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 龍なんてものが出てきてしまっては放っておけない。シェイ達四人はすぐさま情報を集め、ギルドのテーブルを囲んで話し合いをしていた。


「赤い瞳の龍って……もしかしてその、シェイさんが探している黒龍様だったりするんすかね……?」

「……いや、それは違うだろう。黒龍様は人間を嫌ってはいるが、自分に害が無い限り襲ったりしない筈だ」


 先ほど湖で釣りをしていた男性が襲われたと聞いた。彼は冒険者ではないらしい。黒龍が無意味に人間を殺すとは、シェイにはどうしても思えなかった──いや、思いたくなかった。


「……なんにせよ、町が危険に晒されてんのには変わりねぇ。情報共有と避難が最優先だ」


 ガインはそう言って、すぐに町にいる冒険者全員をギルドに集めた。シェイ達も協力したお陰で、さほど時間はかからなかった。


「急になんだ」

「珍しいよね、こういうの」

「ってか、ギルドマスター顔怖くね?」


 ガインはざわめき出した冒険者達の前に立ち、端的に状況を説明し始める。

 ──龍と言った途端一気に周囲がどよめいた。当然の反応だ、Sランク冒険者無しでは倒すなんて夢また夢の相手なのだから。


「正直なところ、今の俺達で出来るのは町の奴らが逃げるまでの時間稼ぎ位だ。それでも残るってヤツが居れば残ってくれ。勿論……俺は、行く」

「っおい、正気かよガイン!!」

「シュヴィアの奴が居ない今、この町で一番強いのは俺だ。龍と戦って勝った経験もある。異論はあるか」


 これは、半分本当で半分嘘だった。龍に勝ったというのは小さな個体だったし、一番強いのは──。

 正直、ガイン一人では勝算は無い。ただ、この後の流れによっては上手くいくという見込みがあった。


「っそれなら俺だって行く!」

「ダン!?やめて、無茶だよ!」

「落ち着きなさいよ!私達を置いていく気!?」


 ガインに着いていくというダンを、カミラとアンナが止める。同じようなことがあちこちで起こっていた。

 混乱を鎮めようと、またガインが声を張り上げる。


「大事な奴が居るなら来るな!死ぬ気はねぇが、百パーセント生きて帰れるとも言えねぇ。テメェで守らねぇといけねぇ奴が居るなら、来るな」


 それで、数少ないAランク冒険者が全員降りた。

 ガインと同年代の彼らは、皆妻帯者だった。もし自分が死んだ時、残された家族はどうなるのか。そのことを思うと、命を懸けて足止め役をするなんてどうしても出来なかった。


 ダンは独身だが、アンナやカミラの親のような存在だった。二人の少女は孤児院の出だ。二人は支え合い、冒険者になり、なんとか自分達で生きてきた。

 ただ、女性二人の駆け出し冒険者ということで柄の悪い男性冒険者に絡まれることも多かった。そこをダンが何度も助け、結果二人に懐かれ、面倒見の良いダンは行動を共にするようになる。そうしてダンとクロのパーティーとアンナとカミラのパーティーが統合し、今の形になった。

 ダンも、娘のように可愛がっている二人を置いていくなんてとても出来なかった。


「っ……悪ぃ、ガイン……」

「いい、何も悪いことじゃねぇよ」

「なら俺が」

「……クロ」


 俺が行く、そう言おうとしたクロの裾をアンナが掴み言葉を止めさせた。何故止められたのか分からずクロはアンナを見つめるが、アンナは首を振るだけ。


 アンナには、クロにどう言えばいいのか分からなかった。大切な仲間だから行かないで欲しい、というのは嘘では無いけれど、言葉としては弱い。ただ、クロが行くとなれば今度こそダンが止まらなくなるのは確かだったから。

 必死な顔をしたアンナを見て、クロは何も聞かずに志願をやめた。元々、この町に思い入れがあった訳でも無い。仲間と生きていく、それが一番大事だった。


「逃げるならさっさと逃げろ!町に危険を知らせて、出来るだけ遠くまで逃げるよう誘導しろ!出来ることなら、大規模な結界がある王都まで。あと、応援も!Sランク冒険者に依頼を出してこい!」


 急げ!とガインが叫ぶ。それを合図に冒険者達は一斉にギルドから出ていった。

 昨日の魔物の大量発生は、単純に生息域が町にまで広がり人を襲う危険性が高まるというだけだった。だから、王都から応援……シェイが来るのを待つ時間もあった。

 ただ、今回は違う。その龍は明確に意思があり、人間を殺すために動いている。猶予は無かった。


 自分も恐ろしいだろうに、冷静に指示を出しているガインの傍で、ヘンリーはただ立ち尽くしていた。結局ここまで、ガイン以外の志願者は居なかった。当然だ、Bランク以下の冒険者にとっては自殺行為に等しい。

 だから、引き留められないよう、ヘンリーは待っていた。


「ガインさん」


 拳を握りしめていたガインが振り返る。鬼気迫る表情につい怯みそうになったが、ここで退くわけにはいかない。ヘンリーは意を決して口を開いた。


「足手まといなのは分かってます。でも俺は、あなたに付いていきたいです」

「……」


 チッ、と小さく舌打ちの音が響く。やっぱり怒らせてしまった。けれどおそらく、面倒に思われた訳ではない。そういう人なのは分かっていた。ガインが自分を本当の子供のように大切に思っていることを、ヘンリーはよく知っていたから。


「ガインさん、お願いします」

「……ヘンリー」

「駄目って言うんですよね、分かってます。でもこれは絶対に譲れないんです。たとえ何度突き放されたって、絶対に離れたりなんか──」


 声を震わせないようにしながら、ヘンリーは必死で言葉を紡ぐ。少しずつ視界が滲んでいく。泣きそうな顔を晒すことを、今更みっともないとは思わなかった。


 ガインの琥珀色の瞳が一瞬、迷子の子供のように不安げに揺れた気がした。


「あぁもう、ごちゃごちゃごちゃごちゃうるせぇな。テメェは来い」

「え?」

「いくら言っても仕方ねぇことぐらい分かる。時間の無駄だ」

「……え」


 硬直したヘンリーをよそに、ガインは背を向けて歩き出す。向かったのは、シェイの元だった。


「……聖」

「私も行きます」

「即答かよ……まぁ、そうだろうと思った」


 そうじゃねぇと困る、と少し弱った声を出すガインに、シェイはやはりそうかと確信した。自分は行かなければいけない、と。


 シェイは、いくらガインでも一人では対応しきれないことに気づいていた。まだまだ自分は未熟者だが、今この場で言えば重要な戦力である自覚はある。ここで自分が抜けるのは、痛い。

 それに、ここで彼らを置いていくなんてシェイにはとてもじゃないができなかった。雰囲気や酒に後押しされた結果でもあるだろうが、彼らは初めて黒龍様の話をした人達だ。

 それと。


「嬢ちゃん」

「……なんだ」

「あんたは来るのか」

「は、何を今更。シェイが行くと言った」

「……助かった、聖騎士様」

「いえ……」


 ──自分が乗れば、リエラも乗る。それをシェイは分かっていた。リエラの実力は未知数だ。シェイ一人では心許なくても、リエラがいれば心強い。


「……その、あんたは黒龍サマのお仲間を相手することに躊躇いはねぇのか」


 不意に、ガインがシェイに尋ねる。シェイが怪訝な顔を見せると、返事をする前に「……いや、流石に野暮か」とガインは問いを飲み込んだ。本当に、心根の優しい人だとシェイは改めて思う。


「私は、私が守りたいものを守る……その力をつける為に聖騎士になったのです。人間だとか、魔物だとか、そんな些末なことはどうでもいい」

「聖職者とは思えねぇ発言だな」


 ガインは思わずそう言ったものの、ガインのあんまりな物言いに対してシェイが見せたのは、聖職者らしい優しい微笑で。

 シェイはまるで演劇の台詞でも読み上げるかのように、屁理屈を並べた。


「ご存知ないのですか?ギルドマスター。聖典にはこうあります。『正しき道を歩むものは皆等しく救われる』と」



◆◆◆◆◆



「あの、これ本当に居るんすか?龍の姿とか何も見えないんすけど」


 リエラを先頭にして、森の中を進む。目撃情報があった湖までもう少しといった場所だった。

 訝しげに言うヘンリーに、振り向いたリエラが釘を刺す。


「用心を怠るな。居るのは確かだ。シェイの話にあったように人化の魔法でも使って隠れているんだろう。私達を警戒しているんだろうな」

「気配も感じない」

「それは君が鈍いだけだ。残念なことに、私でも正確な位置までは分からないがな」

「奇襲仕掛けてくるってことっすか?ヤバ、一番雑魚な俺、初手でやられそう」

「いや、恐らくだが、最初に狙われるのは──」


 リエラが言いかけたその時、奥の木陰で何かが動いた。

 薄く靄がかかっていてはっきりとは見えないが──間違いなく、人の形をしている。


「え?にんげ……」

「んな訳あるか!アレは龍だ、っ、警戒しろ!!」


 リエラがそう叫んだ瞬間、シェイは走り出していた。


 その時のシェイは、何か考えていた訳ではなかった。もし黒龍だった時どうするかなんて微塵も頭になく、ただ確かめたい気持ちのままに動いた。

 シェイにとっての黒龍は、そういう存在だった。


「馬鹿!!危険だ飛び出すな!おいっ、シェイ!!」


 龍の仕業か、辺りに紫の霧が満ちる。シェイにはリエラの声は届かない。代わりに聞き覚えのある声が耳に入った。──シェイの大好きなあの声だ。


「──シェイ」

「……こくりゅうさま?」


 シェイが振り向くと、そこには長い黒髪の女性が立っていた。いつか見た黒龍の姿によく似ている。

 顔は霧に隠されていて、「久しぶりだな」と言う彼女の声は変わらず優しい。シェイは、心が一気に昔に引き戻されたような気分になった。


「ずっとっ、ずっとお会いしたかった……!どうしてこちらに?勇者はもう追ってこないのですか」

「詳しくは後で話そう。まずはそこの人間を説得してくれないか?どうやら人違いならぬ龍違いをされているらしくてな……私は人間を襲う気は無いんだが」


 そこの人間、と黒龍が指差したのは、シェイに続いて霧の中に飛び込んだリエラだ。シェイが咄嗟に黒龍の前に出て庇うと、リエラは片眉を上げる。


「退いてくれ。それが人を襲った龍だろう?」

「リエラ、彼女は黒龍様だ。別の龍がまだ居るに違いない」

「何を言っている、シェイ。そいつ以外の気配は無い。間違いなくソレが犯人──おい待て、今何と言った?」


 だから、とシェイがもう一度同じ言葉を繰り返すと、たちまちリエラの顔が険しくなっていく。

 辺りに立ち込めた薄気味悪い霧が、一段と濃くなったような気がした。


「ほう?……これはまた、酷なことを」

「……リエラ?」


 少し遠くで立ち止まったままのリエラの溜め息は、シェイの所までは届かない。ニッと不敵に笑ったリエラは今度こそ、確信を持って言い放った。


「もう一度言う、人を襲ったのはソレで間違いない。退いてくれないか、シェイ」


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