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In the Magic Mirror

時は過ぎる。ただし、それが無差別であったとしても、決して平等を意味しない。

 夜は明ける。冷たい地表に恒星の光が降り注ぐ。


 そして、我らが主人公は熱が冷めるように目覚める。


「死んだな」手足をよく動かしてみる。


 分身を出したときから、本体はずっと眠っていた。動けないことはないが、情報過多を処理するのは厳しい。廊下を歩きながら、椅子に座り続けるなんて、デュアルディスプレイを両手で同時に動かすくらいに難しいのだ。


「ピカロ……常軌を逸していたな」


 無臭のベッドを降りると、朝食が用意されていた。そもそも、あまり食べる気分ではないが頂くことにした。サプリメントは口内に入れた瞬間に体内情報を得て、最適な外殻を作ることで良い溶け方をしてくれる。栄養の吸収も増減してくれる。そして、水。H2Oこそ世界が誇る異能と言っていい。肉体を持つ以上、栄養価から逃れられない。どこの世界でも同じだろう。好みの味が付けられた肉を喰らい、雑穀を吸い込むように食べる。生の野菜もふんだんに食べる。最後に独特の臭いがする卵を平らげると皿を片付けた。


 分身はしばらく止めよう。ピカロがまだいるかは不明だが、神経財団とも距離を置こう。とにかく、身を潜めたい天成であった。


 ふとアファトからバナナチップを試作したから試してほしいと連絡がきた。良い朝食のメニューになるかもしれない。多糖質な食品であることは推測がついたため、血糖値急騰を抑える食べ合わせを模索してやろう。


 トートイレから連絡が来ていた。辞めることは起きてすぐ伝えたから、その返答だろうか。


”人事が最近多いなどといっていたが、おまえもか!ワシの見込んだというのにもったいない…………”


 理由だのなんだの問われても、ピカロに殺されたからといっていいものだろうか?


 神経財団OBとしてのバッジが届いた。色々使えるらしいが、閉まっておくことにした。


 アファトは霹靂区に加工工場を借りるまでになっていた。バナナチップスを持っては回り、出資してもらったらしい。なにがそこまで駆り立てるかは理解しがたいが、バナナが美味しいのは確かである。

「あれか」

 アファト食品加工の看板。森の中にある古そうな食品加工工場だ。

 年季の入った内装に新品の機械が備え付けてあった。リースか?それでも高いだろうが、どれだけ売るつもりなんだろう。


 頭髪をキャップで覆ったアファトはバナナの臭いとともに現れた。

「よお!久しぶり、ぼくは今、新しいバナナチップスを作っている。ぜひ食べて」

 彼が指さした机には、山盛りバナナチップスと小分けされた無数の皿が並んでいる。これは壮観だ。

「結構、食にはうるさいけど、耐えられるかな?みせてみろ……これからおれの朝食となる食品の魅力のすべてを」昼食代わりとして色々試してみよう。


「これはおつまみとして燻製した醤油で味付けをしている、甘辛いぞ。これはシュガーバターで、それが香味と乾酪。そして香味海老。そっちは焦がしたキャラメル。あっちのは…………」

 横でアファトが色々言ってくるのには正直、辟易した。しかし、本気であることは伺えた。

「うまい、くどい、びみょい。悪くはない…………!?よ、よい……」

一枚ずつ食してみるが、千差万別。珠玉混合。しかし、鶏群の一鶴あり。すかさず、アファトがメモを取る。追加のものが運ばれた。

「シナモンなどのスパイスだ、つぎにローストカカオニブでまぶしたやつ、そして激辛」雑。

「いいね。これもいい。こいつはだめだ」アファトはメモを取り続けている。

「抹茶、ゴマと蜜、牛脂を注入したやつ」皿が押し寄せる。

 こうして、ひたすらに食べることになる。


 手元に残る大量の試作品をまえに、ついに天成の胃が限界となる。

「おい、さすがに食えないぞ」

 最後に小皿が置かれる。焦げたバナナチップスであった。

「おや?これは何だい?マニュアルより高温で揚げたような見た目だが」アファトの目が光る。

 そばにいた従業員?が詫びる。

「申し訳ございません!温度調整を間違えたものが混じっていました」

 若い衆が安全管理などで叱られる傍ら、胃もたれが落ち着いた天成は、口直しに酢の物バナナチップスを取ろうとしたが、間違えて高温のチップスを手に取ったが、気が付かないまま食べた。

「ーーほう」


「アファト、人生塞翁が馬だ」天成はアファトへバナナチップスを差し出した。

「うん?これが気に入ったのかい」アファトはそれを受け取り、食べる。

「おお」寄っていた眉間が解かれた。

「美味いぞ。大正解だろう」


 アファトはバリバナナとして、それを商品化した。口コミ形式で瞬く間に広がったバリバナナは結局、天成の朝食にはならなかったものの大成功したのであった。ただし、追加フレーバーの大半は鳴かず飛ばずに終わり、アファトは定期的に食い倒れ続けることになるのであった。


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