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五 意識転写保存再生装置Q


 空から見るガルマイン帝国の状況は戦争開始直前の地図を参照すると全く異なっていた。軍港や軍用空港、陸軍用基地、弾薬庫以外の設備や施設全てが地下にあり、一般国民の生活の痕跡である住宅地や都市部はゴーストタウンの様だった。ガルマイン帝国の一般国民は地下に避難していると思われる。

 セラフィア国の軍事衛星から送られてきていたデータはガルマイン帝国の手によりリアルタイムに改ざんされていたのだ。楓はそんな状況をレヴァンティスに組み込まれている情報収集機器を駆使し中央作戦立案室に精密に報告したが、報告が終わるか否かのときに、楓の乗るレヴァンティスは金縛りになったかの様に動けなくなった。ガルマイン帝国軍に拿捕されてしまったのだ。ガルマイン帝国にとってステルスなどもはや意味は無いのだろう。楓はガルマイン帝国のヴァルグラントにより、近々本格的に就役予定の航空戦艦ヴァルハリア級航空戦艦ラグナ・ヴェルクの中に閉じ込められ、操縦者の出入りする搭乗口以外全く動かなくなったレヴァンティスの外に出されて軍用空港そばの捕虜施設に連行された。捕虜施設は地下にあった。


 楓は調査の為に捕虜施設からガルマイン帝国の基地の中に連れていかれた。脳に直接アクセスされた楓。楓の脳にある楓の知っている限りのセラフィア国の重要な最新の機密情報が知られることとなる。

 そして脳に直接アクセスして機密情報を得るためのMRIの様な装置がある部屋から、元居た捕虜収容区画へ移動させられた楓は先に捕まっていたセラフィア国の兵士と出会い、久しぶりに自分の年齢に近い人物と言葉を交わした。会話する時は念のためバトルスーツに内蔵された音声通信機の隠し機能である未完成のテレパシーモードを使った。ガルマイン帝国側に知られたくない事もあるかもしれないからだ。テレパシーモードは意外に実用的だった。

『東雲大佐、私はエド・スミス少佐と申します。捕虜は私とあなただけです。早く一緒に逃げましょう』

『ガルマイン帝国の機密情報を盗んでからでも遅くないでしょう?スミス少佐』

『それはそうですね。でもどうやってそれを実行しますか?』

『私ね、写真記憶が出来るの。正確に言うと写真記憶というのは科学的には証明されていないんだけど私には出来る。何でも見ただけで殆ど写真に撮ったように記憶できるの。それを使って機密情報を得てから逃げ出しましょう』

『そうですか。うまくいくかは分からないですけど、そうですね、東雲大佐。レヴァンティスは操縦訓練も出来るように二人乗りですから機密情報を得たらさっさとここから逃げ出しましょう。

『あ、うまくいかないと思っているのね、少佐。どうして?そう思うの?』

『機密情報は電子情報ばかりで・・・そうかモニターに表示させてそれを記憶すればいいんですね。でも長いプログラムのコードとかはいくら大佐でも無理かも知れない。まぁその時がきたらチャレンジしてみる価値はあるかもしれません。ところで我が国が開発した意識転写保存再生装置Qというのをご存じですか?』

『知らないわ。意識転写保存再生装置Qってなに?』

『一言で言えば永遠の命を実現させるための装置です』

『ふーん。それにしてもどうして私の知らない情報があるのかしらね。』

『多分、ゲストルームにあるベッド型特殊スキャン及び睡眠学習機のバグでしょう。でもこの情報は大佐にとって重要だと思うのであえて話します。この装置Qというパズルのピースの一つだからです、大佐は。』

『そんな大事なこと私にまるで自白剤を飲まされたみたいにペラペラ言って構わないの?』

 楓の見た、あの日の夢には登場しなかった情報だがバグで情報に触れられなかったとは楓は少し驚いた。だがこのことは江田大将の夢にはちゃんと登場していたのだろうか。

『もう少し話させてください、大佐。ガルマイン帝国とセラフィア国の科学力は九割程の分野で拮抗していて、なおかつ増えすぎた人口の問題の解決が両国の喫緊の課題でした。その問題を解決するのが意識転写保存再生装置Qであり、その情報がセラフィア国内にいたガルマイン帝国側のスパイによってガルマイン帝国側に漏れたのが今回の戦争のきっかけだったのです。なお意識転写保存再生装置Q・・・略して装置Qの設計図の情報はガルマイン帝国側にまだ漏れてはいません』

『人口問題を解決する装置?ふーん。どうやって?』

『装置Qに意識をアップロードすることで、永遠に生きることが可能になるのです。手順はこうです。まず、装置Qに人間の脳をつなぎます。そして別の容量の大きな、そしてまっさらで容量の大きい脳をつなぎます。誤解があるかも知れないので付け加えますと容量の大きな脳と言うのは人間の脳の大きさの百万分の一の大きさであり、脳をシミュレーションするチップです。容量の大きな方の脳が十分人間の脳をコピーした段階で、人間の脳を装置Qから切り離します。すると、装置Qが繋がったチップに意識を転写することが完了します。装置Qにチップを接続したままにすることで保存、稼働(再生)ができます。ここで注意してほしいのは、もともと一つだった意識が二つに増えてしまうことです。だからもともとの脳を潰してしまう仕様なのです。ここがこの装置の倫理的弱点です。しかしガルマイン帝国はこの技術を欲しがっています。要するに人間一人一人を小さいチップにコピーすることで倫理的には完ぺきではありませんが人口問題を解決したいのでしょう』

『ふーん。ところで私がこのパズルのピースの一つって言ったわよね、それの説明をして頂戴』楓は言った。

『一言で言うとあなたは特殊なんです。あなたは死ぬことができない。これはゲストルームにある特殊スキャン及び睡眠学習機から得られた情報です』スミス少佐は言った。

『え?死ぬことができない?自信もって言えるわ、私だって爆弾に繋がられてから爆破すればバラバラになって一瞬で死ぬわ』

『大佐、それはそうです。しかし大佐の、一般から見て特殊な構造の脳と装置Qが繋がれば本当の意味で大佐は死なないのです。なお装置Qでは大佐以外の一般人は装置Qで処理してもその脳を潰した段階で、意識が時間的に連続しているものとみなせるかどうかは一部の哲学者の中でも論争が絶えませんが、この仕様で製造に、事実上政府化している軍上層部からGOサインを得ています。とにかく結論として言えることは大佐は死にません。大佐の脳を潰すことはしないのです』

『どういうこと?』

『大佐は装置Qを起動するための、物理的な鍵なのです。ちなみにこのことを私が知ったのはごく最近のことです。大佐が脳にアクセスされたMRIみたいな装置から出るノイズをバトルスーツ内臓のツールでハックして気づいたのです』

 楓は捕虜用ベッドに体を預け目を瞑って言った。

『もう、こんな世界にいるより女子高生生活に戻りたいわ。重要な役割はごめんだわ』

 楓は洗脳が少しづつ解け、本来の自分を取り戻しつつあった。


                       つづく

 

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