平等と不正解
人生とは最高の悪夢である。
ピカロはタコスを食べに来ていた。本格派を謳う店のはずが、バナナチップスタコスなどという邪道に走っていたのは個人的に悲しかった。
「はい。カルニタス」異世界出身の店主が山盛りのタコスを持ってきた。四人前はある。
「おい、これくそうめえや!テキーラ瓶で持ってきてください!」
【神経財団で行方不明者が出ました。伊勢階天成さん25歳は今年入社された………目撃情報をお持ちの方は……】
「チッ」情報をスキップする。ひと仕事を終えて休暇を楽しんでいるのに不快な名を聞いてしまった。
異世界原産のテキーラは希少性からえげつない価値がある。窃盗を働き、寿命を縮めることになったものがいたほどに。そんな上物をピカロは一口で、排水溝に捨てるように飲み干した。
「おえっ」
【朝バナナ、モーニングバナナ、バナ活。君も朝からバナ活】
情報の熱帯雨が頭脳に流れる。最近増えてきたアファトのミーム汚染だ。ミュートに切り替える。
「マスター、ごちです」帰還が近いので、早めに引き払った。
【朝バナナーー】
「バナナチップスなんて所詮は流行もの、定番にはなるまい」
天成は水でサプリを流し込んだ。友人は応援しているが、バナナチップスには飽きていた。ピカロに分身を消されてから、彼の精神は喪失感に覆われていた。一刻も早く、ピカロを理解せねばならないというのに。そして、高温が厭になり、薄着で暮らすようになった。コールドシャワーを浴びるので血行不良対策として、ビタミンEを取るように心がけている。アーモンドバナナチップスの袋はいつしかアーモンドに切り替わっていた。
天成は情報収集のためにそのまま分身するのではなく、ありふれた鳥を生成した。そもそも自分が二人いたこと自体が危うかったのだ。鳥はピカロ捜索のために羽ばたいていく。
しばらくすると酔いつぶれたのか路上で潰れているピカロを見つけた。これは千載一遇の機会だ。
「おい、てめえ起きているか?」天成はピカロの首にワイヤーを挿しこんだ。酒臭い。
「うぇ??!・・1!””!>?」
動かなくなった。手が痙攣している。運動神経がおかしくなったのだろう。天成はピカロを抱えたまま、再度鳥と入れ替わった。そして、鳥は消えて、誰もいなくなった。
自律スライムにピカロの肉体の隅から隅まで巡ってもらい、身体情報を抜き取った。
神経を丁寧に剥がして、情報読み取りを行う。神経財団所属時代に、破棄予定だった装置を密かに保管していたのだ。結果、およそヒトであることがわかったが、神人に類するモデルであることが分かった。コレクション欲が疼いたが、肉体は売ってしまうことにした。神経も加工してわからないようにするつもりだ。
自律スライムをピカロに変造させて尋問することにした。尋問は委託した。危険人物の身元を明かす体で依頼した。他人に頼むわけにもいかなかったので、低度の分身を作った。
「神人は唯一神を信仰する宗教に属するやつなのか。だが、この世界には神はいない。ピカロはパシリで六幻とかいう敵対者を消しにきたということだな。神人は人造人間で、それは製作者の力なのか不明だ、多くの転生者を尾行して六幻に似た自分を殺しに来た。成功したと誤解した彼はアジトに帰るまえに囚われた」アジトはシンジケートと言われている。神人の巣窟だからだな。
「シンジケートを潰そう」天成は平穏を掴むつもりで手をかざした。
「準備はできているな?おまえはこれから、ぼくと世代に残る偉大なる事業を創る。歴史は我らが足跡をなぞり、永劫の歓待を向けることになる」アファトは社員へ自己効力感の増幅と激励を通した洗脳に熱を出していた。
バナナチップス売り上げ増加に伴う大量生産を推進するため、アファトは雇用に力を入れていた。はたらかなくてもすべてが手に入る世界だが、進んで労働することは美しいといった考えも根強い文化があった。そのため、ある程度はヒトを集めることができた。機械化や自動化は標準化、平準化には強力だが、アファトは家族感を企業に求めていたため、ムダにみえるような雇用もやっていた。なにより少数で大金を稼ぐことに疑問を抱いていた。金より善といった気質が強い。しかし、善人であることは信頼を勝ち得ても、策謀をはじき返す万能の盾ではない。
「なに!?身元が転生者だから、危険と評する情報が流布されただと!?」
安全管理による高い品質保証や、産業規格に則ることを証明した書類を提示しても、煽られた恐怖を消し去るには足りなかった。
元々、第二期転生者が引き継いで保有していた病原菌による未知の流行り病や性病の拡大によって、被害を受けた原住民は転生者に大きなヘイトが向けられてた。それも、転生者の異なる知見から有益なものを創ろうといった活動家により、多少は良くなっていた。だが、新参モノが大成功を納めるのが気に食わなかった層もいたのか不買運動まで起きてしまった。
アファトは初期投資分の返済は済んでいたものの、雇用者への人件費未払いや、建設途中の工場を白紙にせざるを得なくなったことで生じた違約金に苦しむこととなった。信頼を取り戻さねばならないと強く感じたアファトは発信を続けた。返品によって大量に滞留した在庫は安値で下層世界に売ることにした。隠居するか、矢面に立ち続けるかを選ぶ必要があったが、後者一択だ。
シュリンプは肉布団に入りながら、安酒に耽っていた。いつのまにか特権企業に入った天成、大物になったアファト。比べるのも無意味だが、情けなさがあった。
【バナナチップスにはやばい菌が!??衝撃の事実に迫るーー】
【最新のタイパ最高風俗いってみた!!無限風俗編ーー】
【世界を裏で支配する神経財団、転生者受け入れには大いなる“陰謀”がーー】
【人生これでいい。ドーパミンソースでグリルをーー】
【行方不明のーー】
【ご遺族の神経売りませんか?あなたのーー】
「どこもくだらないね」シュリンプは情報を遮断した。隣で潰れているやつにションベンをひっかけて二度寝した。
人生を苦しめないものに朝陽は巡らず。




