貧者と選択
最適な空腹期間とはどのくらいなのか?
「殺せッてそんな冗談やめろよな」シュリンプは興奮していた。
「わたしも殺したいわけではないのですが、六幻亡きあとの可値を分散するには必要な作業です」
「それはおれが持っているんじゃないのか?」天成は問う。
「ええ、たしかに所有していますが、半分程度となります。転生の残滓は可値として漂い、可能性、とくに生命が生まれるまで流れています。新しい生命は可値と親和性が高く、管理された生殖をシュリンプ氏が破ったことで、把握漏れの受精が起きて、堆積した可値が流れ込んだのでしょう」
「可値が多いことが問題なら減らせばいい」ギンセカイは言った。
「可値は一定数以上増減するとその生命が発狂します。奢るなどという俗説は善行を積ませる外付けのプログラムでしかありませんし、その量は微々たるものです」
「なによりも善悪のつかない子供が行使する力は予想が難しいのです。以前の大きな異常気象もある第一期転生者による生殖が根本の原因です。事前に防ぐには可値を散らして少しずつ減らすしかありません」
「それでも、ふざけた話だ」シュリンプは反論した。
「それが最善だと判断しました。同意を得られた方が穏便にすむのですが」
「最善かよ?ガキひとりを育てられない国が支配者気取りするんじゃねぇ」穏便にはいかないようだ。
「無力なものに選択肢はありません。所詮転生者など使われる立場ですよ」y9は顔を顰めた
「はっ!本性を出したな。そもそも提案はおまえに有利になるだけの話じゃないか。王の器じゃないぜ」シュリンプは煽る。
「至らずとも、わたしはこの星の長い繁栄を願い、行動する。それは支配するしないを問わない。いまは良くても可値に目を付けた外の星が現れることはありえる。可値を減らすことが種の生存の道であり、個体風情が口を出すものではない」
「あんたは個体風情じゃないのかよ!」シュリンプは後に引かない。
「y9」天成が声をかける。
「殺す方法以外に無力化はできないのか。おれが吸収すればいいだろ」
「あなたの肉体は可値によって異常な状態にあります。可値を吸収すれば、精神性を捨てることになります。それはできません」
別にいいんじゃないかと天成は思った。思えば、あの時のZ案件がシュリンプ2世だったのかもしれない。それを思うと少し悪い気がした。もっとも、y9は遅かれ早かれ芽を摘んでいただろうが。
「新しい秩序として法律を制定することは決まっています。その法に則りわたしも責任を取りますから、殺させてください」
シュリンプは頭を抱えて屈みこんだ。
「転生ってなんなんだよ。ふざけやがって。使うために引き寄せておいて、都合が悪いと子供を殺されるのかよ?」
「転生業は廃止します。もとより、不確定要素も多く、導入すべきではありませんでした。あなたたちには申し訳なく思っている」
y9は姿を消した。すぐにシュリンプが出ていく。天成は手つかずのお茶を飲んだ。何も入っていないようだった。
「とりあえず、帰れ…………疲れた」ギンセカイたちにも悪いことをした。
「財団の管理不足だからな、責任取らせるのはガキじゃなくてあいつらだろう」
y9の気配を探る。遠い位置にいる。
天成は力を使い切るつもりでいた。可値などなくていいのは違いない。
トートイレに連絡し、パスを複製し、財団用の公共交通機関を使う。
「いたな」
y9は育成区にいた。大人が希少なので、はた目からでも分かった。
「天成氏。邪魔をするのなら、眠っていただきます」
シュリンプ2世を先に見つける必要がある。しかし、この建物の構造がわからない。どこにいる?
フロントの案内にあった特別保護室へあたりを付ける。しかし、たどり着いたときにはy9が殺そうとしている最中であった。シュリンプの面影をもつ乳幼児は本能で察してか、抵抗していた。
タックルを仕掛けるもy9が躱す。そのまま、y9はスライムで足を滑らせて転んだ。その隙にシュリンプ2世を奪う。まるでアメリカンフットボールだ。
「よおし。パパの元へ連れてってやるからな!」
心肺機能を活性化させながら走る。息が切れても走る。酸素を取り込むのが弱くなっても走る。
「おおい、伊勢階や……って上司がなぜ??」
あらかじめ呼んでおいたトートイレにガキを渡す。このままシュリンプがいる場所まで行ってもらう。あとはy9の足止めもとい説得をしてお終いだ。
「どうするつもりですか?」
「あいつ、そのうち死ぬよ。だから殺さなくていい」
「なに」
「同じ大量の可値をもつからわかるんだけど、偏った状態というのは維持するだけで辛いんだ。彼は生まれ持った資質に食われようとしている。救うには家族と一緒にいるのが一番いい」
「家族は可値をもつ子供を保護し、導く。おれにとってのあなただろう。おれの前世を遡り続けて、みつけたことがある。かつて家族は一緒に暮らしていたということだ。いつからか別れて暮らすようになった。それは子供を自由に伸ばすことを可能とするかもしれないが、同時に孤立を生んだ。孤立すると自分と他人の境界がぼやけてくるんだ。力の使いどころもわからない。そして、愛を受けていないから、方向を誤るんだ。生命がどうあるかを学ぶ環境は家庭が原初なのだろうと思う。ヒト以外は知らんがね」
「可値を使うか。親といることで力の使い方を理解できると?」
「必ずしもそうとは言えないが、育成区のガキたちはおおよそ淋し気にも見えた。最適な管理をし、教育環境を与えているつもりなのかもしれないが、親をろくに知らないのは文明として強度が低いのではないかと思う」
「おれもいつか子ができれば、一緒に暮らしたいと思う。それが当たり前であればいい」
「可値を報酬と支配のためのツールとするのではなく、家族とともに生きる方針を考えて、決めるものへ……ということか。しかし、わからない。この世界は決して、あなたたちにとって不都合ではなかっただろう。衣食住は保証されるのは生命の数と寿命を可値で支配してこそだ」
「可値でなければ、乗り越えられないと決まっているのか?たしかに多くの種は滅ぶ運命を辿ってきたが、それも永遠に生まれる輪廻という事象のひとつだろう。ヒトという種が滅びても、つぎの覇者が文明を創るかもしれない。特定のものだけを維持できると考えることは夢幻に生きるようなものだと思わないか?」
「自己否定をするなど、生命としていかがかと思いますが」
「自己否定ではないさ。有限の世界でいい感じにその瞬間を紡いで良ければいい。永遠は夢幻のなかに消えた。それを拾おうとするなど烏滸がましい。それに異常気象が起きて滅亡すると仮定して、今までの人生を泥で塗ることにはならない」
「高邁なことをいいますね。もし、子供の命が残り少なくない状態でなかったのなら、どうしていたのでしょう」
「もし彼がわずかな命でなかったのなら、おれが吸い取っていたかな。おれは溢れたエネルギーで花火でも咲かせるさ」
ガハハと笑う天成を見て、y9も笑った。
いつやるか?常にでしょ!




