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リーレニカの壊れた世界  作者: 炭酸吸い
第二章(二日目)

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5話 悪意ある縁者達



「月ノ花の生花店が潰れた?」


 スラム街の一角。

 今は誰も使っていない廃工場に、〝おかしな組み合わせ〟の三人が集まっていた。


 簡単に言うと、奇術師に扮した男と、水着にパーカーを着た露出度の高い女。そして、高級そうな黒マントを羽織る、骸骨の杖を持つ男。


 彼らは、スカルデュラ家の縁者だった。


「ヴォルタス。報告しろ」

「はい」


 呼ばれた奇術師がシルクハットを取り、状況を説明する。


「パレードに派遣した〈ピエロ〉の報告によると、生花店へ侵入する黒服の一行を目撃したようです。恐らく、民間の暴力団員でしょう。造花店のミゲル氏とパイプがあるようです」


 奇抜な見た目とはかけ離れた言葉遣い。しかし、表情は仮面で隠れて伺えない。

 半分は泣き顔で、もう半分は笑顔という気味の悪い仮面だ。不穏な話題を出してはいるが、仮面の下は薄ら笑っているのかもしれない。

 それを、〈大蛇〉に座る黒マントが静かに聞いている。


 正確には、〝大蛇を模したマシーナ粒子の集合体〟。

 全身の青白い粒子が妖しく明滅しており、黒マントを支えるだけの確かな質量はあるようだ。

 反応を示さない黒マントに、ヴォルタスは痺れを切らし、再度口を開いた。


「いかが致しますか。アルニスタ様」

「キャハハ。そいつらベレッタがぶち殺してあげよっか。恩売っといた方が良いんでしょ?」

「五月蝿い。部外者は黙ってろ」

「ハア? ヴォルタス先生の血縁マウントうざいんだけど。そもそもベレッタ雇われだから部外者じゃねーし。なっ、そうだよなー旦那」


 水着パーカーの女――ベレッタ・レバレッティが愉快に笑いながら、木箱に腰掛け足をパタパタ揺らす。

 ヴォルタスの指摘した通り、彼女は雇われ兵――所謂(いわゆる)賞金稼ぎ(バウンティーハンター)だ。この国に訪れたスカルデュラ家の人間も、アルニスタと従者であるヴォルタスの二人だけ。

 少数で訪れているのは、スカルデュラ家の意向は無く、アルニスタの独断である証拠だった。


 そしてこのベレッタは、雇われ兵とは言えヴォルタスとは不仲らしい。

 先程から二人は、アルニスタを介して会話する傾向にある。

 アルニスタは「そうだな」と素っ気ない返事をし、大蛇の頭を撫でた。


「店はどうなろうと関係ない。欲しいのは高濃度マシーナウイルスだ」


 アルニスタの指が宙を薙ぐと、大きな布切れが独りでに動く。窓一面を覆い隠し、陽光を遮断する。廃工場を暗闇で包んだ。


 そこに、青白い光が浮かび上がる。

 テーブルに載せた、長方形のガラスケース。中には、ライトブルーの液体に浸した月ノ花を納めている。

 液体は月ノ花が放つマシーナ粒子が溶けた色のようだ。マシーナウイルスの動きが液体の中で可視化されている。

 無数の青白い粒子が、螺旋を描きながら幻想的に室内を照らしていた。


「これがあれば兵器型デバイスの試作は作れる。だが滅多に採取できる花では無いだろう。生息地も知っておきたい。彼女達の事を調べておいてくれ」


 アルニスタが月ノ花に目をつけた理由は、単に〈杖〉が高濃度マシーナ反応を捉えたからに過ぎない。

 そしてその見立ては正しい。

 月ノ花は、マシーナを原動力とするデバイスとすこぶる相性が良かった。

 月ノ花を格納したガラスケースと接続した杖は、以前の数段階上の効力を発揮するようになった。

 一つは、〈大蛇〉の構築。

 大蛇の頭を顕現させることは出来ていたが、こうして全身を構築でき、更に従える事ができるのは、持ち主の自我と取って代わる善性マシーナウイルスがガラスケースに納められたお陰だろう。


「月ノ花は思わぬ収穫だったな。それと――『花化』の状況も確認しておいてくれ。〝あの男〟は生物兵器の適性がありそうだった」


 青い大蛇を撫でるアルニスタに、ベレッタは小首を傾げた。


「男って?」

「部外者には関係無い事だ」


 邪険にするヴォルタスに「まあ待て」と制すると、アルニスタは答えてやる。


「お前にはまだ見せていなかったな」


 宙に指で何かを描く。

 マシーナ粒子が指の軌跡を追って、幾何学模様を形成した。


「〝縁接続(えにしせつぞく)〟」


 大蛇が尾を持ち上げ、レンズを作るかのように円形を象った。

 マシーナ粒子が膜を貼り――解像度は悪いが――シルエット状の人型を映し出す。

 全身が植物に覆われているような形をしていることは分かる。輪郭を映し出すだけで、極彩色に塗りつぶされた絵画のように見えた。


「これは?」

「被験者ですよ。多種のマシーナ性質を飼いならした成功作です」

「げ。この気持ち悪ぃ色マシーナかよ」


 ヴォルタスが答えたのは、アルニスタと関わらせたくないからなのか、主人に対する忠誠心の高さを示したかったのかもしれない。

 アルニスタは、思い出話をするように口を開いた。


「被験者名はスタク。彼とは貴族街で出会ったんだ」



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