閑話 おかしな千鈴さん2
「千鈴さん、早く吸ってください」
私は今日も晴ちゃんと吸血をしていた。
何故か彼女は兎耳をつけたバニー服を着ている。似合っていて非常に可愛いが、何故そんな格好をしているのかは思い出せない。
「ねえ、まだですか? あまり焦らさないでください」
それに今日の彼女は妙に積極的だ。後ろにいる私に対して、背中をスリスリと擦りつけてくる。まるで背後から噛んで欲しいと言わんばかりのその行動に、私の胸がときめく。
「せ、背中からは嫌なんじゃなかった?」
「千鈴さんはお嫌ですか?」
「ううん、晴ちゃんが許してくれるなら是非!」
許可が出たのなら遠慮などいらない。いや、噛んで欲しいと懇願されているのだ。してあげない方が彼女に悪い。
「千鈴さん、千鈴さん……」
切なげに私の名前を呼ぶ晴ちゃん。振り返って私を見つめる瞳には、溶けるような熱がこもってる。
「晴ちゃんっ!」
鼻息荒く後ろから抱きしめる。そんなに誘われてしまっては、もう我慢などできなかった。
バニー服の剥き出しの肩に狙いを定め、噛みつこうとする。
だが、そんな気勢は予想外の闖入者にそがれることとなる。
「千鈴さん、私の血は吸ってくれないんですか?」
「は、晴ちゃん!?」
二人目の晴ちゃんが、後ろから私を抱きしめてきたのだ。
こちらの晴ちゃんは白いゆったりとしたローブのような服に身を包み、頭に天使のような輪っかがついている。
「そんな甘えるだけの晴乃と違って、私は千鈴さんを甘やかしてあげますよ?」
あまりのことにバニー晴ちゃんのことを一瞬忘れ、天使晴ちゃんに見とれてしまう。後ろから包むように抱きしめられるのもまた良い。
するとバニー晴ちゃんは私の方へ向き直り、彼女の方から抱きしめてきた。
「今は私としているんですから、他の人を見ては嫌です」
「次は私とですもんね?」
「ダメですよ!」
二人の晴ちゃんに前後から抱きしめられ、挟み込まれていた。
おしくらまんじゅうの如く、ギュムギュムと圧迫される。苦しいはずなのだけど、全く止めてほしくない。もっとして欲しい。
「そんな、どちらかなんて選べないからぁ。喧嘩しないでぇ」
建前半分、本音半分。
どちらかなど選べないし、喧嘩もしてほしくない。だけど晴ちゃん達が私を取り合ってるのは気分がいいし、二人が奪い合うように抱きしめてくるのは色々当たって、その、よい。
「ねえ、千鈴さん。好きだよ」
「私の方が千鈴さんを好きですよ。大好きです」
「後出しはずるいですよ。私の方が先に言いました」
「先とか関係ないです。好きです」
「私も好き、です」
彼女達は私の両側から耳の傍で、囁くように「好き好き」言ってくる。
頭に直接響くような声と、くすぐるような吐息が脳を揺さぶる。それに片耳ごとに交互に囁かれると、頭がどうにかなってしまいそうだ。喧嘩をしているようで、意外なところでコンビネーションがある。
「わ、私も晴ちゃんのこと大好きだよ」
「どっちが好きなんですか?」
「私ですよね?」
甘えてきてくれる晴ちゃんと、甘えさせてくれる晴ちゃん。どちらも同じくらい素晴らしいものだ。優劣はつけられない。
「選ぶなんて無理だよ……二人とも一緒じゃダメ?」
どちらも一緒に頂きたい。二人の晴ちゃんを同時に味わえるような、まるで夢みたいな状況はもうないだろう。可愛い晴ちゃん達を手放さないように、二人纏めて抱きしめた。
「仕方ありませんね」
「二人とも同じくらい吸ってくださいね」
彼女達も抱きしめ返してくれる。
幸せだ。本当に夢のようだ。
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「お嬢様は起きられましたか?」
「いえ、揺すっても呼びかけても起きませんでした。それに、なんか幸せそうにムニャムニャと寝言を言ってたので、もう少し寝かせてあげようかなと」
「まあ今日は休みですし、それでも構いません。また後程、いい時間になったら再度起こしに行ってください」
「わかりました」




