降り積もる因縁
雪化粧
窒息を確認した天成は一息つく。力が抜けた。
「イメージと違ったな」
ピカロのような未知の力を持っているのではないかと思ったが、そうではないのかもしれない。まだ油断はできないが。
スライムが収納スペースで感知したのは、麻薬性の植物とお香だ。これを抽出したエキスを焚いて洗礼を行うのだろう。情報を得た天成は、洗礼を受ける前に無力化させることを選んだ。この男は丁寧だが、気が弱い面もあるので、以前は不完全に終わった尋問も上手くいくだろう。仲間情報と目的を確認して、親玉を潰せば安心だ。ピカロは殺した後であったため、生の記憶を探ることができなかった。コピー体から取り出せる記憶は強烈な本能的なものであったり、六幻を殺すという目的だけであった。今回は仮死状態にしたシンジを拘束し、尋問する余裕がある。
天成は応接間に鍵をかけて、シンジを拘束した。そして、目覚めるのを待った。
「んん……おま……!」
スライムで口内を埋める。飲みこもうとしているが、アゴを開かせているため、喉が上下するだけだ。
荒くなった鼻息が落ち着くのを待つ。
「おまえはピカロの仲間だな?」
名前を聞いて、眉が動いた。間違いない。
「死ねば、神に従うこともできなくなる。それは本意ではないだろう。情報を漏らせば危害は加えないと約束しよう」睨まれる。手のひらに針を刺す。神経が集まった痛覚に優れた位置だ。開いた目から涙が出てきた。目を合わせると頷いたので、スライムを飲ませてやる。これで空気がとおるようになった。
「降参する!だから許してくれえ」
スライムが消化されるとBBBを通って、脳へスライム分解物が行きわたる。間水液やCSFで液体スライムが再構築される。
「質問に答えてもらう」
“おまえは特別な力を持つのか?ーーいいえ
シンジケートはどういった組織だ?ーーギンセカイさまを元に作られた創造神の世界を実現するための組織です。
宗教活動は何を目的としている?ーー主へ生贄を捧げ、力を戴くためです。
ピカロのもつ異様な力は何が由来だ?ーー大量の生贄を捧げることで授与された権能です。
その権能はギンセカイが持っているのか?ーーはい。
なぜそのような権能をもっている?ーー不明です。
持っている情報から推測しろーーギンセカイさまは神経財団の元幹部なので、そこから流用している可能性が高いです。
神人の由来はなんだ?ーー我々は人工生命です。失敗作として材料になるところをギンセカイさまに拾われたのです。
ギンセカイはなにを目的とする?ーー自分を失脚させた伊勢という男への復讐です。
ギンセカイはどこにいる?いつ会える?ーー下層へ出ていますが、夜にはこちらへ顔を出しに来ます。”
「そうか。充分だ」
手をかざすとシンジの目がはっきりとした。
「なにが……まさか、あなたが神なのか?」顔を上げるシンジ。
「いいや、神はどこにもいない」頭に手を置いた。
「ギンセカイを待とう」
ヒトがきたようだ。
おまえが開けてこいーーはい
「ちっ、この部屋は狭いな」毛むくじゃらの白髭男が入ってくる。
「やあ。ギンセカイ」手のひらを向けると白髭男が目を開いた。
「誰だ」
「この世界の逸品の生命体でございますよ」天成の大袈裟な手振りは鷹揚な紳士のようだ。
「おい、シンジ。来客か?変質者か?この寒い中にシャツ一枚で狂ってら」
赤い顔が歪む。シンジはただ立っている。
「神経財団時代のことを教えてほしい」天成は座るように促す。
「なんなんだこいつは?我が家のように振舞う無礼な………」赤い鼻が膨らむ。
「ははは、とにかく話しましょうよ。六幻に敗北したお・じ・さん」
胸ぐらを掴まれる天成。
「てめえ、玉取っちまうぞ?舐めるんじゃねえ」首が絞められる。奴の手は尋常じゃないくらい冷たい。冷凍庫で暮らしているのか?白髭男と接吻しかねないほどの距離になる。天成は脱力して屈むと、右腕を巻き込んで関節を締め付けた。折るくらいに締め付けると白髭男は後ろに倒れこんだ。そのまま壁にぶつかって唾がかかる。
「きたねえ」
つい手を放してしまう。ギンセカイが蹴り飛ばそうとしたので交差するように金的を踏み潰す。
「アオオオ」
原始的な咆哮をあげるギンセカイ。
ガタンと机ごと倒れこみ、悶え続ける老年期男性。どうせ使わんだろう。
「うおおお、おおお」
見物するうちに、振る舞いをメタ認知した天成は白髭男に手を伸ばす。
「大丈夫か?痛かったよな」
「ふざけるな!!このくそガキが」再び立ち上がり、飛び掛かるところをシンジに制止された。
「神、あれはないでしょう」シンジは意見をしながら顔色を窺った。
「そうだね。らしくないことをした。こういうのは良くない」天成は荒れた部屋を整えていた。
「…………」ギンセカイは体をさすりながら奥の椅子に座っていた。睨みが強い。
「おい、シンジ。説明しろ」
「入信者を洗脳するところで悟られ、逆にやられました……まさに神業!」
「それで、わしの情報まで与えたというのか」
「それなりに」
ギンセカイは殴ろうとしたが、右腕の痛みによって軽く振り上げただけで終わった。冬の屋外なら壊死覚悟で殺せたというのに。あるいはピカロの馬鹿に力を割り振らなければ。
「やれやれだ!小僧。目的をいえい」
「ye」ポーズをとる。
「…………」凍てる。
「目的はおれの前世情報を正確か試してほしい」ギンセカイへ情報を渡す。
「まて、まずは謝罪とお願いだ。小僧にわかるか?」
「申し訳ございません。お願いします」89度のお辞儀をする。
「……定型の謝罪では誠意が感じられないぞお」
「早く動いてください。残り少ない生命をおれに活かそうと思わないのですか?」
「つくづく生意気なやつだ。面白そうだから見てやるが」ギンセカイは部屋奥に引っ込んだ。
「なぜあのような言動を取ったのですか?」シンジは尋ねた。
「愚かにも大木のような氷をみると割りたくなる」
パウダースノーを散らす。そうしたい。




