3話:探索開始
ボクは、ゲーズルとの約束を交わした後、ゲーズルの屋敷前で待っていたルナを見つけて、今回の出来事を話した。
「あんたバカなのっ!?」
それを聞いたルナから雷の説教を喰らいながら、地下迷宮に向かって今に至る。
「本当、あんたといると退屈しないわ……」
ボクの隣を飛んでいるルナは、背中を丸めて、両手をだらりとさせながら、呆れるように言った。
「それ、ボクのこと褒めてないでしょ?」
「褒めるところ、そこしかないわよ」
「ひどいっ! 死にたくなるよっ!」
「ほらっ、無駄口叩く暇なんてないんだから迷宮に潜るわよっ!」
ルナの言う通りだ。
明日までにゲーズルに地下迷宮のアイテムを納めないといけない。
ボクは手提げに手を突っ込んで、青の宝玉を取り出す。
青の宝玉は任意の場所に移動できる希少なアイテムだ。瞬間移動するには欠かせない。ただし移動するためには、転送先に別の宝玉を設置する必要がある。
青の宝玉を使用すると、宝玉に青い閃光を放ち、一瞬、目の前が光に包まれる。
そして次の瞬間には、地下迷宮の最下層に到着していた。
目の前は真っ暗だ。ルナの銀色の羽の輝きがぼんやりと見えるくらいだった。
『灯せ 灯せよ 我らに光を――ライティング』
ボクは呪文を唱える。ライティング。暗闇を照らすための光属性の呪文だ。
呪文を唱えると、ボクの真上あたりに小さな太陽のような白い球体が出現した。その球体が周囲を明るくしてくれる。
闇に染まっていた迷宮の道が、目の前に伸びていた。
「相変わらず複雑そうな道ね」
ルナは率直な感想を言った。彼女の言う通りだ。
地下迷宮の道は非常に複雑だ。入ってきた闖入者を先に進ませないという強い意思を感じる。今まで踏破してきた道もそうだ。
左右に入り組んだ複雑な通路で、闖入者の方向感覚を狂わせて、そこへ槍の落とし穴、振り子の刃、地雷などの殺意の高い罠が、容赦なく仕留めようとしてくる。
死にたくなるなぁ……。
ボクは心の中でそう呟く。口にしてしまうとルナの説教されてしまうから。。
「行くしかないよね……」
ボクとルナは未踏のエリアに進めた。
耳を研ぎ澄ませ、肌と舌で空間の空気の流れを感じ、見えないところを見るつもりで視界を広げる。全神経を集中させながら、探索していく。
石造りの、通路、壁、天井に罠が仕掛けられていないか、警戒しながら歩いていく。
「ちょっと待てなさい」
ルナは、迷宮内を俊敏に飛び回って、先へ続く道を偵察してくれる。
「大丈夫みたい。こっちに来て」
「ありがとう、ルナ」
「感謝しなさいよね」
ルナがいなかったら、何度死んでいたことか。
そんなことを思いながらボクは探索をしていき、頭の中の地図を生成する。
ずっと地下迷宮を潜ってくる生活をしていると、頭の中で上面図を描けるようになった。記憶した地図は紙に書き写して、ゲーズルに提出することも仕事の一つだ。
頭の中の上面図は、全体の半分を埋まったような気がする。
まだボクたちは罠に直面しておらず、この何も起こらない探索が不気味だ。
「何もないわねぇ……罠が見当たらないのが奇妙だわ」
「ここには何も無いってことなのかな? できれば、宝石が欲しいんだけどなぁ……」
「”ゴーレム”がいれば一番手頃なのよねぇ」
ゴーレムは、地下迷宮にいる魔物だ。
横幅のある大男のような体型をしている顔のない泥人形。
敵がいないの動きはゆっくりとした鈍い動きだけど、敵を見つけると、ドスドスと音を立てて素早く近づいてくる。
ただし攻撃は泥の腕を叩きつけるだけの単調なものしかないので、それさえ気をつければ、対処は簡単である。
ゴーレムの体内には宝石が内蔵されており、それにヒビが入るような強力な攻撃を与えなければ、宝石を手に入れることができる。
「やっぱりアレを倒さないといけないかな……?」
「何いまさら怖気づいてるのよ」
「ボク、そもそも戦闘は得意じゃないし」
「それでもやるしかないでしょ……ほらっ、いたっ!」
とルナが指をさす方向に目を向けると、丁字形の通路の向かって右側からゴーレムが現れた。
「フロース、準備はいい? あいつを仕留めるわよ」
ボクは頷くと、腰に装備していたナイフを取り出して逆手に握りしめた。
迷宮を探索している限りは、こういった戦闘は避けられない。
ゴーレムがボクたちの気配に気づいたのか、身体を向けた。
戦闘だ。そう思った矢先だった。
「えっっ!?」
ボクは驚きの声を上げた。
僕たちから見て丁字路の右側から、黒い巨大な物体が勢いよくゴーレムに飛んできたのだ。
それを直撃したゴーレムは、あっけなく崩れ落ちた。
「ルナ、あれってなに!?」
「よ、よくわからないけど、あれは……斧?」
ルナの言う通りで、ゴーレムを打ち砕いた黒い物体の正体は斧だった。
ゴーレムを打ち砕いた黒い物体の正体は斧だった。
そして、斧が放られた方向からゴーレムよりも大きな何かが現れた。
「あれ……ミノタウロスよ!」
ルナは目の前に現れた巨大な魔物の正体に驚愕の声をあげる
そして、さらに最悪な事態が起こる。
背後から突然、岩が砕けたような派手な音が聞こえてきた。
ボクは音のした方向を振り返ると、思わず、つぶやく。
「死にたくなるなぁ……」
背後にもミノタウロスがいる。
ボクたちは2頭のミノタウロスにはさみうちにされていた。