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二 異世界転生

 気が付くと、楓はピッチリとした迷彩模様のバトルスーツを身にまとって、ベッドの上で横になっていた。そしてベッドの脇には黒くて円盤状の物体に座っている黒猫が一匹いた。その猫は総理大臣の江田だった。江田は楓にこういった。

 「どうやら異世界転生ってやつだなこれは」

 「あら、江田さん。カワイイ黒猫さんになっちゃったのね」

 「どうやらそうらしいな。でも二人ともケガがなくって本当に良かったな」

 「でもこれからどうしたらいいのかしら、私たち」

 「お二人とも適応能力が強いせいかあまり混乱していない様ですが、念の為に今日のところはゆっくりと休んでください。では光を消します。おやすみなさい」突然、江田が座っていた円盤状の物体から、そう声がした。最初はてっきり掃除用ロボかと江田は思っていたが、実はAI搭載の執事ロボらしい。そして部屋が暗くなった。部屋はしっかりと空調されていて、過ごしやすい温度・湿度に保たれていた。

 楓と江田はその晩、妙に精密な夢を見た。この異世界が、二人が転生する前の地球の無数にある未来の一つの姿であること、この異世界は戦争している二つの国・・・楓と江田の居るセラフィア国と、敵国ガルマイン帝国・・・で構成されていること、戦争においてセラフィア国側の主な武器は高さ25メートル程のロボット・・・レヴァンティス・・・であること、そのロボットを操縦する適性があるのは今のところ楓を含め百人位しかいないこと、バトルスーツには全自動トイレ機能や肉体の全自動洗浄機能がついていること、必要な栄養もアタッチメントをバトルスーツにとりつければ全自動で体内に取り入れること、セラフィア国とガルマイン帝国の憲法やそれを反映した法律の全てについてのこと、セルフィア国の学者の知識などについてのこと、とにかく微に入り細にわたり網羅されたことが楓の見た夢の内容だった。


 「東雲楓様、江田敦夫様、朝ですので起きてください」執事ロボが言った。

 「夢を沢山見ちゃって、なんだか寝た気がしないなぁ」楓が言った。 

 「これから必要なことを全て、夢でご教授させて頂きました」そう執事ロボは言った。

 「ガルマイン帝国が、セラフィア国に去年、海を隔てて突然一方的に攻めてきたっていう歴史の話、本当なの?」楓は静かに言った。

 「もちろん本当です、楓さん。ガルマイン帝国は全く持って酷い国なのです。こちらが核兵器や生物兵器などの大量破壊兵器を持たないのをいいことに、力で我々を屈服させようとしています」執事ロボはそう答えた。

 「江田さんはどう思う?」楓は江田に訊いた。

 「どうでもいいよ、そんな事。俺はとにかく今すぐ元の世界に人間に戻ってさっさと帰りたい」

 「江田様は軍事指揮系統のトップとして働いて頂きます。セラフィア国では言葉が話せる黒猫は位が高いのです。階級は大将です」執事ロボは言った。

  この国では江田は自分が高い位の身分に居る、言わば上級国民の様なものだと理解し、こう言った。「そうか。歴史に名を残す仕事なんだな?面白い。それなら受けてやろうじゃないか」江田がそう言うと楓は続けて江田の言葉に水を差すように言った。「よくわかんないんだけど、セラフィア国とガルマイン帝国の戦争を何も知らない、言わば傭兵の私たちが納得も得心もしていないのに戦闘に加わっても倫理的に問題ないのかしら。総理と私は、たまたま何のゆかりもないセラフィア国に来たんだし、そもそもセラフィア国が正しいなんて、今の段階で結論は出せないわ。夢で学習した内容だって、セラフィア国が一方的に正しいっていう立場だったけど、その証拠が無いじゃない?それに私、戦闘で人を殺すなんて出来ないし、逆に殺されるのも納得がいかないわ」

 「まぁ、楓。そんなこと言うなよ。とりあえず今はこいつらのいう事に従って、終わったら元の世界に返してもらおうぜ。こいつらの技術力なら可能だろう」江田は言った。

 「戦争に勝利したら元の世界に帰って頂きたいと思っています。しかしそのような技術はまだ完成されていません。研究中です。しかし目途はたっています。お二人にもうじき良いお知らせが出来ることを願っています」執事ロボは言った。

 「執事ロボ、早く結果を出して私を元の世界に戻してね。殺し合いは嫌なの。私は任務にはつかないわ。人殺し無しで即元の世界に返して欲しいものだわ」楓は言った。

 「仕方ないですね、ちょっといいですか?」執事ロボはそう言うと、楓のバトルスーツに装備されている端子の一つと自分の脇から出てくる端子をコードで繋げた。

 「これでよし」執事ロボはそういうと、一瞬で楓は洗脳されてしまった。

 「次の作戦から私も参加したいわ」さっきまでの楓と今の楓は別人の様だ。江田は楓が一瞬で変わってしまったのを見て、外面上はセラフィア国に忠誠を誓おうと考えた。

 「では楓様、そして江田様、この基地内部を実際に歩いてみましょう」執事ロボはそう言うと、今いるこの部屋・・・ゲストルーム・・・の入口を開けた。すると大きな丸いテーブルとモニター類がある部屋が現れた。そこでは数名の軍人が働いていた。「ここが中央作戦立案室です。国内の基地には全て作戦立案室があるのですが、ここはその中で最も力のある中央作戦立案室です。江田様をここにトップとして配属します。この部屋の周りには陸海空全兵器シミュレータルーム、肉体トレーニングルーム、放送スタジオ、楓様と江田様と私が居たゲストルーム、医療処置室、捕虜の部屋、兵士の休憩・待機部屋、寮、ロボット設計室、ロボット製作工場等の入口があります」執事ロボはそう言った。そしてロボット製作工場へと楓と江田は案内された。ここでは多くの作業員たちが作業をしていた。言うまでもなく彼らは軍人でもある。

 「この迷彩模様のロボット・・・レヴァンティスLF・・・が楓様の操縦するロボットです。素晴らしいデザインでしょう?で、極めて殺傷能力が高いので、今のところこの陸軍用レヴァンティスLFが二十機、海軍用レヴァンテスNも二十機、空軍用レヴァンティスAFも二十機の陸海空計六十機だけで運用しています。ちなみにガルマイン帝国のロボットは、ヴァルグラントと呼ばれています。何体で運用しているのかは不明です。」

 「全部夢で知ったわ」そう言いながら楓が勝手に、たまたま作業員が作業していないレヴァンティスLFの操縦室に乗り込むと、レヴァンティスは各装備を自動で自らの装備や燃料の残量などチェックし始めた。ノープロブレム。そこで楓は実際に動かそうと試みた。しかし楓はレヴァンティスを動かせなかった。

 「忘れてた。ロックがかかってるのよね」楓は独り言をぶつぶつ言った。

 「江田さん、ロックを外して!」楓は今度は大声で言った。

 「おい執事ロボ。ロックを外してやってくれ」

 「栄誉あることに私にも素晴らしい名前があります、江田様。私のことはこれからはセバスチャンと呼んでください」

 「分かった。セバスチャン、ロックを外してやってくれ。これは命令だ」

 「江田様、かしこまりました」

 セバスチャンがそう言うとすぐに、楓の操縦するレヴァンティスLFが一歩、前へ出た。


                    つづく

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