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 今回大量発生したのは猪の魔物だ。こちらに一斉に突進してくるその姿は迫力満点。常に怒り狂ったように唸っていて、確かにこれは放っておけば町が崩壊するな、とシェイは納得した。

 ガイン達の住む町のBランク以上の冒険者は皆、今回の討伐に参加させられている。その多くが大群の規模に怯む中、臆することがなかったのは数少ないAランク冒険者達とシェイとリエラ、そしてダンとクロだけだった。


「アンナ、どうしよう、怖い」

「大丈夫、大丈夫よカミラ、ダン達が居るんだから」

「うちのお嬢様達は人使いが荒いなぁ、全く」


 ダンとクロは実力としてはAランク相当だ。ただAランクになると、問題が起こった時遠方まで強制召集される機会が増える。つまり、アンナやカミラと離れて動くことになってしまう。今の4人パーティーでやっていくために、ダンとクロはわざとAランク昇格試験を受けないという選択肢を取っていた。


「ダンと俺が必ず守る。二人は好きに暴れていい」 

「ひゅー、格好いいねぇ!流石、クロ程のイケメン様は言うことが違う。俺には到底真似できねぇよ」

「……クロ貴方……言う相手間違えてることいい加減気付きなさいよね……」

「?何か言ったか、アンナ」

「ううん、なんでもなーい」


 一方その頃、ガインの傍ではヘンリーがビビりまくっていた。


「……ひぇ。ガ、ガインさん、守って」

「ったく、いつまで経ってもガキだなテメェは。アンナ達よりは断然経験積んでるだろ」

「こんなん普通相手にしないんすよBランクは!」

「……ざっと千体位だな。よしヘンリー、百体以上殺ったら褒美をやる」

「え、それマジすか」

「……マジだ」

「っしゃ、やります」


 ころりと一瞬で態度を変えたヘンリーは、周りを気にせず一番最初に魔物の群れに向かって行った。ガインもニヤリと口角を上げてから、ヘンリーに続くように駆け出していく。


「……あーあ、あいつらイチャイチャしやがって。うーん、私も可愛く怖がれば良かったんだろうか」

「そんな無意味なことをされても困る……私はさっき、ギルドマスターから君がAランク以上の実力者だと聞いた」

「……やっぱ気づいてたかあいつ」


 リエラは恥ずかしげにポリポリと頬を掻いた。否定しないということは、事実なのだろう。


「君は剣を持っていないようだが、魔術師なのか?」

「ん?……魔術師兼、武闘家、かなぁ。今回は魔法で援護する」

「わかった。健闘を祈る」


 シェイはそう言い残して、魔物の群れに向かっていった。魔法で、自身を強化しながら。

 まず、シンプルな身体強化。次に痛覚の鈍化。最後に装備の硬度上昇。準備はこんなものでいいだろう。

 群れの最前線にぶつかるギリギリで地面を蹴り、シェイはふわりと軽やかに空中に跳び上がる。猪の魔物を見下ろしながら、シェイは即座に魔法を唱えた。


「よし──今だ」


 直後、空から降ってきた雷のような光がそれぞれ魔物達に直撃する。だがこれはあくまでも相手を軽く弱らせることしか出来ない。シェイは地上での戦闘に向け、愛用している聖剣を鞘から引き抜いた。


 落下の勢いを利用して、シェイはまずはと目の前の一匹を踏みつける。着地後、囲まれたシェイはぐるりと一回転しながら聖剣を振り回した。三匹同時に血飛沫を上げて倒れ込む。


「やるな、聖騎士様!」


 ガインが魔物を素手で放り投げながら叫んだ。と、その直後、ガインの後ろに別の魔物が突進してくる。


「油断するな馬鹿!」


 遠くからリエラの声がした瞬間、そこから火球が飛んできて、ガインの後ろの魔物を焼き尽くす。よく見てみるとリエラはそれと同時に、ランクの低い冒険者達の居る方の魔物の足を凍らせていた。

 いくら大型の魔物でも、身動きが取れなければCランク冒険者達でも狩れる。状況を的確に判断し、適切にサポートに回れるその能力に、シェイは正直驚いていた。


「嬢ちゃん助かった!……おいヘンリー、暴れるのも程々にしろよ。他の奴らに迷惑かけんな」

「えー、嫌っすよー。だって、ガインさんのご褒美欲しいもーん」


 大分余裕が出てきたシェイは聖剣で獲物を切りつけながら、今度はヘンリーの方を見た。


「ほーらほら、魔物サン、もっとこっちおいで?さぁ──俺の幸せのために、死んでください」


 ヘンリーはただの短剣使いだとシェイは思っていたが、どうやら少しだけ魔法も使えるらしかった。重力を無視して踊るように空中を自由に飛び回っては、魔物の首をダガーで刈り取っていく。


「あははっ、楽しいですね!ガインさん!」

「……あいつ、いつもあんだけやる気ありゃいいのに」


 ガインは呆れたように独り言を呟いていたが、その表情はどこか優しいものだった。



◆◆◆◆◆



 討伐の後、冒険者ギルドにて。シェイとリエラは宴会で改めてガイン達から感謝されていた。


「本当に助かった!ギルドマスターとして礼を言う。あんた達のお陰だよ、聖騎士様、嬢ちゃん」

「いえ、あなたとあなたのお弟子さんが一番活躍していらっしゃいましたよ」


 シェイはお世辞抜きにそう思った。千体程の魔物のうち、シェイが倒したのは100体にも満たなかっただろう。対してヘンリーやガインは、それぞれ150体程は倒していた筈だ。彼らを除いたとしても、貢献した順で次に挙がるのはダン達や他のAランク冒険者達だろう。

 因みにリエラは50体程しか倒していないが、他の冒険者が倒しやすいように手助けした回数は数知れず。そう考えると、自分は今回の戦闘であまり活躍しているとはいえない。


 シェイ本人はそうは言うが、実は一番冒険者達から感謝されていたのはシェイだ。回復魔法も使えるシェイは、消耗してきた後半戦では負傷者の手当てに当たることが多かった。重傷者が誰一人として居なかったのは、明らかにシェイの存在が大きい。活躍していないだなんてとんでもないことだった。


「ん?……弟子?もしかして俺のことっすか?」

「すまない、違っただろうか?てっきりそうかと」

「……えへ」


 ヘンリーは榛色の瞳にご機嫌な色を浮かべて、にまにまと笑った。不思議そうにシェイが見つめていると、ヘンリーはチラチラとガインの方を見ながら続ける。

 視線の先のガインは微妙な顔をしていた。


「えっとぉ、弟子っていうかぁ、親子っていうかぁ……もっと深~い関係っていうか?ガインさんは、俺の大事な──って痛い痛いガインさん足!!」

「っ馬鹿言うなこのクソガキ……!」


 ガインはテーブルの下でヘンリーの靴を思いっきり踏みつけた。弟子と親子はギリギリ認められるが、最後のそれは必要ない。ただ、ヘンリーとしてはそこも他と同じぐらい重要な部分だった。痛がりつつもどうにか続ける。


「いーじゃないっすかー、事実なんすから。ガインさんは、俺の大事な人っすよ」

「ヘンリーテメェ……そうやって意味分かんねぇこと言うのいい加減やめろっ」

「あっはっは、酷いっすね最高っす」


 ヘンリーはニコニコ笑いながら、「でもちゃんとご褒美はくださいねー」と嬉しそうに、コソコソとガインに告げる。


「おいおい、また痴話喧嘩かよ?本当に仲良いなぁ、あんたら」


 少し離れたテーブルからダンがやって来て、ご機嫌に肘でガインを小突く。手には酒を持ったままで、既に大分出来上がっていた。ダンはシェイの隣を陣取っているリエラを見て、お、と声を漏らす。


「嬢ちゃん別嬪さんだな」

「だろう?シェイには及ばんがな」

「ん?なんだ、騎士様の恋人か?」

「違います!」


 シェイが必死に否定すると、ダンはくっくっと低く笑った。冗談だったのだが、ここまで過敏に反応されると余計に冷やかしたくなる。ただ、昼間にリエラにからかわれまくりパンクしたシェイを見ているので、ダンはこれ以上のちょっかいは止めた。

 ターゲットを変え、ヘンリーにさっきの痴話喧嘩の内容を問う。


「何の話してたんだ?ヘンリー」

「……いやぁ、聞いてくださいよ!最近ガインさんあんま娼館行かなくなったじゃないっすか。でもこの人ってば、一週間ぐらい前に久々に行ったんすよ!恋人も作らないで何してるんすかね本当、こんな大人になりたくないっす俺」

「っ違っ、アレはシュ……フィラーネの奴を探しに行っただけで」


 文句を言うようなヘンリーの言葉に対して、ガインが言い訳をするように口を挟む。ヘンリーは呆れたような目をしていた。


「うーわ、いつも話してるお気に入りの子じゃないっすか。ガインさん、やーらしー」

「お気に入りじゃねぇ。ってかあいつは居なかったし、結局とんぼ返りして帰るハメになったってのに、何拗ねてんだ……」


 ヘンリーとガインがダンに話したのは、明らかに先程の話題と違う内容だった。シェイがそのことに戸惑っていると、ダンはシェイが下世話な話に嫌悪を感じたのだと思ったらしい。ジト目でヘンリーとガインを見つめる。


「あんたらマジで何の話してんだよ……騎士様の前だぞ……」

「──ちょっと、ダン!どこで油売ってるの!」

「うおっ」


 突然アンナが駆けてきて、ダンの腰に突撃するように抱きついた。後ろから続くように、苦笑いしたカミラが歩いてくる。ダンはご機嫌でアンナの頭を撫でるも、アンナは変わらずむくれていた。


「クロは隅で縮こまってるし、こういう時はダンが傍に居てってずっと言ってるのに!ほら、カミラも言ってやって!」

「まだこういう場は慣れないから、ダンが居てくれないと困るよ……私もアンナもお酒弱いし、初対面の男の人は怖いし……」

「おう、悪ぃ悪ぃ」

「そうやって謝っとけば許されると思ってるところが本当ムカつく!」


 ほら戻ってきて!とアンナに首根っこを掴まれたダンは、ずるずると引き摺られていった。残されたカミラはきまりが悪そうにガイン達とシェイの方を見つめている。


「お騒がせしてすみません」

「カミラが謝ることじゃねぇだろ。聖騎士様、ダンはいつもああなんだ、許してやってくれ」


 構いませんよ、と軽く返して、シェイは微笑んだ。聖騎士は堅実で謙虚な者が多いのは確かだが、ダンのようなタイプも居ない訳ではない。友人の一人を思い出して自然と口角が上がった。


「わ、ぁ……聖騎士様、笑った顔も素敵ですね……」

「あ、ありがとうございます?」

「昔絵本で読んだ姿にそっくりです。私、ずっと本物の聖騎士様とお話ししてみたかったんですよ」


 初対面の男性は怖いと言ったものの、カミラにとってシェイは特別だった。小さい頃一番よく読んでいた絵本のヒーローが、聖騎士だったからだ。こんな人と付き合ってみたい、なんて昔はよく考えていたものだ。カミラはいつになく饒舌にシェイに話した。


 リエラはそれを、面白くない気持ちで、離れた場所から見ていた。カミラはスレンダーな体型で、おっとりした雰囲気を纏っている。リエラとは真逆の、清楚で可愛らしい、シェイが好みそうな女性だ。

 カミラが純粋な憧れでシェイを見ているのが分かるから少し我慢してやっているが、正直とても羨ましい──そう考えていたところでちょうど、「……狡い」と隣からも聞こえてきた。


「ん?誰だ」

「……なに」


 そこには何故か、先程ダンを連行していった筈のアンナが居た。


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