~~、助けていただいたのに言わないままでは失礼ですね」
すると頭にかぶっていたフードに手を伸ばし、ゆっくりと外した。
そのとき手が震えていたのを見た俺は、何か声をかけようかと思ったが、フードの下から出てきたものをみて言葉を失った。
そこにあったのは、
「………耳?」
もちろん只の耳ではない。
「そうです。魔人とは、魔獣の特徴を持った人間のことを蔑み、軽蔑するための差別語です。そして証とは、その特徴です。私でいえば、この耳です」
頭の上に二つ、少し先の尖った毛の固まりがあったのだ。
「いくら魔人という差別語が無いところから来たとしても、こういう特徴を持った人々の受ける仕打ちを知らないって訳ではないでしょう?」
時たまピクピク動くそれは、所謂獣耳と言われるものだった。
「どう?あそこまでして助けたのが、魔人だったと分かって。後悔した?」
少し自虐的に、そして悲しそうに話し掛けてきたが、生憎俺の耳には届かない。
それは、
「かっ」
「か?」
「可愛い」
「………ふぇ?」
見とれていたからだ。
ま、そんな事はどうでもいい。
目の前の少女が、可愛いという事実があれば。
髪は淡い金色で、長さは腰くらいまであり、肌はあまり日に当たってないのか真っ白だ。
真っ白といっても病弱な感じは無く、清楚な感じが漂っている。
顔立ちは大きな金色の目と相成って、綺麗というよりはかわいらしいという表現が似合いそうだ。
そこに獣耳だ。
髪が金髪なので、何となく子狐みたいだ。
「え、いや可愛いって言ったんだ。獣耳なんて始めて見たもんでさ」
「え、あ、怖がらないんですか?」
「何処に怖がる要素があるんだ?」
「しっぽがついていてもですか?」
何処からどう出したのか、マントから金色のふさふさなしっぽが出てきた。
「おー!しっぽまであるとは!ヤバイ、ヤバすぎるぞ!本格的だ!」
少女はそれを聞いてどう思ったのか、急に黙り込み、嗚咽を漏らしはじめた。
それを見た空矢はやっと冷静に戻った。
「な、何で泣いてるんだ?俺、なんかやっちまったのか?」
空矢は顔立ちは悪くないが、小さい頃から祖父に古武術を教わっていたためか、周りにいた女子達は、近づきがたい雰囲気を感じて遠慮していたのだ。
そのため女友達は殆どいなかった。
そのため、目の前で泣いている少女になんと声をかければ良いのか分からないのだ。
「あぁー。どうすりゃ良いんだよ。お、おい。大丈夫か?俺が悪かったんなら謝るからさ。泣きやもうぜ。なっ、なっ」
「い、いえ。今までそんな事言ってくれた人がいなかったので………。みんな怖がって逃げたり………」
「そ、そうか」
泣いてしまったのが、自分のせいではないと分かり、少し安心してそういった。
「あのっ、もしよければ私の話し聞いてもらえませんか?」
そういってこちらを不安そうに見つめて来た。
《う、可愛い。何だろう。このまま放っておくのも何だし、行くとこも無いし、いいかな》
そう思って、
「俺でいいならよろこんで」
そう言うと、安心した表情で、笑ってきた。
「それなら、この近くに私の家があるので、そこで話しませんか?」
「うん、それでいいよ」
「じゃあ行きましょう」
そういって、上機嫌な少女はフードをかぶり直し、今にもスキップしだしそうな歩調で、通りへ駆け出して行った。
「こっちですよ~」
これ以上考え事をしていると、置いていかれそうだ。
「分かった分かった」
そういいながら、空矢は通りへ歩いて行った。