60話目
全63話です
今回に限り「あゆみと瞳美」は曜日に関係なく毎日2話ずつ、18:00と18:10に投稿します(例外あり)
※特に告知していなければ毎日投稿です
瞳美は無事に着床して妊娠状態になったんだけど、妊娠が確定してから何度か通ううちに、
「少し月齢が遅い気がします」
と言われてた。もちろんあたしたちに出来る事はしたつもりなんだけど、お医者さんの説明によると、少し発育が遅いんだって。
でも、まったく発育していない訳じゃあないから、
「しばらくは安静にして様子を見ましょう」
ってなったんだ。あたしはフルタイムの仕事だから普段は家にいないから何とも言えないんだけど、瞳美には会社は少し休んでもらっていたんだ。
暮れも押し迫った十二月、街は明日のクリスマスイブで大いに盛り上がっている。そんな中あたしは会社で仕事をしていた。いつもは電話番は別の人がやっているのであたしは内勤をしているんだけど、
[プルルルル]
内線電話が鳴る。なんだろうって思って出ると、
[ご家族が倒れたらしい]
って聞いて。その日は[すみません、家庭の事情で早退させて頂けませんか]というあたしの気迫に押されたのか、
「あぁ、今日は帰って傍にいてあげなさい」
となった。あたしはその足で車に急いで向かい、荒っぽくドアを開けセルを回しながらドアを閉める。
ドアが閉まると同時に外界と閉ざされた静かな空間が生まれる。
そんな静寂の中で嫌な考えがぐるぐると頭を回る。
[倒れた? という事はお腹の赤ちゃんに何か起きたのか]
直ぐに車を飛ばして担ぎ込まれた市民病院へと向かう。
その病院は、この会社から車で十五分程度の場所にあるんだ。あたしは車を、いつもより早く走らせる。ワープとかできないのがもどかしい。
本来であれば隣の県の、あたしが診てもらっていたお医者さんにかかるはずなのだが、市民病院に担ぎ込まれたという。この街の市民病院は周産期治療もやっている病院だ。
という事は、やっぱり……。
病院の駐車場に、頭から突っ込むような形で適当に車を止め、ドアを勢いよく閉めながら走って正門玄関へと向かう。今日は昔でいうところの天皇誕生日だったんだけど、今は平日になっているんだ。だからあたしも仕事だったんだけど。
瞳美が入院しているのは、この病棟の三階という。エレベーターのスイッチを連打して押すが、目的のものは五階で止まっていた。今はそれを待つのがもどかしく、横にある階段で上まで駆け上がる。
受付で教えて貰った病室のある廊下にたどり着くと、すでに入り口が開いていた。
「瞳美!」
飛び込むように入室したあたしは一声をかけると、
「あゆみ……ゴメンね、ゴメンね……」
瞳美は泣きじゃくっていた。それを看護師が何とかなだめて彼女を処置室に移動させる。
あたしはというと、
泣きました。ただ自分がどうしようもなく無力な事が辛くて。あたしのせいだって何度も思ったよ。あたしが本当の男性ならこんな事にはって。
瞳美が処置室に移動するくらいのタイミングでお医者さんがあたしに近づいてくる。
「ご家族の方ですね、これから摘出処置を行います。そのためのサインをお願いします」
そう言うと、お医者さんは近くにいた看護師にあとを任せて処置室に向かう。あたしはまだ気持ちの整理がつかなかったんだ。だから、かな、お医者さんの、その事務的と言える対応に怒りを覚えたんだ。
あとを引き継いだ看護師が、
「こちらにどうぞ」
と言って、ナースセンターにあたしを誘導した。
「この紙にサインをお願いします。摘出手術の同意書です」
「これは?」
「これから行われるのは、いわゆる掻爬手術というものになります。麻酔もしますので痛みはありませんし、その日のうちに退院出来ます。ただ、手術をする際には何が起きるかわかりません。この書類は、事前に書かないといけない決まりになっているのです。本当は本人に書いて頂くのですが、ご家族であれば代筆が可能ですので」
あたしが険しい表情をしてたのを察したのか、医師とは反対に丁寧に説明する。
「つまり[何があっても文句を言うな]と?」
気が立っていて、ついキツい口調になる。
「簡単に言えば、そのとおりです」
看護師が申し訳なさそうに言う。
「わかりました、すみませんでした」
少し冷静になったので、謝罪をしながら同意書にサインをしたんだ。
手術は三十分もしないくらいで終わり、処置室から病室に戻される。
「手術は上手く進みました。麻酔自体はそんなに深くかけているものではないので、じきに目を覚ますと思います。起きられましたら先生から概要が説明があると思いますので、目を覚まされたらナースコールをしてください」
付き添いの看護師にそう伝えられ室内に入る。
全63話です




