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第11話 外出したいです

 とある日曜日の昼食時。千鈴さんに誘われてお昼ご飯をご一緒していた。舞里さんと司さんも一緒である。


 食後の一服をしながら、雑談に花を咲かせていたときの事。


 舞里さんが随分と眠そうにしていた。


「満腹になって眠くなっちゃった?」

「うん、それもあるけど。……ふぁ。昨日ね、夜中まで友達と通話してたから、寝るの遅くなっちゃって……」

「ダメだよ舞里ちゃん、夜更かしって健康に悪いんだよ」


 自分の事を棚に上げている気もするが、彼女は健康的なので黙っておく。


「この後ご予定が無いのであれば、お昼寝してきてはいかがですか?」

「うん、……そーする」


 のっそりとした眠そうな足取りで出ていく。部屋まで送った方がいいと考えるのは過保護だろうか。


「そういえば晴ちゃんって、スマホ持ってるの?」

「持ってますよ」

「あっ、そうなんだ。普段まったく触ってるの見ないし……」


 ああ、確かに。仕事中や吸血中はスマホはまったく見ることがない。ほらとポケットから取り出して見せる。


「じゃあさ、じゃあさ、連絡先教えて欲しいな?」

「いいですよ。思えば交換していませんでしたね」

「うん、おうちに居るときは使わないからね。でもやっぱり知っておきたいかなって」


 ここに来てからほとんど外出していないので、スマホで連絡を取るという行為自体が考えの外だった。


「電話番号でいいですか?」

「それも教えて欲しいけど、もっと気軽に話せたら嬉しいな」

「わかりました、少し待ってくださいね」


 ひび割れた画面を操作し、昔に母とのやり取りに使っていたSNSを探す。


「晴ちゃん……そのスマホ、すごくぼろぼろじゃない?」

「ええ、そうなんですよね。前から反応も悪くなってきていて、使いにくいんですよ」

「いつも使う時に不便じゃない?」

「普段使うことがないです」


 連絡をする相手も、してくる相手もいない。


「私も全然多くないけど、友達とかは……」

「在学中はそれなりにいましたが、卒業後まで連絡を取る人はいませんね」

「……そうなんだ」


 千鈴さんは気まずそうな複雑な表情をしていた。これは気にしていないと言っても逆効果かもしれない。話を変えることにする。


「……そうですね、もう寿命でもありますし買い替えましょうか。これからは千鈴さんが連絡くれるみたいですし」

「えっ、うん、送る。いっぱい連絡するね」

「ほどほどにお願いします」


 いつ買い替えに行こうかと考えていると、静かに話を聞いていた司さんが口を開いた。


「であれば思い立ったが吉日と言いますし、今日これから行ってきてはいかがですか?」


 今すぐは……どうなんだろう。


「いいのですか?まだ仕事は残ってますが……」

「問題ありません。今日あなたは半休にしましょう」

「休暇ですか」

「むしろここに来てから働き過ぎなのです。住み込みだからと言って、ほとんど休みを取らないではありませんか」


 昼近くまで寝させてもらったり、十分に休ませて貰っていると思うんだが。

 しかし、ご好意を拒む理由も無いのでありがたく受け取ることにする。


「そこまで言ってもらえるなら、お言葉に甘えさせてもらいます」


 話がまとまった所で準備しようかと立ち上がると、急に千鈴さんも立ち上がる。


「晴ちゃん、お出かけするの!?」

「はい」

「じゃ、じゃあさ。……ついて行ってもいい?」


 折角の休日だ、遊びに行きたいのかもしれない。


「いいですよ。私のリフレッシュに付き合ってくれますか?」

「うん!」

「では後ほど玄関に集合しましょう」


 片付けは司さんが引き受けてくれたので、そのまま出かける準備のために離れ屋へ向かった。


 数十分後、私達は玄関へ集まっていた。


「……晴ちゃん、その、なんで?」

「何か変ですか?」

「変じゃないけど……街中まで行くんだよね?」

「もちろんです」


 中々要領を得ない。どうしたのだろう。


「その格好でいくの?」


 なるほど私の格好がお気に召さなかったらしい。


 上はジャージを着て下は短パン。ものすごくラフだとは思うが、そんなにダメだろうか。


「ほら、初めて一緒にお出かけするんだから。……もうちょっとお洒落してくれてもいいのに」


 そう言って拗ねた様子を見せる。しかし、むくれた顔は逆に微笑ましい。


 千鈴さんはいつにもまして可愛らしい服を着ている。モノトーンで大人しめだけれど、フリルが多めで襟のある丈の長いワンピース。派手ではないが品の有る紺色のショルダーバッグ。髪の癖毛も整えられて、まさにお嬢様と言っても差し支えない身なりだ。


 この隣を歩くには不相応な格好ではあるか。


「すいません。ですが、実はこれ以外の外出用の服を持っていなくて……」

「そ、そんなことある?」

「えっと、流石に家にはあります。こちらへ持ってきている分の話です」


 こちらへ住み込む際に部屋を見せてもらったら、家具など最低限の物があったため、家からは鞄一つ分の私物だけ持ってくることにしたのだ。


 実際それで事足りていた、敷地外へ出ることなど業務外では無かったし。屋敷内ではメイド服、自室では寝間着で過ごしていたため、服もこれで十分だと高をくくっていた。


「もしよかったら、私のを貸そうか?抵抗がなければだけど」

「抵抗はありませんし、それで千鈴さんが満足するのであればそうしますが……」


 改めて千鈴さんのつま先から頭のてっぺんまでを見直す。明らかに私よりも小柄で細い。


「千鈴さんのサイズでは私には合わないですよね」

「それは、そうかも。……じゃあさ、お姉様の借りよう!」

結花ゆうかさんのをですか?」


 長女の結花さんは大学生で、現在この家を離れて一人暮らしをしている。唯一直接話ししたことのない人だ。


「うん、お姉様は晴ちゃんよりも少し身長が高いくらいだし、昔のならきっと合うよ」

「それは悪いですよ。勝手にそんなことしたら怒られるのではないですか?」

「大丈夫。必要なのは全部向こうへ持ってってるし、残していってるのは私達におさがり用に残してくれた分なの。好きにしていいって聞いてる」

「そうですか。ですが姉妹間でのやり取りはともかく、無関係の私はまた別ではないですか?」

「もー、そんなに気にしなくてもいいのに……」


 顔さえ知らない人の私物を借りるのは気が引ける。


「じゃあさ、今から許可をとればいいよね?」


 そう言って、スマホを取り出すと気軽に電話をかけ始めた。


「……あっ、お姉様……うん、あのねお姉様が残していってくれた服……うん、そう。あのね晴ちゃんに貸してもいいかな……うん……その人。」


 身内だけあってか、ずいぶんと親しげに話している。


「えっ、今? ……うん、大丈夫……わかった、ちょっと待ってね。晴ちゃん、お姉様がお話ししたいって」

「私とですか?」


 貸してもらう立場でもあるし、挨拶はしておいた方がいいだろう。電話を受け取る。


「もしもし、初めまして八城晴乃と申します」

「君が晴ちゃん? 初めましてー、急に代わってもらってごめんね」

「こちらこそ急に不躾なお願いをしてすいませんでした」

「それって服の事?それなら本当に好きにしてもらっていいよ」


 電話口の女性は快活でフレンドリーな声だった。服の件もあっさりと承諾してくれる。


「それよりもさ、一度君と話す機会が欲しかったんだ。ちょうどいいタイミングだったよ」

「私とですか?」

「そうそう!あの千鈴ちゃんの献属になった子でしょ?噂は母から聞いてるよー」


 家族の献属にそんなに興味が湧くものだろうか。家族の知り合い程度の認識だと思うのだけれど。


「いやさ、本当にありがとうね。あの子に関しては私も母も気を揉んでたから、お礼も言いたかったんだよ」

「どういたしまして?」


 お礼に関してはピンとこないが、ここで謙遜する意味もないので受け取っておく。


「ふふっ、これからどっか遊びに行くのかい?」

「ええ、千鈴さんと街中まで行ってきます」

「そっかー、いずれゆっくりとお話ししたいけど、邪魔しちゃ悪いしここらで終わろうかな。千鈴ちゃんがそろそろ不機嫌になってはいないかい?」


 横を向くとまた千鈴さんがむくれていた。流石姉妹、離れていてもお見通しだ。


「お察しの通りでした」

「だろー? ……じゃあね、また今度遊びに行くから」

「ええ、またいずれ。服ありがとうございます」


 中々印象的な人だった。親しみやすくてつい話し込んでしまう感じの人。

 通話を終えたスマホを返すと、千鈴さんに袖を引かれる。


「もう許してもらったし、早くいこ。時間無くなっちゃうし……」

「そうですね、長話になってすいません。結花さんの部屋を知らないので案内してもらえますか?」


 個々人の部屋は細やかな勝手がわからないので、掃除は司さんが担当していた。最初に案内してもらった記憶もあるが、普段行かない部屋はあやふやだ。


「うん、こっち」


 ただ出かけるだけのことがずいぶんと遠回りになってしまった気もするが、先導する千鈴さんはずいぶんと楽しそうにしているし、まあいいかと思えてしまう。


 すっかりとメイドの習慣が染みついてしまったようだ。




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