第二章
これは難しい。汀子は直感的にそう思った。
キラちゃんに背中を押され、アプリをインストール。簡単なプロフィールを入力した後、性格診断と心理テストを受けた。これで、より相性の良い男性とマッチングできるらしい。・・・・・・なんだか胡散臭く感じるけれど。
23歳という若さ故、最初は多くの男性から「いいね」が来た。何人かの男性とマッチングを成立することにも成功した。
しかし、メッセージでやりとりしていく中で、汀子が自身の障害を打ち明けると、「え、ごめん。さすがに障害者は無理」とか「なんか、ごめんね。今回はなかったことにしよう」とか、謎に謝られる。謝られるようなことは何も言っていないのに。
「なんで途中まで超良い感じだったのに、足のこと言った途端に終わっちゃうの!?」
思わず心の声がダダ漏れになる。
「汀子―?どうしたー?」ドアのノックとともに、浩一の声がした。
「な、なんでもないから!!」
「そうかー?なら、いいけどー。そろそろ夕飯だからな」
浩一には、マッチングアプリを始めたことは言っていない。
「汀子がついに恋愛に本気になったか!」と知られるのが、なんだか恥ずかしかった。
浩一の足音が完全に消え去るのを待って、汀子は再びアプリの画面を開く。
「いいね」が来ていた。
「〈T〉・・・・・・?」
顔写真は横顔に黒いマスクを着けていて、よく判らない。
「名前がイニシャルだけの人って、信用ならないなー。マッチしても、足のこと言ったら、フェードアウトでしょ」汀子はそういう類いの男性に何度も断られてきた。
そんなことを言いつつも、汀子は何故か〈T〉のことが気になった。
今までの男性とは違うかもしれない。そんな予感がした。
汀子は、淡い期待を込めて、「いいね」を返した。
夕食を食べ終えた後、自室に戻り、汀子はまた、アプリの画面を開く。
もうマッチングアプリに完全に取り憑かれている。
アプリの画面には「マッチングが成立しました!〈Tさん〉からのメッセージが届いています!」と表示されていた。
「あ!Tさんからメッセージ!」
【どうも、Tです。よろしく】〈T〉からのメッセージは意外に淡泊だった。
しかし、ピロン、とメッセージ通知音が鳴る。
【なんて呼んだらいい?ていこちゃん?】汀子は、すぐさま返信する。
【Tさん、マッチングありがとうございます!友達からは「ていちゃん」って呼ばれることが多いですかねー。よろしくお願いします!】
【じゃあ、「ていちゃん」ね。ていちゃんはさ、マチアプ初めて?】
ていちゃん、と呼ばれるのはユニバースで繋がった友達たちしか居なかったから、なんだか新鮮だった。普通に「ていこちゃん」でも良かったのだけれど。
【初めてです(笑)友達に勧められて(笑)絶賛全敗中ですけど(笑)】
Tはアプリ自体に慣れていそうな感じがした。だから、「絶賛全敗中ですけど(笑)」と送信するのには少し勇気が必要だった。なんだか惨めだった。もういい。勝手に笑ってくれ。汀子にとっては、笑いごとではないけれど。
【えー、なんでー?ていちゃんって写真見た感じ、かわいい感じするのに】
「かわいい」その言葉を見て、汀子の心はぐっと掴まれた。かわいい?私が?
【私、男性から「かわいい」って言われたの、初めてです!嬉しい!】
汀子は、素直な気持ちをメッセージにした。
【え、そうなの(笑)俺はかわいいと思うけどなー】
「かわいい」2連発。嬉しかった。と、同時にTさん、アプリ、慣れている?他の子にもそう言っているのかもしれない、という一種の警戒心も生じた。
汀子は、嬉しさと警戒心でまぜこぜになった感情で返信する。「
【ありがとうございます(笑)なんか照れますね(汗)】
Tに「かわいい」と言われた嬉しさを【(笑)】に警戒心を【汗】に閉じ込める。
【話変わるけど、ていちゃんって、仕事何しているの?】
【自動車メーカーの総務です!3カ月間の休職中ですけど(汗)】
【休職中かー。色々大変だね】
Tは「休職中」だと明かしても深く詮索してこなかった。これは、自分の障害を打ち明けてもいい相手かもしれない、とふと汀子は思った。他の男性らは、色々と根掘り葉掘り詮索してきた。
【Tさんは、どんなお仕事していますか?】
【説明するのが難しいけど、まぁ、音楽関係?】
【えー!音楽!すごいですね!裏方さんとかですか?】
【まぁ、そんな感じ(笑)裏方だけど、一応、楽器出来るよ。音楽の専門卒だから。ピアノとかギターとかドラムとか】
【え!すごいですね!】バンドマンじゃなくて、良かった。
そういえば、タイジさんもドラム以外にもピアノやギターが演奏できるなぁ、と考えながら返信を打ち込む。
【ていちゃんって、普段どんな音楽聴くの?】
【中学生の頃は、椎名林檎さんとか宇多田ヒカルさんとか聴いていました!今でも大好きです!今は、「ユニバース」ってロックバンドにハマっていますが・・・・・・(笑)】
【へぇ!椎名林檎好きとは渋いね(笑)『丸の内サディスティック』とか超良いよね。俺も好き。ていちゃんって、ほんとに23歳?(笑)】
【23歳ですよ(汗)音楽の趣味合う友達はなかなか居ませんでしたけど(笑)】
【そうだよね(笑)俺は33だから、なんとなくわかるけど。】
Tさんって、33歳か。ちょうど10歳差だった。タイジとの共通点が多くて、汀子はなんだかワクワクしていて、「まるで、タイジさんとやりとりしているみたい。いや、本人ではないけど」とセルフツッコミした。
それから、Tとのやりとりは驚くほどスムーズに進んだ。好きな本、音楽、食べ物・・・・・・。二人が好きなものの共通点が多かった。
楽しい。マッチングアプリって意外と楽しいものなのだな、汀子はそう思った。
気づけば、時刻は午前0時を廻っていた。
【そろそろ寝る?明日、機材の搬入とかで忙しいからさ】
え、もう?と汀子は思ったが、時計を見て、ギョッとした。もうこんなに時間が経っていたのか。
【私ももう寝ます!Tさんとお話するの、ほんとに楽しいです!】
汀子は「あなたに好意を持っていますよ」という強度が弱いアピールをしてみた。返信はすぐには来なかった。
汀子は深呼吸した。ここで微妙な反応だと、メッセージは長くは続かない。
ピロンと通知音が鳴る。汀子はTからのメッセージに目を凝らした。
【そう思ってくれて、嬉しい。また明日メッセージするわ】
汀子はまたTとのメッセージでやりとり出来ることが嬉しかった。
Tさん、優しい。良かった。それに「また明日」ってことは、私とメッセージ続ける気あるってこと!?
汀子の心は舞い上がった。それと同時にうっすらと疑念も生まれる。「こんなに優しい人、ほんとにこの世に居るの?足のこと言ったら、どんな反応するのかな・・・・・・。」
怖い。障害を打ち明けたら、Tもまた、他の男性らのように、断ったりするのだろうか。
汀子は、嬉しさと不安を抱えながら、眠りについた。
午前9時。いつもの時間に起床した。スマホのロック画面を見ると、アプリの通知が届いていた。Tからのメッセージだった。
【ていちゃん、おはよー。俺はこれから仕事~。マジでしんどいけど、頑張ってくるわ。ていちゃんから、頑張れって言われたら、マジで頑張れるんだけどなー。】
Tさん、意外と朝早いな。というか、待って。Tさんが私からの「頑張れ」をご所望している。まるでもう付き合っているみたい。汀子の心は浮ついた。
そういえば、Tさん、「機材の搬入で忙しい」って言っていたな。汀子はニヤニヤしながら返信を打ち込む。
【Tさん、おはようございます!お仕事、大変かと思いますが、頑張ってくださいね!】
すぐさま、返信が来た。
【ありがと。めちゃくちゃ嬉しい。頑張れるわ】
【ていちゃんも、頑張ろうね。仕事終わったら連絡する。じゃあね】
汀子はこれで小説の続きが書けるかもしれない、と心が躍った。
「Tさんと付き合えたらな・・・・・・。いやいや、さすがに調子乗りすぎ。障害者だって知ったら、ドン引きされる可能性だってあるし・・・・・・。」汀子お得意のセルフツッコミ。
汀子は、Tに自身の障害を打ち明けていなかった。Tとのメッセージでやりとりして、約一ヶ月。打ち明けるタイミングを完全に見失っていた。
ここまでやりとりが長く続いたのは、Tだけだった。
怖い。
もし、障害を打ち明けたら?私の歩き方を見たら?
きっと、受け入れてもらえないだろう。
でも、Tさんなら・・・・・・。
汀子の心は揺れていた。
強烈な不安と、「もしかしたら・・・・・・」という期待。
顔も本当の名前も知らないけれど、汀子はTが気になる存在になっていた。
スマホを持つ手が震える。じわりと、涙が滲んだ。
それでも、揺れ動く心のまま、メッセージを送信していた。
【実は、Tさんに言わなきゃいけないことがあって・・・・・・。私、身体障害があるんです。足が不自由で。装具と杖がないと歩きにくいし、歩き方も変だし、もし、Tさんと実際に会ったときに、多分、びっくりされるんじゃないかと・・・・・・。もっと早く言わなきゃとは思っていたのですが、Tさんが嫌なら、マッチング外してもらって大丈夫です。】
すぐに返事は来なかった。既読もつかなかった。
もどかしい時間が続いた。時間がやけに長く感じた。
部屋にはカチコチと時計の針が動く音だけが響いている。
やっぱり、受け入れてもらえなかった。Tさんともこれで終わりかもしれない。
滲んだ涙が汀子の頬を伝った瞬間、ピロン、とアプリの通知音が鳴った。何も無かったメッセージ横に〈既読〉が表示された。
観た。Tさんが、私のメッセージ。怖い。でも・・・・・・。汀子は、すぐにはスマホの画面を観ることができずに、思わずスマホの画面を伏せた。
震える右手で、かろうじてスマホが持てた。伏せていた画面を、真正面から受け止めて、送られてきたメッセージを観る。
【ごめん、今仕事終わった。別に気にしないよ】
汀子は拍子抜けした。自分の障害を打ち明けても、否定されなかった。「気にしないよ」と言ってくれた。嬉しかった。でも、怖いし、不安。汀子はこの気持ちを整理できずにいた。
【ほんとですか・・・・・・?私、てっきりこのままTさんとやりとり出来ないんじゃないかと・・・・・・。】
【そんなことないよ。俺はそういうのホントに気にしないし。】
【ありがとうございます。他の男性からずっと断られてきて・・・・・・。謎に謝られるし(笑)】
【そうなんだ。心ない人も居るもんだねぇ】
ピロン、と通知音が鳴る。
【とにかく、俺はそういうの、全然気にしないから、安心して】
【ありがとうございます!ほんとに言うかどうか迷っていたんですけど・・・・・・。】
【大丈夫、大丈夫。これからもていちゃんとやりとりできたら、俺も嬉しいし】
Tさんは私とのやりとりを嫌がっていない。嬉しい。でも・・・・・・。
「ここまでスムーズだと逆に怪しい・・・・・・?」
いかん、Tさんの優しさを無下にするようなことを考えてしまった。
【私も嬉しいです!】と返信すると、赤いハートのリアクションが返ってきた。
汀子は、小説のネタ帳を広げ、『初恋と杖』(仮)と書き込んだ。まずは、タイトルだけ。
「今日は図書館に行けそう!」と晴れ晴れした気持ちがあった。
「浩一兄ちゃん、図書館行った後、友達とご飯行く!」仕事に出かけようと、玄関の全身鏡でネクタイを直している浩一に声をかける。
汀子の声に気づいた浩一は、振り返って言う。
「おう、気をつけろよ。送っていこうか?」
「大丈夫!ひとりで行けるってば。浩一兄ちゃん、心配症なんだから・・・・・・。」
「そりゃ心配だよ。まぁ、良い運動になるか」
「最近太ったし、ダイエットするー」
Tに会うときに、一番きれいな姿を見せたいから、とは言えなかった。
「わかった、気をつけてな。俺はこれから仕事だよ・・・・・・。」
「お仕事頑張ってね!行ってきます!」
異様にテンションが汀子を、浩一は怪しんでいた。
「なんかあったのか・・・・・・?」
まぁ、元気があるのは、良いことだ、浩一は玄関を開け、仕事に向かった。
*
高円寺light楽屋。今日のライブは2部制だ。
スマホを操作しているタイジに、トモヒサが声をかける。
「タイジさん、そろそろ出番っすよ。いやぁ、2部制のライブ、久しぶりですね」
「わりぃ、今取り込み中~、出番までには間に合わせるから」
「また、マチアプですか!?ほんと、懲りないなこの人・・・・・・。ユーキさんも言ってましたよ、女漁り?辞めてほしいって」
「大丈夫、大丈夫。俺、マチアプのプロだから。これまで1回もバレたことないし」
「ほんと、勘弁してくださいよ」
「今、マッチしてる子、なんか、障害?あるらしくてさ。恋愛経験ゼロって言っててさぁ」
はぁ、とトモヒサは小さくため息を吐く。
「ドラムの腕はすごいのに、こういうところがなぁ・・・・・・。」
「恋愛経験ゼロならちょっと強引でも大丈夫でしょ。お互いWin-Winじゃね?需要と供給ってやつよ。・・・・・・・・・・・ってウソウソ。そこまで悪者じゃないから。俺って」
」
タイジは戯けて言う。
「・・・・・・タイジさんっていつも冗談キツいっすよね。ほら、行きますよ」と、タイジのシャツの袖をぐいっと引っ張って、ライブハウスの袖口に向かった。
汀子は『初恋と杖』(仮)の執筆をあらかた済ませて、キラちゃんといつものカフェで待ち合わせをして、駄弁っていた。
「キラちゃん、聞いて!マッチングアプリやってみたら、〈T〉さんって人とマッチしたんだけどね、メッセージでやりとりするのが、1ヶ月続いてるの!」
「え、そうなの!?前は障害のこと話したら、全員に断られたって言ってたじゃん」
キラちゃんは、注文していたホットケーキを一口大に切って、口に入れる。
「それはそうなんだけど、メッセージのやりとりがすごく楽しくて。障害のこと、話したんだ。そしたらね、大丈夫、気にしないよ、って言ってくれたの!」
「へぇ、めっちゃいい人じゃん。顔見せてよ」
汀子は、ちょっと待ってね、と言いながら、Tの顔写真とメッセージ画面を、キラちゃんに見せる。
「えーと、どれどれ・・・・・・。え、この人顔出ししてないじゃん。なんか怪しくない?」
「えー、そうなの?」
「普通はみんな顔出ししてるよ。ていちゃん、初心者だから、わかんないか。」
「仕事は?何してる人なの?まさかヒモ男じゃないよね」
「違う違う!音楽関係?で、裏方の仕事してるって言ってたよ」
「ふーん」と言いつつ、キラちゃんはホットケーキを口に入れるのに忙しい。
「まさか、騙されたりしないよね?最近は、ヤリモクの人多いって聞くし、そいつ、顔出ししてないから、なんか怪しい」
「それは、キラちゃんの勘?」
「うん。完全にあたしの勘」
「えー、でも、すっごく優しいし・・・・・・。」
キラちゃんは、ふぅと息を吐いて、諭すように汀子に言う。
「ていちゃん、障害のこと打ち明けて、大丈夫って言ってくれて、そのー、Tってやつ?それだけで、やさしい判定してると、結構、ていちゃんが先走ってるような気がするんだけど・・・・・・。マッチング成立して、1ヶ月やりとり続いてるっていうのは、良いことなんだけどさ。その人と会う予定あるの?」
「ううん、まだ・・・・・・。私から誘った方が良いかな!?」
「おうおう、待て待て。ぐいぐい行くと逆に引かれちゃうかもよ。もうちょっと、やりとり続けてみて、様子見のほうが良くない?」
「そうかなぁ。まぁ、Tさんも仕事で忙しいらしいし、会うのはまだ先になりそうなんだけど、いつか会ってみたい!」
「・・・・・・。ていちゃんがいいなら、それでもいいと思うけど、なんかあったら絶対あたしに相談すること!OK!?」
「わかったよ。キラちゃん、いつもありがとね」
帰宅後、17時。〈T〉からメッセージが届いていた。
【ていちゃん、元気~?俺はこれから仕事。ライブ2本あるから、搬入で忙しくて】
【お仕事、お疲れ様です。大変でしょうけど、無事にお仕事終わりますように!】
【ありがと。頑張ってくるわ。】
これで、やりとり終了のパターンが多いのだが、すぐに、ピロン、とアプリの通知音が鳴る。
【ていちゃんさー、俺らそろそろ会ってみない?】
「ええ!?」と大声が出た。家族に聞こえてないよね?
Tさんの方から、会いたいってお誘いが来た!
今日、キラちゃんとTさんの話してたからかな!?
「・・・・・・。なんてただの偶然だけど」
Tと、ついに会える。メッセージでやりとりだけじゃなく、実際に会って。
汀子は興奮を抑えながら、返信を打ち込む。
【え!いいんですか?是非お会いしたいです!私、ずっとTさんに会いたいってずっと思ってました!】
【俺もていちゃんに会いたいってずっと思ってた。おんなじこと考えてるね。テレパシー?】
【(笑)テレパシーかもしれないですね(笑)】
【ていちゃんって都内住み?俺は、東京に住んでるからさ。都内で会えた方が都合良いんだけど】
【都内住みです!】
【じゃあ、都内で会おっか。】
【Tさんは、どこか行きたい場所とかありますか?Tさんに合わせますよ!】
【最近出来たパンケーキが美味しいカフェがあるんだけど、そこでどう?最初は、カフェとかの方が良いよね】
【いいですね!行ってみたいです!】
【じゃあ、カフェの住所、一応送っとくわ。渋谷にあるんだけど、ハチ公前集合でも大丈夫?足、つらくない?】
【大丈夫です!渋谷は行き慣れてますから!(ユニバースのライブで・・・・・・(笑))
【OK~、じゃあそうしよっか】
【ありがとうございます!当日楽しみにしてます!】
【俺も楽しみにしとく】
【当日はよろしくお願いします!】
キラちゃんに報告だ。
【キラちゃん!聞いて!Tさんと会うことになったの!渋谷のカフェでお茶するんだ~!パンケーキが美味しいんだって!】
すぐに〈既読〉がついた。
【ついに来たか・・・・・・。あたしは、ていちゃんがちょっと?いや、かなり?先走ってるような気がするんだけど・・・・・・。】
【えー、そうかなぁ。でも、向こうから誘ってくれたんだ!私、もうめっちゃ嬉しくて】
【あー、あかんやつや。ていちゃんがそれでもいいならいいけど。なんか怪しい感じするんだよね。その〈T〉ってやつ】
【えー、どこがダメなの?】
【いや、ダメって訳じゃないけど・・・・・・。】
【うーん、なんか言い表せられない!】
【じゃあ、実際に会ってみて、危なそうだったら会うのはやめる。DMにレポ送るね♡】
【危なそうだったら、すぐ逃げるんだよ!】
【わかったよ。多分大丈夫!】
汀子の心は完全に舞い上がっていて、キラちゃんの直感による忠告も届いていない。
汀子は、浮ついた心のまま、Tとのやりとりを続けていた。
*
高円寺light楽屋。今日のライブは2部制だった。
スマホを操作しているタイジに、トモヒサが声をかける。
「タイジさん、そろそろ帰りましょうよ。いやぁ、2部制のライブ、久しぶりで正直、疲れました」
「わりぃ、今取り込み中~」
「また、マチアプですか!?」
「ユーキにも言ったけど、俺は女の子だったら、誰でもウェルカムだって言ってるじゃん」
「いい加減にしないと、マジで怒られますよ」
「大丈夫、大丈夫。なんかやらかしたりとか、しないから」
「ほんと、勘弁してくださいよ」
「もうここまで来ると、慈善事業?ボランティアだよね。俺の言うこと何でも訊いてくれそうだし、俺が相手した方がその子のためになると思わない?相手は障害者だし。相手してくれるやつなんて俺くらいでしょ?初めてだったらわかんないでしょ。俺は、主導権握りたい派だからさ。・・・・・・嫌なら嫌って言うでしょ」
タイジはニヤニヤしながら、あっけらんかんとして、言う。
「毎回キツすぎる冗談はそのくらいにして、帰りましょう」と、タイジのシャツの袖を無理矢理ぐいっと引っ張って、ライブハウスを後にした。




