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生命の航路

蘭交:蘭の香のように美しい交際。

 

 アファトは職場恋愛でパートナーを見つけたらしい。斜陽でも支える良いヒトなのだろう。蘭交に恵まれたな、とシュリンプは涙した。


 天成はウイスキーを試飲しながら、乾酪とハムを摘まんだ。

【だれでも秒速で朝食の栄養価が摂れる!アファト監修、魔法の粉バナナ!】

 あれから、アファトは新規事業を立ち上げた。相変わらずバナナである。


 シュリンプも子供を可愛がっている。無職は珍しくない世界なので、有難いと彼は感涙していた。前世によって、働くのが厭になったのだろう。


 一方で、おれは相変わらずの生活をしていた。身を固めるにも自分が固まらない。おれは何のために生きている?y9に相談したところ、転生前の情報を覗けば思い出せるのではないかと意見された。そこで、中央保護区、神経財団へ舞い戻った。ピカロの命日らしく、管理課で瞑想をするものがいた。ここでは弔いに瞑想をしている。

「すみません。第三期公認転生者の伊勢階天成です。前世情報をみたいのですが、はい。少し懐かしさがあって……ありがとうございます」

 情報管理の担当者が戻ってくると、文書が共有された。この中身が前世情報らしい。ファイルを開く。


「??」そこには一人の女性の情報があった。惑星は同じくエーカンジ。時代は近いが、三世代分は昔。まったくの他人感覚がする。なぜか自己否定された気分になり、感情が単調に近づく。どこか自分に似た面影のある綺麗な顔に反して、底知れない表情。今晩は悪夢をみる予感がした。


【ーーー※%」ーー#ー】


 脳内でノイズが響く。幻聴?睡眠を増やさねばならない。


 帰って休むことを決意し、施設内を歩く。窓から木々を眺めようと目を向けると、警備員がいたので目を留める。それはただの支柱の鏡像でヒトの影もなかった。風鳴りが五月蠅い。


「おや、伊勢階さん」顔見知りが声をかけてくる。たしか、神経管理の。

「久しぶりですね。最近どうですか?」

「最近、また新入りがきて……ほら、あの件で頭数減ったでしょ?それで、新人の教育係任されちゃって。忙しいです」シンジンと聞いてピカロの顔が浮かぶ。シンジケートは雲のように掴むことができない。

「そういえば、シンジケートって知っています?」

「??大昔のマフィアを原作にした映画ですか?」

 おそらく関係ない。

「いえ、噂でそんな組織があると聞いたので、管理課の方ならご存じかなと」

 それから、微妙な空気で会釈して別れた。無力なら放っておけばいいが、あんな未知数な鉄砲玉を持っていた時点で気がかりになるものだ。


「さよなら」天成は施設を後にした。

「はい、また」

 

 背後から天成を覗くものがいた。

「…………」


「先輩、彼は?」

「ああ、ここのOBだよ。新人にして野良転生者を特定しまくった凄腕の活躍をしたんだ」

「それはすごい。そういえば、彼も転生者ですか?」

「たしかそうだね」

「へえ、エリート出身なのかなあ」

 気が付けば、天成の姿はどこにも見当たらなかった。


 部屋に戻った天成は片っ端から、奥へ物を押し入こんで、やみの中で身を丸めた。情報を閉ざし、幻想の蝋燭が現れる。揺らめく炎。収束するこころの目線。原薬を一飲み、NSAIDsが痛みを和らげた。

 星の鼓動が聞こえる。大気が奏でる周波数は幻聴を引き裂く。頭を掻く両手は疲れて止まる。上下する胸から律動する力が逃げていく。そのまま倒れこみ、地の冷たさを知った。


 頬に張り付く筋肉の痺れ。窓を開けると変わらぬ世界があった。肉体の端々から水が失われたため、筋肉が堅く感じる。少しずつ関節を動かして血を巡らせる。万能スライムを召喚した。

 ネズミの赤ちゃんのような片が足元に産まれる。栄養を圧縮させて、胃の中へ放り込む。しばらくすると、意識が活性化してくるのを感じた。頭痛も収まったことだ。目的、主敵をハッキリさせよう。


 立ち上がった天成は在庫保管用に借りた下の階の部屋へ行った。煙たいような埃を身に包みながら、金庫を開ける。マスクをもってこればよかった。そう思いながらもホルマリン漬けにした縦割れの神経を取り出した。もう片方は冷凍保存してある。試験片としてスライスしてある神経に指先を近づける。


 ひとさし指の先の神経に感覚が集中する。指の腹を軽く切り込み、万能スライムに血を与える。そして、試験片を取り込ませる。爪の先くらいの大きさであった万能スライムが膨張を始める。グロテスクで神秘的な細胞分裂を始めた。造血により透明だった体が赤くなる。魚というか虫のようであり、中型犬ほどの大きさの原始的なげっ歯類のようになったと思えば、大きな哺乳類となり、やがて小さな霊長類となり、そして、ヒトと成った。ミイラのような見た目をしていたので、養分として万能スライムを与えると美しい髪が伸びて、ピカロに限りなく似た人形が形成された。とある伝手で入手した命令コードを右手に張り付けると内臓が動き出した。人形の耳に触れると反応がみられた。


「おれが雇用主の伊勢階だ。いまから、シンジケートへいってこの印を埋め込んで来い。その後は目立たない海や廃棄物処理場、下水道で一番隠蔽に適した場所でこれを飲め。途中でバレた時も飲めばいい」天成は人形にカプセルを渡した。そして、紛れやすい地味な衣服を着せた。

「いけ」人形は頷いて行動を始めた。


 自室に戻り、カレーを煮込んで待っていると信号が検知された。

【目的を遂行。最終行動を実行。終了します】

 人形の反応がなくなった。成功だ。天成は鳥を放ち、印の地点を撮影した。しまった。鳥ガラも入れた方がよかったかもしれない。啜りながら考える。


「案外近いな。森の奥にでもあるかと思えば、ビルの森に隠していたか。宗教施設の社団法人として、一丁前にビルの最上階を借りているのか」

 口の中で柔らかくなった肉と野菜を流し込む。香味野菜とスパイスの豊かな香りを感じると顔まで熱くなりそうだ。水で流し込んで、出かけることにした。


 ちょうど、部屋を出るとシュリンプと会った。同居に向けて、廊下に荷物をまとめている。ここは狭いもんな。アファトもオフィスに住んでいるため、知り合いが遠ざかる形となる。

「ちょ、いってくる」声をかけた。

「買い物?」顔をこちらにむけて話す。

「社会見学ってところだな」颯爽とフロントに向かう。

「はあ、いってらっしゃい」怪訝な顔をしていた。


「帰りでガラ用に地鶏を買っていこう」

 こうして料理にハマると独身のままなのだろうなと考える。しかし、カップルの同居はできても、子供と住めないというのは奇妙ではなかろうか。社会見学とはいったが、本当にその体で育成区にも行ってみたいものだ。良い刺激になるだろう。


「ここねえ」

 古いビルのエレベーターを呼ぶ。六人しか入れなさそうな狭いやつがきた。エントランスも狭いうえに寒い。上着を着なかったことを後悔する。最上階に着くと、目の前に仕切り壁があり、右奥に案内する文面が張ってあった。突き当りの二部屋があり、どちらが事務所なのかわからない。

 ふと、右側の扉からサングラスをかけた堅そうな男が出てきた。

「……なにかご入用でしょうか?」

「はい。生きるのが厭になってしまって、死のうと考えていたのですが……おたくの看板みまして。あの、わたしは救われますか?」天成はしおらしく演じた。

「……」男は困惑した表情を漏らしつつ、笑顔を取り繕った。

 天成は開けられた室内をさりげなく盗み見た。ただの事務室にみえた。

「立ち話もアレですし、こちらへどうぞ」男は丁寧な所作で左側の扉を開けた。

 天成は衣服を整えるふりをして、ズボンの裾についた植物の種を落とした。そして、部屋へ入った。


「改めまして、わたくしシンジと申します。こちらお茶です」音を立てずにカップが置かれる。髪を短く切りそろえた男は沈着にこちらを伺っていた。あまりこういったことはないのだろうか。

「実は、わたし転生者なのですが、周囲から孤立していまして。辛いんですよ。だから宗教に入れば、仲間ができるんじゃないかって」両手を膝の上において、目を伏せる。


「転生者の方だったのですね!」急に男が快活になったようだ。

「わたくしどもは孤独な方を救う活動をしております。あなたのような方もコミュニティできっと良い関係を結ぶことができます」饒舌に語りつつ、名簿を渡された。

「こちらに個人情報をご記入ください!また、注意事項をみてチェックもお願いします」指をさす。

 失踪者の廃棄データから得た偽情報を記載する。

「確認しました。それでは入力保存いたしますので、少々お待ちください」

 応接室に残される。天成は種子に付着させた万能スライムを起動する。種は風に吹かれたように動き、右の部屋を進む。書類保管や備品が置かれている。スライムは部屋奥の収納スペースへ潜り込む。


「お待たせいたしました」遠隔操作に集中するあまりに内心驚いた。

「お気になさらず、ところでこちらはどのくらいの信者の方がいるのでしょうか。仲良くなれるか心配です」お茶に異物があるため、飲むふりをする。

「あはは、たくさんいますので、すぐに打ち解けられる方もいるでしょう」


「洗礼を受けてみませんか?うちに入る方は全員やっていて気分がスッキリしますよ」

「それはどこでできるのですか?」

「案内いたしますね」男の目が光った気がした。


 男が前に立つ。すかさず、頭にビニール袋を被せた!!

酒は毒だ。

性も毒だ。

そして、この世こそ最高の劇薬である。

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