第二話~異なる世界~
「んっ、んん~」
気がつくとすぐ、いつもの条件反射(こんなのあっても喧嘩ぐらいでしか使えないけどな)で立ち上がり、すぐに周りの気配を探った。
おそらく窓がないためだろう、周りは暗く、部屋に一つある扉の隙間から差し込む光のみが唯一の光源だ。
夜目に自信がある俺としては十分な光量だ。
前に友人に後ろから襲われ、そのまま気絶しているうちに何処とも知れぬ山中に置いて行かれた事があったのだが、今回もおなじだろうか。
今回は四方を石作りの壁で囲われた、教室くらいの大きさの部屋だった。
ひとまずは大自然の中ではないみたいなので安心した。
あの時は一週間も彷徨ってしまったからな。
後から聞いた話だと、置いてった本人が忘れていたそうだが……。
まあちゃんと報復はしておいたが。
しかしそうは言っても油断できない。
この部屋の外がどうなっているのか分からないからな。
そう考えているうちにも、自分の体に異常が無いかを確かめている。
《……ひとまずは大丈夫なようだ》
少し体を動かしてみると、いつもよりも調子が良いくらいだった。
一体どれだけの間気を失っていたのだろうか?
記憶を遡ってみると。
「あっ、そういえば……」
帰宅途中、裂け目に引きずり込まれたことを思い出した。
《あれは何だったのだろう?》
あんなもの人為的に作れるとは思わない。
これで晴れて友人達の無罪が確証されたのだが。
はて、誰がこんなことをしたのだろうか。
《まあそれは置いといてだ。先ずはこの現状をどうにかしなくちゃな》
壁まで歩いていって軽くノックしてみる。
“コッコッコッ”
鈍い音が返ってきたところを見ると、とても厚い壁みたいだ。
どうやら、何か建物の中の一部屋らしい。
今更だが床や扉を見てみると、埃もなく、綺麗に保たれている。
扉のとってや床が擦り減ってないところを見ると、頻繁には使われてはいないが掃除はされているといったところか。
《この分なら誰か人がいそうだな》
あくまで憶測にすぎないが、これで少し希望が持てた。
さて外に出ようか、と思って扉のほうに歩いて行くと、何やらガチャガチャ足音をたてながら、こちらに向かってくる者がいるようだ。
ガチャガチャというのは、お玉を沢山束ねて動かした音を、もっと鈍くしたような感じだ。
つまり、金属の音ということだ。
《こっちに向かってきてるな。今すぐにでも人とコンタクトをとりたいが、言語がわかるとも限らない。
ん~、どうしたものか……
まあ一先ずは様子を見てからのが良いかな》
そう考えた俺は部屋の奥の隅に移動し、気配を消した。
しかし、そう簡単には行かなかった。
なんと足音はこの部屋のまえで止まったのだ。
部屋の前にとまった足音は、そのまま少しガチャガチャ音を立てていたがすぐに静かになり、少し荒い呼吸音のみが聞こえるようになった。
《二人…………いや三人か》
先ほどの足音と呼吸音から、扉の外にいる人数を推測していると、急に空気が張り詰めた。
《む?》
この感じは実際に体験しないと分からないだろうが、敢えて言葉にすると、空気がガラスになった、といったところか。
《まあ、俺には関係ないが。
それより足音達だな。
俺はこんな空気を作れるやつらに睨まれるようなことをした覚えが無いんだが……》
そう一人で考えていると、足音達が動き出した。
“ガン”
部屋の扉を蹴破って現れたのは、鉄の塊だった。
「はっ?」
目の前の光景に驚き、つい呆気にとらわれてしまった俺は、無意識に声をもらしてしまった。
現代では滅多に見ることが無いであろう、西洋風のフルアーマー。
部屋の中が暗いため、流石に夜眼が良い俺でさえ、相手の顔を見ることが出来ないが、どうやら兜もかぶっているようだ。
すると相手が声をかけてきた。
「お前が先ほどの魔力の発生源か?どちらにしろこんな所にいるのだから、怪しいがな」
といいながら、笑みを向けてきた。
笑みといってもヘルムをかぶっているから見えないが、なんとなく雰囲気がいやらしそうな物だ。
《こりゃ面倒事だな……》
やる気なさ気に頭を下げたら、何を勘違いしたのか、馬鹿にするようにいった。
「はっ、スパイならスパイらしくあきらめろや」
そう言ったとたん抜剣し、そのまま上段に構え、振り下ろした。
普通の日本人なら、此処で何も出来ないまま切り捨てられていただろうが、空矢は普通ではなかった。
「えっと何て言ったら良いのかな。俺はスパイじゃ無いし、そのなんだ、魔力とやらには心当たりはないぞ」
そういいながら、相手の剣の腹を、両方から合掌するように手で挟んだ。
あたかも真剣白羽取りのように。
しかし違うところが一つだけあった。
“キーーン”
剣の挟んだところから先が折れ、遠くに飛んで行った。
それをみた三人の鉄塊達は、眼を見開いて呆気に取られていた。
それもそのはず、剣のスピードに合わせて、それも刃の弱いところを的確に、少しずらした手を打ち付ける。
しかも剣の弱いところといっても、所詮鉄の塊。
下手な力では、手首を痛める。
まあそのあと脳天に剣をくらうのだが。
「おいおい今の殺す気だったろ」
俺の問い掛けに、剣を折られた目の前の鉄の塊1が反応した。
「は、反教会勢力のやつらと他国のスパイの生死は発見者の自由に決まってるだろう!」
そういいながら、腰から抜いたナイフを、逆手に構えたまま振り上げようとした。
「せっかく一回目は殺さないようにしてやったのに。はあ……。そんなに死にたいのなら良いけどな」
そう言って、霞んで見えるほどの速さで、ナイフを持ったての手首を打ち付けナイフを奪い、お返しとばかりに鎧と兜の隙間に突き刺し、抜くと同時に後ろに飛びのいた。
首を保護していた鎖帷子を、力技でぶち抜いたので、ナイフはもう使い物にならなくなっていた。
それを遠くに放って、血をドクドク流しながらゆっくり崩れ落ちる鉄の塊1をみながら、今だ何があったのか理解できていない鉄の塊2と3に、
「まだやんのか?手ぇださなきゃ俺もやらんぞ」
そういってやると、二人とも抜剣し、こちらに切りかかってきた。
「何でそう死に急ぐかね」
そう年寄りめいた言葉を呟きながら、かかってくる二人を見据えた。
2が1のいまだヒクヒクしている死体を乗り越え、手の中の剣を横にして、薙ぎ払らって来た。
それを地面すれすれまで屈んで避け、そのまま流れるように手を付き、逆立ちをして、そのまま止める事なく踵を振り下ろした。
「グファッッ!」
そして2はそのいまま崩れ落ちた。
よく見てみると、兜が凹み、頭にのめり込んでいる。
そんな事もお構いなしに、3が2の影から現れ、剣を真っ直ぐに持ち、突き出してきた。
それを見切って半歩横にずれてかわし、剣を持った手を掴み、こちらにもっと引くとともに、手首を無理矢理3の首のほうに向け、その状態のまま足を払い、おもいっきり床にたたき付けた。自分の剣が首に添えられていたので、自分の体重と鎧の重さによて、剣の半ばまで首にめり込んでいた。
「かっ、はっ」
それを冷めた眼で見ていた空矢は、廊下の向こうから聞こえてくる音に気付いた。
「はぁ。今日はなんて厄日なんだ。てかホント此処何処だよ。まあこれ以上こんな奴らに構ってられねえな。ひとまずこの建物からおいとますっか」
そう言って目の前に転がる鉄の塊を避けて、廊下に出て行った。
部屋を出た俺は、一先ず音の聞こえない方へ逃げることにした。
それにしても此処は何処なのだろう。
先ほどの人は、結局顔を見ていないので、人種が分からなかった。
廊下も石作りで、壁にかかっている光源は、すべて松明ときた。
《どっからどう見ても、西洋の城んなかとしか見えないな》
そう考えながら、迷路のような廊下を歩いて行った。
床の擦り減り等を見て、人通りの多い所を目指してあるいていくと、目の前から一人歩いてくる人がいた。どうも年配の使用人らしい。しかもメイド服を着ている。
《さて今度はどんなんかな?》
そう思ってると、目の前まで歩いてきたメイドさんが話し掛けてきた。
「どういたしたのですか?こんな所で?」
そう言ってこちらに聞いてきた。
茶髪の彫りの深い顔立ちをした人だ。
《どうみても、日本人じゃないな。
するとここは、外国か?てかいまだ騎士がいる国とかってあるのか》
「此処まで迷い込んでしまう方は珍しいですね。迷ってしまったのでしたら、入口近くまでご案内致しますよ。それにしても珍しい髪と眼です事。服もここらでは見ませんね」
そういって、にこやかに笑った。
《この人は他意はなさそうだな。全員がさっきのみたいな奴じゃ無いことがわかって安心だ》
そう思って、その言葉に甘えさせてもらうことにした。
「出来れば案内していただけると嬉しいです。実は此処が何処だか分から無くて、困ってたんです」
「そうですか。では私に付いて来て下さい」
そういって歩き始めた。
「その服は何処の物なのですか?ここらではあまり見かけませんね。髪も珍しいですね」
「そうですか。私の居たところでは、皆このような服ですよ」
そういうと、
「ということは、海を渡っていらした方ですか?」
「……海を渡って?」
「その反応では違うようですね。もうひとつの大陸から、命懸けでこちらまでいらす方が、たまにいるのですよ」
よく分からなかったが、此処は合わせておこう。
「そうなんですか。でも私はこの大陸生まれですよ」
「そうでしたか。失礼致しました。あ、此処まで来れば大丈夫ですよね。此処を突き当たりまでいけば、玄関ホールです。それでは私は此処までということで」
「そうですか、ありがとうございました」
そういって挨拶を交わし、今の会話の内容を考えながら、門まで来た。
人通りは多く出るのに手間取ったが、すぐに流れに乗って門の外まで出ることが出来た。
門を出て分かったが、やはり想像通り今いた建物は巨大な城だった。
「なんだこりゃ。こんなでかい城が現役とは。此処は確実に日本じゃないな。第一西洋風な作りだし」
そう呟きながら、城壁もくぐり抜けた。
「………んっ!?」
《お、俺はタイムスリップでもしたのか?》
そう思わずにはいられない光景が広がっていた。
石作りの道と建物。そう中世のヨーロッパの城下街という光景があった。
むろん生活感が溢れている。
そして今俺は新たな可能性が頭の中を過ぎった。
普段ならそんな事を思い付いたりしないだろう。
だが、目の前の光景を見て確信した。
まず人間達の髪や眼の色だ。
そう、カラフルなのだ。
赤青黄緑紫……etc.
人間のDNA的にも有り得ないが、みんなまとめて染めていると思えば、説明できなくもないが……。
いや、眼はカラーコンタクトか?
《まあいい》
これまでの情報をまとめると、『此処は外国』説の他に、とんでもない説を思い付いたのだ。
そう、『異世界』説を。